夢のような毎日(いとこside)
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たくさんの方に読んでもらえているようで、感動です!!
あれから俺は大人の人と女の子の家に引き取られることになった。
父さんはあの人が俺にしていたことを知らなかったらしく、「すまなかったな」と謝ってくれて、頭も撫でてくれた。父さんには嫌われてなかったのだと思うと、なんだかほっとした。住む場所が変わることについては、俺も女の子の傍から離れられなくなっていたし、ちょうどよかったと思った。
父さんには嫌われてないってわかったけど、仕事の邪魔にならないようにしなくちゃいけないからずっとは傍にいられないし、俺の傍にずっといてくれて守ってくれそうなのは今の俺には女の子しか思いつかなかったから。それでも「もういらない」って突き放されたらと思うと不安で落ち着かなくて。俺はずっと狐の状態のまま女の子にしがみついていた。
引っ越しは、俺の身一つで終わった。
お気に入りのおもちゃや好きな本なんかは全部会ったことも無い弟の元へと持っていかれてしまっていたし、あの人の名残が残っているものを持っていきたくなかったから。
服だけは後で父さんの指示の元俺に好意的だった使用人の人が運んできてくれるらしい。弟に会えなくなるから寂しいかと聞かれたけど、そもそも一度も会ったことが無かったから寂しいと感じる以前にどんな子なのかも知らなかった。俺はそういう旨のことを伝えて首を横に振った。女の子のお父さんだというその人は悲しそうな目をして俺の頭を撫でてくれた。女の子のお母さんだったらしいあの客室に来た大人の人はぎゅっと俺を抱きしめてくれた。
女の子は俺を気遣いながらも俺が今いる部屋とは別の場所に行ってしまった。女の子がいなくなってしまって心細かったから抱きしめてもらえたのも撫でてもらえたのも嬉しかったけど、やっぱり女の子がいないと不安だった。
女の子が帰ってきて、今までの緊張が解けて、どうにか保ってきた人のカタチが崩れて狐の体のまま飛びついた。女の子は「わっ」って驚いた声をあげたけど、俺のことを抱きしめてくれた。知らない匂いがして、ちょっと胸がむかむかしたから手にあぐあぐ噛みついてみたけど、女の子は不思議そうに「おなかすいてるの?」だなんて見当違いなことを言ってきたから諦めた。
―俺以外を撫でて欲しくないのに。
考えたことが口に出ていたみたいで、女の子は「ごめんね」と言って俺を抱きしめてくれた。
その日から、俺は女の子―ゆまといつも一緒だった。おひるねやひなたぼっこ、おいかけっこなんかをして遊んだ。だんだん人のカタチをとるのにも慣れてきて、おそるおそる抱きついてみたけど、ゆまは楽しそうに笑いながら「ぎゅーっ」って言いながら抱きしめ返してくれた。
胸がふわふわした。
しあわせ、だった。
ゆまは俺が狐でも人でも変わらずに接してくれた。俺のことを抱きしめてくれるし撫でてくれるし「だいすき」って言ってくれる。あったかくてここちよくて、どろどろに溶けてしまいそうなほどの安心感。ほっぺとほっぺをくっつけてすりすりしたら、「くすぐったいよ」って言って笑った。
手を繋ぐことが増えた。
「人」でいる喜びを知った。
狐でいたらできないことがいっぱいあるんだと知った。
ゆまと抱きしめあったり、手を繋いだり、一緒のテーブルでごはんを食べたりなんかは狐のままだとできなかった。まだまだ慣れてないから疲れてゆまによりかかって寝ちゃうこともあるけど、ゆまは「がんばってるからだね」って言ってくれた。ゆまはいつだって俺を否定しなかった。だからこそ、もっとずっと長い時間傍にいたくて、俺は人のカタチに慣れられるよう、必死になって訓練した。
ゆまは「えらいね」って撫でてくれたけど、ゆまを俺から引き離すおじさんは「それしきのこともできないのか」って鼻で笑ってきた。悔しくなって一層訓練を頑張ったけど、後から聞いたらおじさんも俺と同じで狐になっちゃう人だったらしい。ゆまに撫でられながらドヤ顔してきたのはむかついたけど、俺を馬鹿にしたり蔑んだりしてるわけじゃないことを知って、なんだか不思議なきもちになった。
ゆまのおかあさんが「お父様ったら大人げないわぁ」なんて言いながら微笑ましそうに俺たちを見てたから嫌な人ではないんだろうけど、ゆま絡みだと多少おバカなことをしているらしかった。
「おしごともしなきゃ『めっ』なのよ?」
ゆまにそう言われてしょんぼりしているのを見たときはちょっと胸がすっとした。
ゆまたち家族と過ごす日々は穏やかだった。
あったかくて、心地よくて。このままずっと、こんな時間が続けばいいと思っていた。




