なんていうか才能が欲しい
「君のことが好きです。僕と付き合ってください。」
その男の情熱的なアプローチは氷を溶かし、一瞬で水蒸気にまでしてしまいそうな。そして女性を十分にひきつけるほどの熱量を持ったものだった。
「いいえ。お断りです。てか死ね。」
ただこの一言だけでその男の気持ちは粉砕してしまい、その熱量は空気にとけていって雲散霧消する。彼女の言葉には強い拒絶と意思が含まれていた。
「っていう書き出しで小説書いてみたんだけどどうよ!」
「なんていうかびっくりするほど陳腐でこれからの展開が気にならない作品だね。例えるなら君の存在価値くらいないよ。」
「いやー。いやー。綾人は辛らつだねえ。でもほんとは?」
「お前の小説書く才能はびっくりするくらいねえよ。」
「はあ。そうかな。今回はなんかいけそうな気がするんだけどなあ。」
「大丈夫。有能な出版社の編集さんならお前の才能に気が付いてくれるって。」
「そうかな!そうかな!期待していいかな!」
「ああいいんじゃないのかな。」
まあ俺は何も言ってないし。別に天才的な才能があるとか言ってないし。まあ編集さんもこの子に字が書けるっていう才能というか、ほとんどの人が使える(才能)に気が付いてくれるさ。字を書くって書けない動物からしたらきっと才能だし?
俺は静かにコーヒーをすする。この味は苦手だがまあ悪くないかも。
「っていう書き出しで小説を書いてみたいんだけどどうよ?」
「いい加減にしろって思うと思うよ。読者さんは。」