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もふもふ!  作者: min
高校編(二年生)
48/51

反乱(nonside)

書きあがったので投稿。当初考えてた展開と全然違って作者もびっくりです。着地点が少しずつずれるとこうなるんだね…。プロット何回手直ししただろう(白目)

「っくそ!魔法科二年が総出で暴れてやがるっ…!」


 三年は実習で出かけており、一年は幸いにも今日の最後の授業が教棟とは離れた訓練場で行われたためまだ帰ってきてはいなかった。それを分かっているからか、生徒たちはやりたい放題に暴れまわっていた。


進んで感情のままに魔力を解放し暴れまわる様は、まさに暴走であった。


 その感情の昂ぶりを鎮めんと今代の治安維持を任された三家は駆けまわるが、原因がはっきりしない上に魔法で攻撃されて遠ざけられてしまうがために聞き出すことも容易にはできず、結局隙を突いて一人一人意識を刈り取っていくしかやりようがなかった。


「ちくしょうっ…。レナっ…!」


 祈部は苦しげに声をあげた。

 だがしかし。

 祈部の他に、気遣わしげな様子を示した人物は、誰一人としていなかった。


***


 漸納レナは死にもの狂いで生徒たちから逃げており、また、生徒たちも今まで受けた屈辱から嬲るようにわざとギリギリの余裕を持たせて追い回していた。攻撃も、敢えて致命傷は避けて放っていた。


「なんなのよっ…。どうしてレナがこんな目にっ…!」


 追われてなお、追放されてなお、彼女は自らが絶対と信じていた。

 しかしそれも無理のない話であったのかもしれなかった。彼女はまだ、彼女にとっての有象無象にしか否定されていなかったのだから。


「なんで誰も助けにこないのよっ!レナがこんな目に遭ってるって言うのにっ!!」


 レナは毒づきながら走る。瓦礫の影に隠れ、反撃の機会を窺った。

 試し撃ちなら招見で散々やってきたのだ。実力はそれなりにあるはずだ。

 実技実習は未だ受けたことがなかったが、レナには失敗するかもしれないなんて不安はなかった。


「見つけた!」

「あそこだ、ぶちかませっ!!」

「なによ!みんなみんないなくなっちゃえっ!!」


 レナは近寄る者すべてに対して攻撃のイメージを浮かべた。

 詠唱なんて碌に覚えていなかった。

 教会の掲げる教義を核とした信仰が十分であれば力はそれなりに扱えたし、呪文に関する知識がうろ覚えでも意味さえ通じれば呪文としてそれなりに効力があると分かっていたからだ。苛烈な攻撃の意思は炎へと変換され、周囲を囲んでいた同級の生徒へと敵意を向けた。


 ―しかし。


「―水よ、炎を掻き消し皆を守れ!水結界(ウォータードーム)!」


 凛々しい女生徒の声が響き渡り、炎を囲い込むように水が噴出される。激しい炎はあっという間に掻き消え、気づけば、光の消えた真っ暗な瞳たちがレナを静かに見つめていた。


「なっ…!―ぶち破って!!」


 破壊のイメージだけをダイレクトに受け取った精霊たちはやはり炎を顕現対象として選び、水と相性の悪いその魔法は多少は健闘したものの、ゆるゆると力を失い霧散していった。大きく魔力を消費したレナは虚脱感を覚えながらも、もう一度詠唱しようと息を吸い込んだ。

 その時、レナを結界越しに見つめていた生徒の一人が口を開いた。


「…ねぇ。俺たち、どうしてこんなのに従ってたんだろう」

「属性相性も碌に理解してない、打消し呪文(アンチスペル)も使えない愚鈍に、なんで服従してたんだろうね」

「そもそも、あの漸納だしね。納得の低スペック」

「なんてゆーか、権力だけのハリボテ?」

「言えてる」


 口端を釣り上げ嘲笑する面々とは別に、しきりにブツブツと口を動かしている面々は長期詠唱の威力の高い呪文を練り上げていた。しかし、屈辱と怒りに震えるレナは気付かない。気づこうとも、―していない。


「―底なしの沼よ彼の者を捕えよ、」

「―鋭き刃よ、アイツをやっちゃって!」

「―貫き焦がせ、」


 詠唱の最終段階に入り、最後の言葉を唱えようとした時、それは起きた。


「―鎮まりなさい、」


 静かでいて凛とした声が、戦場と化していたその場に響き渡った。


 風に靡く、透き通るように美しい、長い金の髪。

 琥珀色の瞳は憂い気に伏せられていて、その様子が儚さと、侵し難い神聖さを醸し出していた。即席で、魔法で設えたのだろう。土で築かれたちょっとした高台に佇んでいたその人は、後ろに控えていた男子生徒にその場を譲るように一歩下がった。


「普通科・特別科を担当する生徒会だ。これ以上治安を乱すと言うのならば、我々が助太刀に入ることとなる」


 そう告げると、漆黒の瞳は油断なく大衆を見下ろした。

 金髪の生徒に寄り添う紅褐色の髪色を持つ男子生徒は、どうでもいいものを見るかのように魔法科の生徒たちを見下ろしていた。

 対して、紅褐色の髪色をもつ男子生徒とは逆隣りで金髪の生徒の傍に侍っている黒髪の男子生徒は、紅い瞳でぼうっとどこか遠くを見るでもなく眺めている。その様子は、どこか退屈そうであった。


 栗色の髪に、漆黒の瞳。

 紅褐色の髪に、翡翠色の瞳。

 黒髪に、紅い瞳。

 そして守られるように下がってしまった、―金髪に、琥珀の瞳をした少女。


「―惣火、ゆまっ…!」


 皆が呆然と高台にいる生徒たちを見つめている中、漸納レナは憎々しげに金髪の生徒―惣火ゆまだけを睨みつけていた。


「アンタのせいよ…。アンタが、いたからっ…!」


 漸納レナは、ただただ彼女を、睨み続けていた。


次回更新予定は未定(真顔)。教会三家の扱いに困って先に進めない…

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