序章 ~勇真SIDE~
突然、意識が戻った。
覚醒しきった意識の中で、自分が床に体育座りになっているのを理解する。
不思議と床の冷たい感覚はしない。それどころか、ありとあらゆる感覚がない。
目を開けると、アルミ製の窓がまず視界に飛び込んできた。
動きにくい首を動かし、自分がいる場所の状態を把握する。
壁も天井も白い。壁にかかったデジタル時計は、「22:40」を示している。
窓には薄いカーテンがかけられ、布越しに外の様子がぼんやりと見えた。もっとも、真っ暗だったが。
それ以外に部屋にあるのは、簡易ソファとパイプベッドだけだった。これ以上はないってくらい、殺風景な部屋だ。
そのベッドには誰かが横たわっているらしく、わずかな盛り上がりを見せていた。
その人物の顔は見えないが、見なくてもわかる。
ベッドの右わきに吊り下げられた点滴が、定期的にしずくを落としている。
どのくらいの容態だろうか。きっと、軽傷じゃ済んでいないだろうが。
様子を見てみようとして、俺は自分の体が縛られたように動かないことに気づいた。
自分の体を見下ろす。そして俺は、すべてを理解した。
抱えた膝の上に頭を乗せる。そしてゆっくりと、何が起こったのか思い出そうとする。
もっとも、俺にはすべてがわかっているから、これは単なる時間つぶしだ。
アイツが目を覚ますまでの。
わずかな物音に顔を上げると、アイツが不思議そうに病室の中を見渡しているのが見えた。
アイツが俺を見る。そして何もなかったようにベッドに戻る。
そう、アイツに俺は見えない。
だって、俺は死んでしまったのだから……。
俺は再び回想に戻ることにした。
これは単なる時間つぶしだ。
アイツが俺に気づくまでの。