閑話 ある狂信者たちの集い
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「あの惣火家に、人間の娘が生まれたらしい」
その報告に、講堂中が湧いた。
「やはり我々の推測は正しかったのだ!」
「獣の業は人の血と混じりあうことでその罪を雪ぐことが出来る…。やはり『人間』の家系をより尊重しなくては!」
「静粛に!!」
がやがやと騒ぎ立てていた信者たちは、その一言で静寂を取り戻した。
しかし未だ熱は引かず、その目には爛々とした光が灯っていた。
―教会。
この世界の理を知る、唯一の機関。
歴史を記してきた組織。
故に『契約の一族』の話を広め、人間とは異なる形質をもつ獣人を異形と糾弾し、民衆を煽り、―富を蓄えた旧家を孤立させた集団。
しかし人は思いこむ生き物だ。初めは何かしらの思惑の元に、―権力を握るために利用していた教義こそを、今は多くの者が狂信している。
―獣人は罪深い。
それは、
―人間とは異なった見た目をしているからだ。
―人間より長く生きるからだ。
―人間より強い力を有しているからだ。
信者は、みなこの教えを信じている。
特に「人間より長く生きる」ことに関しては獣人のみが使うことのできる「肉体強化の魔法」が関連していることが近年の研究で明らかになり、近年、教会は人間が扱うことが出来ないという意味でこれは「獣人による若さの不当な独占」であるとし、この魔法を「理を曲げる許されざる魔法」として禁術扱いにした。今もなお、この魔法は有事以外での使用を固く禁じられている。
これによって、教会は勢いづいたのだ。
―私たちは間違っていない。
―私たちは正しい。
―私たちこそが正義である。
教会と、その教義を狂信する信者は、自分たちの考えに酔っていた。
そして、現在この教会のトップを務めている「教父」と呼ばれる男も、多少頭は回るが、つまるところ大多数の信者と同じく、教会の教義の狂信者だった。
「先日、惣火に生まれた娘が正真正銘獣人の形質を持たぬ娘であることが判明した。
これは奇跡である!
獣の業は人との交わりの中で雪がれていく…。我々の考えは正しかったのだ!!」
力強い教父の言葉に、信者は熱狂する。
歓声に満ち溢れる講堂の中で、教父はさっと右腕をあげ、制止を促した。途端、講堂に静寂が戻る。
「娘は、人間のみが扱える魔法である精霊魔法にも長けていると聞く。あの、旧家の血が流れている娘がだ。
これぞまさに奇跡!!惣火ゆまは今から起こす奇跡の先駆者である!
この事実を元に、教会はこの先、旧家に対して、より人間としての血が濃い一族を伴侶として選ぶよう指導することとする!
ゆくゆくはこの地から獣人が消えるよう、努めるのだ!!」
演説の終わりと共に、講堂には割れんばかりの拍手が響いた。
「手始めに、あの学園を改革する。『調和』と名を付けておきながら所属する学科によって生徒を隔離するなど許される所業ではない。獣人の保護を目的としているようだが、そのような目的をもっているのならばなおのこと改革を急がねば…」
「それならば私が」
憂いを帯びた教父の元へ、一人の男が寄ってきた。男も一信者の一人であったが、一代で成した莫大な財の一部を教会へ一気に寄付してしまうほどの熱心な狂信者だった。
「私の娘がちょうど学園に通う生徒ほどの年頃でございます。ですので、理事長としての座をもぎ取りさえできれば、内からも外からも改革を進めることができるかと」
「それはすばらしい」
「お任せくださいますかな?」
「ふむ。楽しみにしていよう」
教会の役に立てることが嬉しいのだろう。喜びを噛みしめるように笑み、震えながら頭を下げた男をみやり、教父はふと、ステンドグラス越しに空を見上げた。
ぽっかりと浮かんだ月は真白で、神々しいまでの美しさだった。
「この世界からはやがて獣人などいなくなる。だというのに、獣人が増えかねないようなシステムを構築されてしまっては困るのだよ」
呟き、教父は目を細めると踵を返し、教会内の持ち部屋へと急いだ。
少女はこうして、学園へと送り込まれたのである。
これにて一部は終了。ここからが大本番!な二部に突入します。
色々と濃ゆくなりますよー。




