いとこ
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本命もふもふのいとこくんがでてきました!もふもふ!!もふもふ!!
私の、いとこ。
告げられた言葉に固まっていると、郡くんはぷるぷる震えながら、ぱっと姿を消した。
「えっ?!」
「あらあら」
狼狽える私に母は呑気なもので、口元に手を当てて穏やかに笑んでいる。ちょっとそんな場合じゃないでしょ?!きょろきょろしていたら、よくよくみたら目の前に紅褐色のちいさなもふもふが丸まっていた。
ばちり。目が合う。
へにょりとしおれた耳。ぷるぷると小さく震える身体。うるうると今にも涙が零れ落ちそうな瞳。
がまん、できなかった。
「かわいいっ…!」
目の前の小さなもふもふをぎゅうっと抱き締めた。驚きすぎて抵抗もできないのか、もふもふは大人しく私の腕の中に納まっていた。
『おれ、…かわいい?』
「うん!すっごくかわいい!」
『…へんじゃ、ないの?』
「なにが?」
頭をなでなで、耳の後ろをかりかり、顎の下をわさわさ。次第にリラックスモードになっていったもふもふは、なぜか唐突に泣きだした。
「え?え?なんで??」
『だってぇええぇっ!!おれいらないこっていわれてたもん!!かわいいなんていわれたことないもん!!うわぁあぁああんっ!!』
えぐえぐ泣き続けるもふもふとどうすればいいのか分からずおろおろしている私を見て、お母さんは穏やかに微笑みました。
「じゃあ、郡くんを引き取っちゃいましょうか」
すがすがしいほどの笑みに、最初から計画されていた邂逅だったのだと、私は遠い目になりました。
***
あれから小さなもふもふ―もとい郡くんは獣化したまま私にべったりと張りつき続け、お母さんが後ろにブリザードが見える穏やかな笑顔で最初にお部屋にいた厳しい顔をした美人さんを論破して半ば無理矢理郡くんの養育権をもぎ取りました。
どうやら厳しい顔をした美人さんは郡くんのお母さんが亡くなった後に入ってきた後妻というヤツらしく、自分と血がつながっていない、というのもあって必要以上に郡くんに攻撃的だったそうです。当主様や郡くんに同情的だった人のお願いもあって、郡くんはすんなりと我が家行きが決まってしまいました。
そして、当の郡くんですが、お母さんが凄まじいブリザードを出している時に、郡くんは私の腕の中で子狐状態になってすやすや眠っていました。
おそらく色んな意味で力が抜けてしまったのでしょうけれど、私がびくびくしてる時に幸せそうに寝ていたのには少しむかっとしたので帰りの車で思う存分撫で繰り回してやりました。本人も嬉しそうだったので別にいいでしょう。
お父さんは急な事態に驚いていましたが、郡くんの置かれていた現状を聞くとぷりぷり怒っていました。さすがお父さんです。というか、お父さんに話を通さないうちに決めてしまうお母さんもある意味さすがと言えるかもしれませんが。女の人って、強い。
ともあれ、お父さんもお母さんも人当たりのいい人たちなので、しばらくすると割とあっさりと郡くんと打ち解けて、郡くんも楽しそうにしていました。情緒不安定なままだと獣化のコントロールが歪になってしまうそうですが、本邸と呼ばれるあの豪華なお屋敷にいたころより私たちのおうちに来てからの方が安定しているそうなので、きっとお母さんの行動は正しかったのでしょう。私たちのおうちに慣れてくれたのでしょうか。しばらくすると郡くんは少しずつ、人の姿をとれる時間が長くなっていきました。
―獣化が安定してなお、私にべったりでしたが。
どうやら郡くんにとって自分の存在を始めて肯定してくれた私という存在は非常に尊い存在であるらしく、獣化が落ち着いた後も人型・獣型の姿を問わず私にべったりになりました。幼子といえ男女で必要以上にべたべたするのはあまりよくないかもしれませんが、寂しがっている郡くんを無碍にする理由もありません。私と郡くんは実のきょうだいのように仲良しになりました。
ただ、あまり構って貰えなくなったおじいちゃんが我が家に襲撃をかけては、体毛をぶわっと膨らませながら郡くんを恨みがましそうな目で見てくるのはちょっと大人げないと思いました。
郡くんと違いおじいちゃんは獣化後の身体が大きいので、実は、小さな私はおじいちゃんを撫でるだけでも一苦労だったりします。対して、体の小さい郡くんは私の腕の中にすっぽりで、なでなでされながらお昼寝タイムなんてこともありました。どうやらおじいちゃんはそれが気に入らなかったようです。
仕方がないので後日お母さんに頼んでブラッシングさせてもらったところ、即座に機嫌を直しドヤ顔で郡くんを見ていました。やはり大人げないです。可哀相になって、私はしゅんとしてしまった郡くんを抱きこんで力の限りもふもふなでなでしてあげました。おじいちゃんがまた恨みがましい目を向けました。むげんるーぷ、という言葉が脳裏をよぎりました。
そんな穏やかな暮らしの中で、私はいつしか、いとこである郡くんが大切になっていきました。だから私は、この世界がもし万が一乙女ゲームだった場合には、全力でトゥルーエンドを避けることに決めました。もしものもしも、万が一億が一にも郡くんが誘拐されたとしても、廃人になってしまうまえに最悪物理的にヒロインさんを殲滅して助け出せばいいのです。まずは家庭教師を付けてもらわねば。
「おかあさま。おはなしがあります」
前世らしき記憶を思い出して二年。―私が五歳になった頃のことでした。




