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判じられる先駆者

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　私は以降もうまく動くことが出来ず、目の前にあったソファーにさえ気づけなくて、危うく東雷先生に座らせてもらいかけてしまいました。

「惣火には申し訳ないことをしてしまったな」

　そう言って、先生は慰めるように私の頭を撫でてくれました。

　正直、あれほどの悪意を向けられたのは初めてで、元々あった人見知りの気が人間不信へとレベルアップしてしまいそうでした。

　やはり、身内以外は易々と信じられません。

　この世界では、常に警戒し続けていなければ。と、私が決意を新たにしたところでした。

「待たせたね」

　理事長が、ふんわりと笑って告げました。

＊＊＊

「非常に申し訳ないが、アレに見せてくれた魔法を、もう一度ここで実践してくれないかな？」

　理事長はさわやかに告げましたが、「アレ」という言葉に多大なる悪意を感じました。

　まあ、私もあの人をもう「先生」とは呼びたくありませんが。

　私はもう一度、あの炎を召喚することにしました。

「『火を冠する精霊よ。我に力を貸し、闇を照らす炎を灯せ。

　此の掌の上に小さく赤い、消えぬ火を与えよ。

　其の火は何をも害さず、何からも害されぬ不可触の火。

　今、我の紡ぐ声に応え、出(い)でよ炎！』」

　ぽふっ！

　やはり間抜けな音と共に現れた炎を、二人は繁々と眺めていました。

「触っても大丈夫なのかい？」

「はい。熱くもありませんし、消えることもありません」

「本当だ。まるで蜃気楼みたいだな…」

　東雷先生は興味深そうに何度も炎の中に掌をくぐらせていました。理事長はといえば、ただひたすらに炎をじーっと見つめています。

「私が持っても大丈夫かな？」

「はい。では、譲渡しますから手をこちらに」

　東雷先生が手を引っ込めたのを確認し、理事長に向き直ります。そして、差し出された右掌に向けて手を差しだし、私は一言唱えました。

「『譲渡』」

　そうすると、所有権が理事長へと移ったのか、炎はゆらゆらと動きながら理事長の右掌の上部へと移っていきました。二人はやはり興味深そうにうんうんと頷いたり、ほう、とか呟いたりしていました。

「古代魔法と違って、バリエーションが豊富なんですかねぇ」

「そもそも実践した人間が今までいなかったようだが。

　…東雷くん。この炎、私についてくるぞ！」

「理事長、はしゃがないでください」

　一通りはしゃいだ後、理事長からもう十分に見たから炎を消す様に言われ、私は『解除』と唱えて炎を消しました。

「…惣火くん。今、どうやって炎を消したのか教えてもらっても構わないかね？」

「えっと、ただ単に式を解除しただけですけど…」

「…『式』を？」

「はい。だって、精霊魔法ってつまるところ命令式で成立している一つの契約式ですよね？」

　その言葉に、二人がぴたりと動きを止めてしまいました。

　…私、何かまずいことを言ってしまいましたか？

「それは、…一体どういう意味で言ったんだ？」

「え？…だって、魔力を代価に『対象』に『目的』を示して使役するんですから命令式で成立している契約式でしょう？」

　契約式とは何かを代償に何かを得る、という手続きを取る方式であり、命令式は対象とするモノに対して何らかの影響を強制的に及ぼす式のことです。

　後者の命令式に関しては全ての魔法に組み込まれていることは周知の事実ですが、前者の契約式に関しては、魔獣や精霊といった大きな存在以外との契約はカウントされておらず、どうやら通常の規模の精霊魔法は精霊の気まぐれにどれだけうまく乗れるかが勝負、みたいな感じで取られているようで。

　なんでですかね。

　規模が小さいとはいえ精霊魔法だって一時的に精霊と契約を交わす式なんですから、契約を解除すれば効果も切れるじゃないですか。

　なんて思っていたら、突然二人がかっと目を見開いたかと思うと、唐突に凄い勢いで議論を交わしはじめました。

「精霊の強制使役を『契約』に置き換えて効果を齎していた…？」

「だとすると式を解くことでそれまでの効果を無効化することが可能になる…。元々が一時的な契約である以上、他の契約式と違って『破棄』ではなく『解除』を選べる分、術師への負担も少ないと考えられますね」

　あれ？あれ？なんかおかしいですね…。

　もしかして私、普通とはだいぶ違うやり方で精霊魔法使ってたんですか？

「参考までに聞きたいが…。惣火くんは大規模魔法を使うことはできるのかね？」

「はい。一応は」

「どの精霊と一番相性がいいか教えてくれないか？」

「えっと…」

　特に相性とか考えたことないんですが…。

「…質問を変えようか。惣火。おまえ、大規模魔法使う時、供物にはなに選んでるんだ？」

「供物…」

　ああ、そういえば使ってましたねそんなもの。

　私は以前の頭の痛い記憶を思い返して思わず遠い目になってしまいました。

「最初は使ってたんですけどね…」

「…おい。まさか、」

「始まりは悪ふざけだったんですよ」

　東雷先生のどんびきしたような視線を受けながら、私は言い訳めいた言葉を吐き出して目を泳がせました。

あれ…？主人公まさかのチート属性？