存在
わたしの手は
なにをまもることが
できるでしょう
わたしの存在は
なんの役にたつでしょう
長いあいだ
考えていました
なにをやっても
うまくゆかず
誰かの眉間のしわを
ふかくすることしか
できなくて
生きる意味は
ひとそれぞれちがいますから
自ら
みつけだすしかありません
ある日、母はいいました
あなたの笑顔に
助けられたのよ
壊れそうな心を
癒してくれた、と
慰めか励ましか
鏡に向かって
笑顔をつくっても
口角のあがった顔が
映っているだけで
ピンと来ず
こんな顔でも
一度は役にたったのか
と
親の欲目、という言葉を
口角の隅に貼り付けました
わたしの
手でなにをまもることが
できるでしょう
長い時間と幾度の涙の
後にわかりました
大切なひとの
いたみにふれたとき
幼い我が子にふれたとき
おなかがいたい、と
泣いた我が子のおなかを
なでたとき
苦しげな表情が
消えて
ふんわりと解けていきました
私が
私だけでなくなったとき
はじめて
在ってよかったと
心から思えたのです