はじめてのもふもふ
さて。
私の中の『わたし』だが、前世のものと思われるとびとびな知識とは違って、『わたし』は私の頭の片隅の中でなんだか一つの独立した人格らしく振舞っていた。でもぼっちが寂しくなったらしく「いーれーてー」と言ってきたので「いいよー」と言うとなんだかじゅわっと溶けて私に馴染んでしまった。
人格統合の完成である。
もっとこう、葛藤とかなんとかあると思っていた私には拍子抜けであった。
統合された人格は私の無意識下で暗躍し、私の生活の邪魔にならない程度に知識を抑えていてくれるらしい。まあ確かに、ある程度成長してからの異世界での記憶というのは異色すぎるし、もうちょっと大人になるまではある程度ばいばいしてた方がいいよね。そう判断して「おねがいねー」というと「はいよー」と『わたし』は答えた。とても気安い関係である。
そんなこんなで、私と母は黒塗りの車で祖父宅へとたどり着いた。
***
母と手を繋いで、長い廊下を歩く。
扉を開けるとそこにはもふもふがいました。
つややかな金の毛並みにつぶらな黒い瞳。しかしでかい。見た目は前世知識で見たことある狐そっくりなのに多きさが虎ぐらいあるよ。幼い身体は美しいと、雄々しいと目の前のもふもふを賞賛する一方でその威圧感からくる恐怖に今にも震えだしそうだ。その時、なんの警戒もしていなかった母が口元に手を当てながらおっとりと微笑んだ。
「まあお父様。今日は狐さんになってらしたのねぇ」
お父様ってことは、―おじいちゃんだと?!恐怖感と警戒心がすっとぶと、私は衝動のままに思い切り目の前のもふもふに飛びついた。
「!?」
「あらあら」
以外にも一番驚いていたのはおじいちゃんだった。なんだかおろおろしているらしいおじいちゃん(仮)に抱きついて頬ずりする。うわぁもふもふ…。しあわせ…。
「じーちゃ、かっこいーのー。もふもふ、すきー」
『さすが、彩恵の孫ということか』
「うふふ。私の娘ですもの。怖がったりなんてするはずないです」
彩恵っていうのは私のおばあちゃんの名前である。そっかー。おばあちゃんももふもふ好きだったのかー。なんか親近感。おじいちゃんは顎の下辺りを撫でて上げるとぐるぐる喉を鳴らした。かーわーいーいー。
「…お父様が平気なら、郡くんもきっと大丈夫ね」
もふもふにうっとりしていた私は、お母さんが不安そうにそう呟いていたことに気づけなかった。




