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夢を見た

作者: 大原妙子

夢を見た。

離れの濡れ縁にうずくまって目を覚ました時には、朧な残像と不安な余韻だけが纏わりついて、どんな夢だったかなんて覚えてはいないけれど。

けれど、夢を見た。

眠っている間に驟雨があったのか、軒を伝って雫が細くこぼれては天水桶にぽつりぽつりと波紋を広げる。

庭の濡れた緑は夕日を吸い込んで、鈍い光を湛えていた。

湿気を含んだ重い空気に、胸が圧されて苦しくなる。

喚いて手当たり次第物を壊して泣き叫んで行き当たりの人を罵り回って狂ってしまいたい衝動が、奥底からぐわっと湧いて、僕はどうしようもなくてますます小さくうずくまって啜り泣いた。

雨後の草木の匂いも、生垣の向こうから聞こえる子供の笑い声も、辺りの濃い夕焼けの色も、近所から漂う炊事の気配も。

周囲のもたらす感覚は僕を象る何とも馴染まずに通り抜けていく。

夢も、こんな感じだったような気がする。

身体から乖離した処で営まれる夢の世においても、疎外感を覚え、寂寥に打ちひしがれていた。

秋の口。日の暮れは肌寒い。

涙で冷えた頬を少し乱暴に拭って、羽織った襟元を掻き合わせた。

ぱたぱた、と幼い足音が次第に近づく。

次に訪れるであろうものの予感に、不穏な波風が凪いでゆく。

ーーなあにしてるの、

ふわっ、と小さな衝撃が僕の背中を包んで、ふくふくとした温かい腕が首元に回る。

眼下の紅葉の手の甲をそっと撫でながら、その柔らかさに再び視界が潤みそうになった。


ただのうたた寝だった。

茜の差し始めた空を見上げながら、終わりつつある一日に穏やかな思いを馳せていた時の、束の間の眠りだった。

取るに足らない、些細な夢だった。

それだのに、こうも泣きたくなるのは、きっと季節の愁いのせいだろう。

せわしなく浮きつ沈みつする秋模様にちょっと苦笑しつつ、背後を振り返って小さな甥っ子をぎゅっと腕の中に抱き入れた。




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