初めて赦された気がした(いとこside)
5000アクセス突破です!
まだ書き溜め分がありますが、今書いているところでエピソード移行がちょっとうまくいかない感が…。一度更新停滞するかもしれません。
「寄らないで頂戴」
「触らないで。汚らわしい」
「汚らわしい『狐憑き』の子」
伸ばした手は、払われた。
話しかけようとしても、いないものとして扱われた。
悲しくて、苦しくて、痛くて。「狐憑き」だなんて、言われたくないのに、俺は人間なんだよって言いたいのに、感情に振り回されて人のカタチもまともにとれなくて。
「化け物」
「惣火の恥さらし」
「呪われた子」
冷たい目。その目から逃げるように身体を縮こまらせても、狐になってしまった途端哂いが降ってくる。
「う、あっ」
俺は。
声をあげるのを諦めて。
言葉を交わすのを諦めて。
せめて、傷つけるのなら触らないでと、身を縮め続けることしかできなかった。
そんなある日、俺はあの人に引きずられて客室に通された。
客室は苦手だった。どんな対応をとっても対応中に散々いじめられるし、終わった後には今まで以上に辛く当たられるからだ。
だけど、今日は、あの人は俺をおいてさっさと出て行ってしまった。
怖くて顔があげられない。
俺を守ってくれる人はどこにもいなくて、あの人がいてもそれは変わらないはずなのに、なぜか心細さが増した。膝の上できゅっと手を握る。―落ち着かなきゃ。お客さんの前で狐になってしまったら、また酷いことを言われてしまう。
「郡くんよ、ゆまちゃん」
かけられた穏やかな声に促されている気がして、俺はそうっと顔をあげた。
小さな、女の子がいた。女の子は俺を見た瞬間目を見開いた。
あぁああぁあぁああ。
やっぱりやっぱり俺はいらなくて、汚くて、だめな存在なんだって思ったら感情が抑えきれなかった。狐になった身に向けられる視線が怖くて、顔をあげたら軽蔑の視線が待っていたらと思うと恐ろしくて、身を丸めてぶるぶる震えていた。
「えっ?!」
「あらあら」
だけど、耳に入ったのは驚いたような声と、のんびりとした声。
―怒って、ないの?
そうっと顔をあげると、ばちりと目があってしまった。驚きと、好奇心。いやなモノなんて全然含んでないきらきらした目が、こっちを見つめていた。目が逸らせないでいると、突然視界が遮られてしまった。
「かわいいっ…!」
その言葉に、抱きしめられているのだと知った。
おかあさんがいなくなってからは、初めてだった。あったかくて、安心できて。泣きたくなるくらい嬉しくて、胸が苦しいくらいだった。
『おれ、…かわいい?』
「うん!すっごくかわいい!」
女の子は淀みなく答えた。
嬉しそうだった。
「化け物」で「呪われた子」で「狐憑き」な俺を、愛おしそうに抱きしめた。
『…へんじゃ、ないの?』
「なにが?」
不思議そうな声をあげて、女の子は俺の頭を撫でた。その手つきの優しさが心地よくて、くるるるる、と喉が鳴った。
「ふふふ」
女の子は楽しそうに笑って、顎の下を撫でた。何も考えずにこのまま身を委ねてしまいそうになって、安心感にぼろりと涙が零れた。ひっく、ひっくとしゃくりあげさえし始めれば、どうやらさすがに女の子も気づいたらしい。
「え?え?なんで??」
『だってぇええぇっ!!おれいらないこっていわれてたもん!!かわいいなんていわれたことないもん!!うわぁあぁああんっ!!』
泣き叫びながら、ぐいぐいと女の子の腹辺りに顔を押し付ける。おろおろしながらも女の子は慰めるように頭を撫でてくれるから、俺は余計に涙が止まらなくなった。
「じゃあ、郡くんを引き取っちゃいましょうか」
大人の人が、いたずらっぽい声で言った。
思わず顔をあげると、大人の人はすごく綺麗な微笑を浮かべていた。




