視線(side高坂)
前回、前々回の御上土の発言でわかりづらかった部分の補足的なところと、フラグを一つ。やったね作者!展開が進んだよ!(おい
※追記 題名がややかぶってるかな、と思ったので変えました。(05.19)
驚いたような。はたまた、納得したような。
普通科の生徒たちの様子が最近おかしかったのは知っている。
同じ教棟なんだ、カリキュラムの都合上授業なんかの予定が全くかみ合わなくたって顔くらい合わせる。況してや俺たちみたいな大型の獣の姿に変わる獣人たちは身体を武器にする分、他の奴らより獣よりだ。いつもと違う雰囲気を纏っていれば、なんとなく何かがあったのかと察せられる。
教棟ですれ違う普通科の生徒たちは、苛立ちと不満を抱えていた。
それは奴らにしては珍しい感情だった。
抑圧され迫害され、悲しみと苦しみに喘ぎながらも「認められ得る何か」なんて見つけられなくて、何をされたって諦め続けている。それが普通科の連中だった。
「兵力」として役立てるほど大型でもなく、より強く忌み嫌われる旧家のように属性魔法が使える訳でもない。
自分たちは人間に近い見た目をしているのだと、それでも人間にはなれないのだと、分かりきった言葉で慰めにもならない慰めを繰り返すしかない、そんな連中だった。
そこに「不満」など現れる隙すらなく、「苛立ち」など抱けるほど自分たちを高等に思えることもなかった連中だった。
普通科の生徒でさえも負の感情を抱くほどの輩であったなら、いくら仲間であるといえ、あの矜持の高い魔法科の連中が我慢などできるはずがなかったんだろう。少なくとも、普通科・特別科の合同教棟並には綺麗であったはずの教棟が、見事に瓦礫の山と化しちまうくれぇにはお怒りのようだ。
「予想通りって言えば、予想通りだったけどねぇ」
惣火郡が苛立たしげに髪をかきあげ、溜息を吐き出した。
幸い暴れてんのは一学年に留まるらしい。
自分の身すら守れねぇ一年や、加勢しかねない三年がいなかったのは不幸中の幸いか。それとも矜持の高い奴らが他者を巻き込むことを嫌ったのか。
まあ、自分には関係ないことだ。どうでもいい。
ゆまと御上土がなにやら話し合っているが、正直こんな中ゆまを乗っけて駆けるのは勘弁して欲しい。自分一人で特攻かけるんならまだしも、人を庇いながら駆けるなんて高等な技術なんざ身に付けてねぇ。それに、教会主義な魔法科の輩相手だ。あからさまな獣人なんて見ただけで殺気だっちまうだろうに。
どうやら話し合いの結果御上土が属性魔法で高台をぶち上げてゆまが広範囲に魔法無効化呪文を振りまくことに決まったようだった。ゆまはともかくとして、御上土は魔力が持つのか?と俺も思ったが、奴は家の名を根拠にあげて強がった。
さすが家至上主義の独立派だな。傲慢で尊大だ。
「やせ我慢じゃねぇならいいが。俺はゆま以外庇わねぇぞ」
「そのためだけに呼んだんだからゆま守るのは当たり前じゃん。何考えてんの?」
「だけ」という言葉を強調して惣火郡が噛みつく。
それくらい分かってる。
俺は咄嗟に回避行動が出来ないであろうゆまの護衛のためだけにここに呼ばれていて、本来ならば必要なかったはずのヤツだ。この場に立つに必要な役職があるでもなく、場を鎮めるのに必要な能力を持っているでもない。
分かっている。―が、見下したような言い方に腹が立たないと言ったら嘘になる。
口から飛び出しそうになる罵倒を押しとどめ、むっつりと黙り込んでいるといつのまにかあちらの方の打ち合わせは終わっていたらしい。
「―いくぞ」
「ええ」
目を合わせ頷きあったゆまと御上土は、まるで長年連れ添ってきた相棒のようにぴったりと息が合っていた。
「―鎮まりなさい、」
呪文のようなそうでないような言霊が、その場にいる全てのモノの動きを止める。
常ならばふらふら動き回っているはずの精霊までその動きを止めたからか、さっきまで戦場さながらの騒がしさを振りまいていた場が、一気に静まり返った。
「普通科・特別科を担当する生徒会だ。これ以上治安を乱すと言うのならば、我々が助太刀に入ることとなる」
ゆまが一歩下がり、譲られた空間に御上土が踏み込み、堂々たる様子で静かに宣言した。
「鎮圧」という言葉はその管轄を受け持っている治安維持部隊にのみ使える言葉だ。
例外的にもう片方の治安維持部隊に協力を仰ぐこともできるが、協力は所詮協力に過ぎない。魔法科を受け持っている訳でもないゆまや御上土たち治安維持部隊が勝手に鎮圧を行えば、そういった決まりや制度に口うるさい魔法科は怒りを再燃させかねなかった。故の、魔法科の治安維持部隊に対する「助太刀」宣言だったわけだが…。
大多数の生徒がどこか崇めるように恍惚とした様子でゆまを見つめている以上、杞憂であったような気がしなくもない。
緊張で強張った顔。不安に伏せられた瞳。
普段バカみてーに笑ってて気づかないが、表情をなくしたゆまは常のような愛らしさはなく、どちらかというと儚げに見えた。
一種の詐欺だろ、とすっかり崇拝モードになっている大衆をざっと見渡して、視線を逸らした。こいつらは崇められりゃなんでもいいのか。
その時、ただ一つ、憎悪と殺気に塗れた鋭い視線がこちらに向けられているのを感じた。
ゆま以外の輩が獣人であるとバレでもしたか、とちらりと窺えば、そこには顔を般若のように歪めた女がいた。
女は、一心にゆまだけを睨みつけている。だからか、こちらの観察するような目にも気づいていないようだった。
ちらり。
視線を向ければ、惣火郡は、話は後だとでも言わんばかりの視線を寄越してきた。どうやらあの女には何かがあるらしい。
「っ魔法科、生徒会、だっ…!」
焦ったような、切れ切れの怒鳴り声。
教会の、三家だったか。
一体なにをやらかしたのか。あまり目立たない場所にいるといえど、教会の頂点に限りなく近い場所に位置するはずの三人が駆け付けたにもかかわらず生徒たちはざわめきもしなかった。
教会三家、まだほとんどしゃべってない(震え声
次回はしゃべる、…はず。次回しゃべらなくてもその次では、しゃべる…はず。
うん。近いうちにしゃべるはず。…うん。




