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「あれ、俺なんでこんなところで寝てんだ?」
辺りを見渡すとそこは大きな木々が立ち並ぶ鬱蒼とした森の中だった。
「俺、確かドラゴンファンタジー21プレイしてたよな?」
辺りを見渡すとそこは・・・
「いや大事なことだけど2度言わなくていいから」
セルフツッコミできるだけの冷静さは残っているけど、俺は何でこんな状態になっているのか?
何故、俺は私服姿でここに突っ伏していたのか?
そもそもここは何処なのか?
尽きぬ疑問がどんどん蓄積していくが、その疑問は解消されずそのまま自分の中で溜まり続けた。
「えー・・・、どうしよう」
本当にどうしよう。
迷子のレベルを遥かに超越した今の状態を解決する術が、ただの一高校生たる俺にあるはずがなかった。
「と、取りあえず歩くか」
何か行動を起こさなけれ自我を保ってられない気がしたので、自分に言い聞かせるように口に出し森の中を歩くことにする。
はは、綺麗な森だなぁ・・・
□□□□□□□
はは、大きな猪だなぁ・・・
森の中を散策中、今まで見たことのないよう大きな猪と出会った。
あまりにも大きいので家族で食べきれないと思った。
「は、ハロー」
俺は取り敢えずこの森での初めて動物とのファーストコンタクトに歓喜(絶望)し対話を試みた。
「ぶふぅー、ぶふぅー」
自分の身長の三倍はある大きさ、それに見合う巨大な牙、赤黒い体毛に真っ赤に血走った目。
とてもじゃないが理性のありそうな容姿には見えない。
そして案の定。
「がぁぁぁぁぁぁ!!!」
頭を下げ牙を突きだし、後ろ片足をまるでスタートダッシュをするかのようにどしどし振り抜いている。
チビらないだけましかなぁぁ。
涙が頬を伝い地面に吸い込まれていく。
その涙には彼女が欲しかったなとか、親孝行しとけばよかったなとか、たらふく親子丼を食べたかったとか、高校の文化祭を楽しみにしていたのにな、などの思いが凝縮されていた。
涙がポタポタと落ちる中、その大きな猪は体を静止させたと思いきやその巨体には似つかぬ速さで突っ込んできた。
「いやぁぁぁぁぁ!!!!」
男であることも忘れ、女のような叫び声を上げ大きな猪に背を向けた。
倒れ込むように跪きお尻突き出した、頭を抱え心の中でつぶやく。
せめて優しくしてね・・・・。
そう涙しながら死を受け入れた。
しかし、肝心の死、いや体の痛みすら襲ってこず、俺はおそるおそる目を開けた。
「ぐぅ、ぐっ!!ぴっ!ぴぐっ!!」
眼前には、頭から丸呑みされている大きい猪と、その大きい猪を咀嚼する巨大な口。
毒々しい体のカラーリングに、その体のから無数に生える俺の胴体よりも太い触手。
でけぇ・・・。
あまりの超展開にこれ以上の感想が出ない。
しかし展開はまだ進むようで、思考が停止しかけたところにまた新たな問題が舞い降りる。
「いっ!いってええぇぇぇぇ!!!」
体に激しい激痛。
突然のことに体がびっくりして俺は跳ね上がる。
我慢できないほどではないがそれでも体全身に痛みが走ると言う初めての現象に声を挙げてしまったのは仕方がないと思う。
当然、涙も出したさ。
ほどなくして、痛みも治まり涙も出尽くした。
「散々すぎるだろ」
横っ面は地面に置かれ体を大地へと預けた状態でいる。
ひんやりして気持ちぃ・・・。
そうして冷静になった脳で、視線を上に上げると、その先には大きい猪を食べた食虫植物のでかい奴がお腹?を大きくして静止していた。
こちらを襲う気は今の所ないらしい。
「それよりも・・・」
そうあの化け物の生態なんかよりも今俺の眼前に現れた意味の解らない文字の羅列を解読せねばなん。
「いや、書いてある文字は読めるけど」
そう書いてある文字は読める、しかし、なぜこの時この場面でこの文字を見ることになるのは、理解できない。
「どう見てもレベルアップだよな、これ」
その文字の羅列は筆記体でレベルアップと書かれていた。
「とりあえず」
重い腕を動かしそのレベルアップの文字に触ることにする。
すると、人差し指が文字に触れた瞬間、縦と横にパレットが伸び大きな画面が現れた。
「うぃ!?」
情けない声が出る。
これも仕方ないことだ。
しかし、そのおかげで体が起き上がり、結果的に座る体制に移ることができた。
体制を整えつつ現れた画面をしげしげ見ながら服に付いた泥や砂を払う。
「レベルアップの表記でなんとなく察していたけど・・・ステータスかな、これ?」
その画面にはおそらくRPGなどでよく見かけるあのステータスが現れていた。
どれどれ
名前/朝宮 龍一
性別/男
LEVL/54
HP/217
MP/109
STG/172
DEF/113
DEX/208
SPEED/97
LUK/1
技能
<逃げ足>
理術
<風・1>
耐性
<痛み>
身体
<少しの意地>
所持金0T
「これが俺のステータスか・・・」
しかし、察しが付くものもあるがよくわからないものもある。
どうにかしてわからないか。
「あ・・・」
そう考えているとヘルプの文字が画面の端に現れたので早速使って見る。
「え~っと<逃げ足>はと・・・」
<逃げ足>・・・逃走時SPEEDとDEXに少し補正がかかる
<風・1>・・・魔力を操作し風を操る技術 錬度1
<痛み>・・・少しの痛み強くなる
<少しの意地>・・・HPが10%以下の場合全ステータスが少し上昇
全てのステータスと能力の確認を終えたところで現状を冷静に省みた。
「うん、異世界転移ものだなこれは」
完全にやけくそぎみに考えた結果だが、あながち間違っていないはず。
俺は確かにドラゴンファンタジー21をやっていたし、この服装はおれがゲームを始めた時に着ていた服だ。
死んだとは少しも考えられないからこれは転移ものだと推測できる。
ただしいきなり最終ステージみたいなところに放り込まれたようだが。
もうこれ無理ゲーだろ。
いきなりオワタ式とかしゃれにならん。
自分の能力がどれだけここら一帯の化け物に通用するのか解らない、この場所がどこかも解らない、どこが安全かも解らない。
解らないことだらけだ。
だが、まだ死ぬわけにはいかないのでとりあえず移動。
いつ、あの巨大肉食植物が動き出すか解らない。
俺はこの場から立ち去る為に重い腰を上げて移動を開始した。
■■■■■■■■
先ほど場所から行き先は適当に、行動は慎重にして移動した。
途中、でっかい亀やら昆虫などを見かけたりしたが、特に襲われるようなことはなく大きく開けた場所を見つけた。
その、開けた場所には一件家程度の大きさの建築物が三つ三角形の三点のように並んでいた。
その建物は互いに向き合っている。
「こんなところに、建物があるなんて」
まだこの森を多く探索した訳ではないが、それまで人工物的な何か見かけることはなかった。
それに、なぜか作りたてのような綺麗さもあって、この場ではとても違和感を感じた。
「入れるかな?」
とりあえずこの場を探索してみることにする。
一つ目の建物は近くに寄ると、扉の色が黒い色でなくどっちかって言うと紺色に近い色をしていた。
扉の上の壁には容器のような物が掛かっていた。
「蜀台か?」
はっきりとは解らないがそれらしい物かなと適当に建物を観察していく。
「しかし、見れば見るほど変だな」
汚れはまったく見えず、扉は開かない。
それなのに扉には鍵が付いておらず開ける手立てがない。
「Fighter×Fighterのめちゃくちゃ重い扉みたいな感じかな」
自分の世界で読んでいた漫画のことを思い出す。
続きが読みたい。
同じように他の建物も調べてみると一点を除いて全て変わりない物だった。
違っていたのは扉の色のみ。
黒い青、赤、緑と言った感じだ。
もちろん開かない。
「この建物だけか・・・」
この開けた場所は三つの不思議な建物しかなようだ。
「ここを拠点にしよう」
ここは森の中みたいに鬱蒼としてないし、空も見えて気持ち的にすごく楽になった。
それに気のせいかもしれないが教会のような厳かな雰囲気も感じる。
教会に行ったことは一度もないのだが、そこは画像とかで見て雰囲気をつかんだ訳だが。
とにもかくにも、俺の異世界生活はここを軸にして生きていこうと思う。
なにがあるか解らないがなるべく悲観的にならず生きていこう。
元の世界への帰り方やステータスの意味、そして、この建物。
色々知りたいこともあるし。
うっし頑張るぞ!!