すけーぷごーと?
高校時代の甘酸っぱい青春思い出に、少しスパイスが効いた友人との物語。
主人公の恋愛が上手くいくのやら、いかないのやら、さあどちらに転ぶのでしょうか?
ハラハラドキドキのストーリー展開は、作者次第、ヒロトの恋愛は多難です!(大笑)
入学式を四月早々に終え、やっと静かな学校生活に慣れた頃、そろそろ夏の風物詩であるスポーツ祭と文化祭を合わせた月姫祭がとり行われることになった。
月姫祭の名の由来は、月城学院と月姫学園の統合前から合同で行われていて、この名が付けられたということらしい。
因みに、学院は男子校で学園は女子校だったのだが、昨今の少子化に起因して、入学する生徒が激減したために、五年ほど前に合併したということだった。
どちらの学校も合併で困ることはなかった。互いに共学では無かったから、女子の制服は前と同じで済んだ。
紺のブレザーに紺を基調としたチェックのスカート、赤い紐リボンもそのままだった。
またそれは、男子側も同じで紺のブレザーにグレーのズボン、赤いネクタイは合併する前から図った様にお揃いだったように見える。何よりも合併して喜んだのは、制服代を払う親達だったのは言うまでもない。
☆
六限目が終了し、帰りのホームルームが行われる中、僕は授業に関心を寄せる暇はなかった。
それもそのはず、二年の女子の体育のたダンスが行われていたからだ。男ならこのダンスを見ないという選択肢は無いと思うし、まして、その中に憧れの人がいるのなら、尚更のことだろう。
僕の席はラッキーな事に窓際の一番後ろであり、友達からは思いっきり羨ましがられた。
「席を変わってくれ」というお願いも後を絶たず、この席の相場は昼食二週間分の食券代にまで跳ね上がった。
……まあ、それでも提案を蹴ったんだけどね。
当然といえば当然だ。
この席には位置的な有利の他、まだ沢山のオプションが付いていて、何方かと言えばそちらの方に値が付いたんだと思う。
この席の右隣は学年一、二の人気者である夕凪香澄の席であり、立地条件では一等地である。だから男子のみならず、女子からも羨ましがられた。
しかし、僕が夕凪さんに気があるという訳ではなかったが、譲る気持ちは少しも無い。
早弁も出来るわ、寝てても見付からないわ、など色々なメリットがある。
二年の天音みさき先輩の体操服姿を授業中に気にしないで眺められるのは、この席だけなのだから……。仕方ないよね。
香澄の事も多少は気にはなるのだが、気安く話し掛けるような過ちはしない。この席を利用して、お近づきになることも考えたが、いかんせんリスクが高い。ここはまだ大人しく目立たないようにしていたい。
そんな訳だから、自席に座っていると、ついつい自然と窓の外に目がいってしまうのである。
「では、みなさん異議はないですね⁈
なら、決定します。じゃあ、坂上紘人君」
「んっ?何でしょうか?」
「あなたの役はクラス全員の賛成により決定しました。異議はないですね?」
「へっ、ああ、それなら仕方ない」
まっ、クラスの決め事に逆らう訳にもいかない。
ここは大人の判断といこう。
「んじゃ、ヒロト本人の了解も取れたから、早速、慣れてもらおうと思うけど、みんなはどう?」
クラス委員長の峯岸ゆりはが妙な具合にハイテンション過ぎるのだが、周りのみなさんも意義がないようで、二つ返事だった。
そして、僕にとって衝撃の言葉がゆりはから言い渡される事になるのだが、その直前に柔道部の赤城と平田に両手両足をガッチリ固定され、口も誰か別の奴にに塞がれた。
一頻り悪足掻きを試したが、非力な僕には敵う相手では無い。多分、この二人のうち、一人だけでも簡単に負けるだろう。
ゆりはから言われてショックを受けた内容は、劇のヒロイン役を僕に押し付けるというものだった。
香澄というヒロインにうってつけの女の子がいる中で、この理不尽な決定は到底受け入れられない。だから、必死にもがき抵抗した。
暫くして、僕が観念して動きを止めたら、再び鬼畜と化した委員長のハイテンションな声が響き渡った。
「さあ、香澄の出番だよ」
「うん。わかった」
抑揚のない声は、私には無関係という気持ちなのだろうか。香澄はこいつらの仲間だったのだろうか?
「ヒロト君、これを飲んでください」
「えっ、いくら夕凪さんの言うことでもそれだけは従えません」
僕の一言で窓ガラス越しに見ていたほぼ全てのクラスメイトが騒ついた。
仕方がないといった顔で委員長がみなを呼び、円陣を組んでひそひそ話しを始めたと思うと、だいたい十数秒で散会した。
ここで僕の拘束は外され、委員長を始め、みんなに部屋の外に出てもらい、香澄だけが残り、僕の手を引いて窓際に連れて行った。
ホット出来たのもここまでで、まだまだ試練は続くのだろうが、香澄一人ならなんとかなるという妙な自信が湧いてきた。
というか、単純な話、逃げればいいと思ったのだ。
香澄が、おもむろに窓を開けると、初夏を思わせる草花の香りが優しげな風と共に僕らを包み込んだ。
二人だけになって、少し気が緩んだけど香澄の顔が真剣だったことで現実に引き戻された。
「ヒロト君、みさきちゃんの事が好きなの?」
「げふっ、な・な・な・なんで?」
「あっ、いや〜ぁ、君が私とかじゃなくて、いつもみさきちゃんのクラスの体育の授業をガチで見てるんだもの。なんだか悔しかったというか、もっと私にも感心を持って欲しかったんだけど……」
尻つぼみに声が小さくなり、香澄の声は風により掻き消された。
「えっ、みさき先輩の事が香澄さんにバレていたなんて思わなかったよ。後半は、風で良く聞こえなかったけどね」
「そう、なら単刀直入に言うね。ヒロト君がみさき先輩のことが好きみたいって、クラスのみんなにバラしてもいいのね」
「あっ、まって、いや、いや、まってください」
「なら、これを飲んでくださるの?」
香澄が手に持った錠剤を僕に見せつけた。
ああ、もどかしい。
クラスの奴らにオモチャにされるのなら、香澄の前で飲んでやる。
ええい、ままよとばかりに、香澄が手に持った錠剤を全て奪い取り、全部一気に飲み込んだ。
その後、僕が目覚めたのは二週間が過ぎた頃だった。