白い訪れ人
郡の悲しげな眼差しを振り切って、学園に登校した私は、昼休みにぼっちになっていました。
学科が異なり、私と郡は、家にいた時より格段に共にいる時間が短くなってしまいました。だから、郡は朝のSHRの直前まで私にじゃれて来るし、お昼休みには中庭で狐になって芝生の上でごろごろして戯れたりしていたのです。
が、今日はその郡がいません。
素直にそのことを告げて夏樹さんとそのお友達にお昼の時間をご一緒させてもらえばよかったのでしょうが、習慣と言うのは恐ろしいもので、私はお昼を終えるなり、いつものように教室からふらふらと抜け出していました。
そして。
気付くと、独りぼっちで中庭に辿り着いていたのでした。
青々と茂っている草も、心地いい風も変わらないのに、そこに郡はいないのです。
「郡…」
呟いて、不安になりました。
今も家で苦しんでいるのでしょうか。
私の名前を呼びながらきゅんきゅん鳴いているのでしょうか。
じわり、と目に涙が滲みました。
少々乱暴に手の甲で拭って、私はどうせならば今いる場所よりも居心地のいい場所を探そうと思い、辺りを散策することにしました。
長い長いお昼休みの時間を目的も無しに無為に消費することに耐えられなかった、とも言えます。
私は、ふと思い出したように郡に対する罪悪感を募らせながらあてもなくふらふらと中庭を彷徨っていました。
すると。
唐突に、ふっ、と目の前に白猫が現れたのです。
白猫は子猫といってよい大きさでした。
紅と蒼の色違いの瞳は美しく、きらきらとしていて宝石のようでした。
白猫は、私とそれなりの距離を保ったまま、警戒するようにただただじっと私を見つめていました。
「あなたは、どなたですか？」
「なぁおんっ」
しゃがみこんで目線を合わせ問いかけると、白猫は猫らしく鳴きました。
私は驚きに目を見開きました。まさか獣人で無い普通の猫がこの学園にいるなんて。驚きでした。
「あなたは人ではなくて、ただの猫さんなんですか？」
「なぁうっ」
白猫は私の問いに答えずに、一声なくと一足飛びに距離をつめ、ただただじっと私を見つめていました。
そっと手を出すと、白猫は自ら私の指をぺろぺろ舐めだしました。どうやら警戒を解いてくれたようです。そうっと抱き上げて胸に抱え込んでも、白猫は暴れもしませんでした。
「毛並みつやっつやですね…。あなたは、誰かの飼い猫なのですか？」
「うなぁぅっ」
「うわっ！気に障りましたか？…一体何が琴線に触れてしまったのだか…」
綺麗な毛並みをなでなでしていると、私の発言の中に気に喰わないワードでもあったようで低く唸られながら顔に優しくネコパンチされました。爪も立てずに、たしっ、と肉球でぷにぷにしている前足で頬を叩くところに愛を感じました。
…思えば、普通の動物との触れ合いって、何気に初めてかもしれません。
白猫はしばらくの間は私に撫でられて喉をごろごろ言わせて喜んでいましたが、ふとなにか思い立ったのか、私の腕の中から飛び出してどこかへと走り去ってしまいました。
あああ私の癒しが…。
しかもお昼休みはまだまだ残っています。白猫は可愛かったですが、癒された分、現状が身に沁みます。ああ、ぼっち再びなんて…。
項垂れながらとぼとぼと歩いていると、どうやら進行方向を間違えたようで、購買の方へ抜けてしまっていました。
…いえ、この時間に校舎に戻ってしまってもなんとなく居心地が悪いので、そこは正解なのですが…。なんとも言えない気持ちで引き返しかけた時、私は|それ(、、)を見つけました。
学園を外部から隔てるための高い塀。そこから少し離れたところで丸くなっている、黒くて大きなもふもふ。
大きさだって色だって、体つきだって違うのに、何故だかその様子が普段の郡を思わせて。
私は気がつけば、そのもふもふに全力で抱きついていました。
