心配事とお勉強
めーでーめーでー。大事件です。「アレ」がなんだかわかりません。
とりあえずとんでもなくまずいことで、起こってしまうと一気にどうしようもなくなってしまうようなレベルの出来事で、でも最悪物理的に黙らせればどうにかなるという事象だったことは覚えているのですがそれ以上は思い出せません。
ゲーム知識?という薄ぼんやりとしたよくわからない記憶はありますが、それも元がなんだったのかは最早記憶の彼方です。以前声を掛け合った(たぶん)前世の人格である『わたし』に脳内で応答を求めたりもしましたがすっかりさっぱり見当たりません。
これは一体どういうことだろう、と私は寝る前になって唸ってみましたが、ご都合展開的にカミサマが説明してくれたりなんてこともありませんし、どうしようもありませんでした。
たぶん、ですが。
以前の人格統合は仮のもので、本格的な統合は、また別のものだったのでしょう。そう考えると、しばらく脳内口調が定まらなかったのも私と『わたし』が頑張って混じりあおうと努力していた結果、だったのかもしれません。
…だから、前世の膨大な記憶は今世の幼児スペックな脳には耐えきれず、吹っ飛んで行ってしまった、と。
…大体そんなところなような気がします。とりあえず人生二回目な感じだから楽勝!な感じにはなりそうもありません。世知辛いです。
***
一夜明けて約束の日。家庭教師の先生がやってきました。私と郡はというと、何を教えてもらえるのか楽しみで、先生が来るまでずっとうずうずしていました。
先生は、そんな私たちを見て微笑ましそうな目を向けました。穏やかそうな男の人でした。年は、お父さんと同じくらいでしょうか。
「『惣火家』について知るために学ぶとのことでしたね。
ならば、まずは『魔法』についてのお話から始めましょう。惣火と魔法は、切っても切れぬ関係ですからね」
そう言って、先生は話しはじめました。
この世界には魔法を使える人と使えない人がいて、使う魔法も精霊にお願いして使う精霊魔法と古代魔法という分類に別れるそうなのです。古代魔法は、旧家と呼ばれる古い家系の血縁者のみが扱うことのできる、特別な魔法なのだそうです。
「と、いうのも、『古代魔法』は古の契約魔法を祖として成り立つ魔法であるため、単に契約を交わした子孫以外は力を使うことが出来ない、というだけのことなのですが」
「けいやく、ってどんなけいやく?」
「詳しくはわかりませんが、なんでも、強大な力を持つ者から力を借り受ける約束をしたんだとか。その一族は力を借り受ける代償として、一時的に獣に成らざるを得ない身体になったとか」
このあたりで、私は色々とぴんときました。
「そのいちぞくが、『そうか』なの?」
「その一族の一つが、です。惣火家は火の力を持つ者と契約を結んだ一族で、他にも、強大な力を持つ者は、水、風、土など様々な種類の力をもつものがおり、それぞれ異なる一族が契約を結んでいるとのことです」
「じゃあ、おれもまほう、つかえるの?」
「才能はあるでしょう」
郡はしげしげと自分の掌を見つめていました。実感がないのでしょう。私は追加で質問をすることにしました。
「だいしょうについて、おしえてもらってもいい?」
その言葉に、びくりと郡が肩を跳ね上げました。
「だいしょう…。そのいちぞくのひとたちがけいやくしちゃったから、おれはきつねになっちゃうの?」
かなしげに目を揺らす郡に、先生はきっぱりと言いました。
「そうとは言い切れません」
「え?」
「『代償』という大袈裟な言葉を使ってはいますが、獣化と古代魔法の因果関係が分かったこと自体が割と最近の話ですから。一部の学者の間では『代償説』を疑問視する声もあがっていますし、正直、あまり確かな情報ではないのですよ」
なんだそれ。
正直、そう思いました。
「まあ、『代償』かどうかはさておいて、『契約をした一族と』呼ばれる古代魔法を扱える人間が生まれる一族には獣人以外生まれたことが無い、というのが現状でしたからね」
なるほど、と頷きかけて私はぴたりと止まりました。
…今、過去形で終わりませんでしたか?
「まあ、現在における唯一の例外が、ゆまお嬢様なわけですが」
それは一体どういう意味なのでしょうか。
これ以降、ゆまは前世知識に頼らずに活動していくこととなります。
後天的知識ナシ主人公も面白いかなー、って…。




