認められし才
『大規模魔法』とはその名の通り大規模な魔法であり、その規模の大きさから場所指定を補助する『魔法陣』と、不足する魔力の代わりを担う『供物』を使うことで有名です。
そう。
はじまりは、ちょっとしたおふざけだったんです。
幼き日の私は大規模魔法を勉強しながら「どうすれば少しでも威力をあげられるのか」と試行錯誤を凝らしていて、ある日ふと閃いてしまったのです。
大規模魔法を使う時の代償が『供物』と呼ばれるということは、『信仰心』が威力に絡んでいるのでは?
と。そこで試しに水の精霊を呼び出すときにこんな感じで呼びだしちゃったんです。
「『ああ、大いなる水の精霊よ。生命に恵みをもたらす母たる精霊よ。願わくば我が祈りに応えよ。
其の御心に脆弱たる我が祈りが届いたる暁には、我の示すその先に、激流の如く逆巻き迸る水柱を立てよ。
我、数多ある精霊の中でも彼の存在に敬意を払いて此処に願い、今その願いを叶えん事を望む。
逆巻け水流!』」
…一応、精霊魔法を使う時の詠唱の原則は取り入れていたんですよ?
まず、『大いなる水の精霊』、と使役する精霊を指定し、『水柱を立てる』という目的を指示。
大規模魔法を使う時に場所指定でよく使われる魔方陣は設置済みでしたから魔方陣の設置場所を『我の示す先』と称し、威力も『激流の如く』と定め、具体性を確保。最後に鍵となる呪文である『逆巻け水流』を詠唱し、終わりです。
まあ、ちょいちょい対象の精霊讃えるような賛辞入ってますけど。
そんな感じで唱えちゃったら、できちゃったんですよ。
しかもなんか物凄い勢いでどぉおぉんっ!って感じで水柱立っちゃって。今までなんて精々逆巻いてくれても噴水レベルだったのにどこの滝呼び出しちゃったんだってレベルで天高く立ち上り始めて。
私は本能的に危機感を覚え、咄嗟に土下座して謝りました。
「私の願いを聞き届けてくれてありがとうございますっ!!でもごめんなさいっ!!こんなに凄い水柱立てるつもりじゃなかったんです!!力を貸してくださって本当にありがたいんですが今はここまで叶えてくれなくても結構です!!有事の際には改めてお願いするかもしれませんが今日は練習だったので、―お願いですから術解いてくださいぃいいぃっ!!」
後生ですからぁあああっ!!と叫びながら土下座で頭を下げ続けると、水柱は一瞬にして退きました。
「本当に本当にありがとうございましたっ!!お手数をおかけしてすみません!今度からはもっと考えて呪文唱えますから!!ですからどうかまたお力をお貸しください!ほんとすみません!!」
私は一旦顔をあげて状況確認するとすぐさま頭を地面にめり込ませる勢いでもう一度土下座しました。
供物として捧げていた野菜たちは、何故かそのまま残っていました。
それからは何故か他の属性の大規模魔法を行使しようとしてもうまく呪文が使えなくなってしまいました。
供物も丸残りしてしまうし、なぜ?と思っていたのですが、一応最初にやらかしてしまった水の精霊だけは低威力ながら供物を使用した呪文を施行することができたのです。
そこで、私はふと恐ろしい想像に行きついてしまいました。
もしかして、精霊さんたち「祈る」系の呪文が気に入っちゃったんじゃ…?
試しに既に黒歴史に成りかけている水の精霊に唱えた感じの呪文を火の精霊バージョンにして唱えたら、今までの反抗期なんだったのと思えるほどの高火力。
私は呆然としながらも、そのままだとずっと燃えっぱなしになってしまうので、どうにか丁寧にお礼を述べて火の精霊に丁重にお帰り頂いたあと、あまりのことにぺたりと座り込んでしまいました。
やっぱり供物は丸残りしていました。
「―と、まぁそんな感じでして。敢えて言うなら精霊を感動させられるような賛辞の言葉を散りばめた呪文自体が供物になるんでしょうか…」
私が遠い目をしつつ一連の出来事をどうにか話し終えると、東雷先生と理事長はしばらく無言でじっと見つめ合っていました。
…やっぱりおかしいですかね。
というか、賛辞を含んだ呪文を唱えるだけで供物ナシで詠唱成功とか私にもよくわかりません。あのときホントは一体何が起きてたんですか。むしろ誰か私に教えてください。
「…東雷くん」
「はい。
…惣火。朗報だ。おまえの魔法科行きはなくなった」
はい?
「おまえは特別科の『特選コース』に在籍し、俺と共に古代魔法・精霊魔法の共通項についての研究を秘密裏に進めてもらう」
うん?
えっと、…なにがどうなってこうなってしまったんでしょう。
特別科の『特選コース』って、確か郡が所属してる属性魔法の特訓してる人たちのコースですよね?
主人公さん混乱中。
チートはチートでも精霊に愛されてるとかそういうのじゃなくて感性と発想力の問題であった模様。




