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もふもふ!  作者: min
高校編(一年生)
32/51

見極め 中篇(東雷side)

「はい。では、譲渡しますから手をこちらに」


 だが惣火はなんでもないことのように理事長の差し出された手へと炎を掲げた手を差し出し、一言唱えた。


「『譲渡』」


 言葉と共に、炎はゆらゆらと動きながら理事長の右掌の上部へと移っていく。そして、―揺らめき続けている。


 嘘だろ。一体何が起こってるんだ!?


 内心の動揺を押し隠し、どうにか笑みを浮かべたまま理事長に問いかける。理事長はと言えば初めての精霊魔法にはしゃいでいるようだ。依然として目がきらきらとしている。


「古代魔法と違って、バリエーションが豊富なんですかねぇ」

「そもそも実践した人間が今までいなかったようだが。

 …東雷くん。この炎、私についてくるぞ!」

「理事長、はしゃがないでください」


 一瞬真面目な顔に戻りかけたが、理事長は手を様々な方向へと動かし、あっちへゆらゆらこっちへゆらゆらと炎を動かして喜んでいた。

 なんというか、…ほんと、精霊魔法ってどうなってるんだろう。

 一周回って冷静になってきて、俺は渇いた笑みを浮かべた。


 しかし、驚きはこれからだった。


 理事長からもう十分に見たから炎を消す様に言われた惣火は、『解除』と唱えて炎を消してしまった。


 『解除』という一言で、だ。


 予め設定した指定時間になったから消えたというわけでなく、魔力切れで自然消滅したというわけでなく、対抗魔法で打ち消したというわけでなく、『解除』という一言で文字通り魔法を無効化したのだ。

 精霊魔法は、基本的に一度出した魔法を途中で打ち切ることはできない。

 俺が例のヤツを断じるために入室した際に自然と惣火が炎を消してしまった時のように、外部からの働きかけにより集中力が切れて、と言った中断方法もあるもののその中断方法は確実性に欠け、あまり賢いやり方であるとは言えない。規模によっては暴発の可能性も否めないからだ。

 だからこそ時間を指定せず魔法を使用した惣火に疑問をもっていたのだが、予め無効化させる術をもっていたのならば、なるほどおかしいことではない。


 どうやって無効化させたか、という疑問は残るが。


 これが普通の炎であったならまだしも、惣火が出していたのは不可触の、「消えない炎」。仮に打消しを狙ったとしても対抗魔法である水の影響を受け付けないという厄介な特性付きだ。そんなややこしいものを、一体どうやって消したというのか。


「…惣火くん。今、どうやって炎を消したのか教えてもらっても構わないかね?」

「えっと、ただ単に式を解除しただけですけど…」

「…『式』を?」

「はい。だって、精霊魔法ってつまるところ命令式で成立している一つの契約式ですよね?」


 その言葉に、問いかけた理事長でさえぴたりと動きを止めた。

 『式』を解除した、とか一体どういう意味だ。


「それは、…一体どういう意味で言ったんだ?」

「え?…だって、魔力を代価に『対象』に『目的』を示して使役するんですから命令式で成立している契約式でしょう?」


 惣火はどこか困ったように眉を下げながらなんでもないようにそんなことを告げたが、そんなぶっ飛んだ発想ができる術師が一体この世界に何人いると思っている。

 が、そんなことより今は疑問の解決を優先するか。大規模魔法でない精霊魔法すらも『契約』としてみなしているとすれば…。


「精霊の強制使役を『契約』に置き換えて効果を齎していた…?」

「だとすると式を解くことでそれまでの効果を無効化することが可能になる…。元々が一時的な契約である以上、他の契約式と違って『破棄』ではなく『解除』を選べる分、術師への負担も少ないと考えられますね」


 大規模魔法は既に『供物』を代償として捧げてしまっているため既に結果は定められており、その結果を曲げて改めて術を停止するには更なる追加の供物を必要とする。これを『破棄』という。

 一方、通称精霊魔法と呼ばれる強制使役魔法を『契約』の形態として見るならば、代価である術師の魔力は常時供給されるため『契約』は常に更新し続けられているということになる。そのため術の停止は即ち更新され続けてきた『契約』の打ち切りとみなすことができ、大規模魔法と異なり術師の魔力供給の停止と共に魔法の効果もまた停止され、結果として無効が導き出されるわけだ。

 これは、新しい視点として今立ち上げているプロジェクトの参考になりそうだ。

 理事長と俺は頷き合い、議論を停止した。この視点での論理構築が実践で生かせるかどうか、プロジェクトに取り組むチーム全体で再度議論し直すべきだと考えたからだ。

 理事長は話を終わらせる気で、柔らかな声で惣火に声をかけた。


「参考までに聞きたいが…。惣火くんは大規模魔法を使うことはできるのかね?」

「はい。一応は」


 精霊魔法の腕は、視点は少々独特だが言葉の選び方といい、理論の構築法といい、一級の才能を持っていることは明らかだった。だから、理事長は最後の確認というか、あくまでも補足的意味合いで惣火に問いかけていたのだ。


 惣火により更なる爆弾が落とされるとも知らずに。


「どの精霊と一番相性がいいか教えてくれないか?」

「えっと…」


 惣火は困ったように言いよどんだ。

 おいおい。これ以上おまえは何を言い出すんだ。まさか全属性相性最高とか言い出すんじゃないだろうな?


「…質問を変えようか。惣火。おまえ、大規模魔法使う時、供物にはなに選んでるんだ?」

「供物…」


 その言葉に、惣火は一気に遠い目になった。

 待て。

 おい、まさかそんな。


「最初は使ってたんですけどね…」

「…おい。まさか、」

「始まりは悪ふざけだったんですよ」


 惣火は言い訳めいた言葉を吐き出し、目を泳がせた。

 悪ふざけで供物なしの大規模魔法発動成功とか、おまえは一体何を考えているんだ。

 俺はあまりのことに、卒倒してしまいそうだった。


東雷「この子なんなの…」

前世の記憶自体は表出していませんが、前世で培った思考法うんぬんはしっかりと根付いている主人公。そのせいか、この世界の常識的に考えて破天荒な考え方をすることが多々アリ。

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