第二十一話:馬鹿の中の馬鹿
今回は、ロゼが楽しそうだしそれでオッケーオッケー的なお話♪
さて、読者の皆さま方が覚えておられるか疑問を感じることが今回のお話に繋がってくるわけだが、
レプリード王国の王族貴族が総じて頭の悪い日和見主義の集まりであることはご存じだろう。
そんな中でもただ一人、中途半端に頭が切れるため、一周回って大バカな貴族がいるそうな。
今回はそんな貴族の隆盛を描いた天国と地獄の物語である。
◆ ◆ ◆
この物語の始まる50年前。
そう、ちょうどロゼが生まれたばかりの頃のことだが、これは彼女の居た地球ではなく、異世界にあるレプリード王国の50年前のお話だ。つまり時間軸は同じなわけだ。
「おぉ! 我らの愛の結晶がついに生まれたのか!」
「はい、あなた。
この子には“高貴な花の香りは爆発だ”という神の言葉を意味するソンムという名前をつけたいと思います」
「それはいい! きっと利口な子に育つだろう!」
レプリード王国伯爵家の後継ぎとして生まれた男の子――ソンム。
彼は愛されてこの世に生を受けた。
そして特に何が起きるでもなく時は流れ、50年後。
◆ ◆ ◆
「王様! 本当にこのままでいいんですか!?」
「え~、だってロゼさん達ってむっちゃ強いし、この国でも最強の騎士アクスが勝てないんだよ?
わしらに勝ち目なんて無いじゃん」
この王様に進言するのが現在50歳のソンム。
彼はそれなりの領地経営と、それなりの人脈に恵まれたために、それなりに優秀な伯爵様ではあるのだが、それゆえに無茶苦茶なロゼにやりたい放題されるのを放っておけなかったのだ。
「(くそぅ、こうなったら『レプリード王国破壊爆弾』で連中諸共吹き飛んでやろうか……)」
少しばかり物騒なことを考えてはいるが、そんな度胸は彼にはないのでご安心を。
これは心の中ではこのように大それたことを考えられる程度にソンムの頭脳が切れる証拠である。
他の貴族や王様は、そんな危険思想を思いつきもしないので、この点ではソンムの頭脳が非凡なる馬鹿な思考を持っていると言えよう。
さて、そんなソンムが次に考えた憎きロゼ達を排斥するための作戦とは何か?
……暗殺である。
ロゼが聞けば、「キャーコワーイ♪」と言って恐れおののく振りをしながら楽しそうに返り討ちにするだろう作戦だが、ソンムには勝算があった。
王国最強の騎士であるアクスすら勝ち目はなく、放っておけば(たぶん)無害な少女(50歳児)にどのような悪意が降りかかるのか!?
◆ ◆ ◆
ところ変わってロゼの研究所。
今日も優雅に夕食の女体盛りを完食したロゼは、新しい研究に勤しんでいた。
「ロゼ様、今度は一体何を研究しているのですか?」
「ええ、ちょっと人間をラジコンのように遠隔操作する機械をちょっとね。
前に作ったのは、作った段階で満足して実験すらしていなかったから一から作り直しているのよ」
お茶のお代わりを持ってきたチャックルの問いに、愉快そうな笑みを浮かべて答えるロゼ。
ちなみに夕食の女体盛りのお皿にはミッシェルが志願していたので、谷間や渓谷に差し込まれた愛しのロゼの箸捌きを思い出して今も部屋の隅で悶えていたりする。
「しかしロゼ様、以前作成された『人間リモコン』は非人道的という理由で使用しなかったのでは?
使用目的が出来たのですか?」
「ふぅ、チャックル……。
ここ最近の貴方はその明晰な頭脳を活用しなさすぎよ。
何でもかんでも聞けば教えてくれると思っていてはダメなんだから」
「……ふむ、自分で考えろと。
はいロゼ様、てぃんと来ました!」
答え合わせ。
チャックルの答えは「夕食前にダンボールに入って研究所に潜入しようとして捕まえた不審者を実験台にするため」と予測。
それに対するロゼの答え合わせ。「グッド!」
忘れている人も多いと思うが、チャックルは基本的に黒豹の姿である。
ロゼの強化手術を受けたことで液体金属の体を駆使して人型にも変身できるのだが、頑として黒豹の姿を譲らないチャックル。
だからなんだか、可愛らしい少女と動物の絡みっていいよねぇ~♪ な雰囲気になっている訳だ。
まぁ、その流れに気づいて目ざとくミッシェルまで撫でてもらおうと擦り寄ってくるので百合の流れにも移行するわけだが。
「さぁ、それじゃ二人も協力しなさい!
今時、ダンボールに入ったくらいでこの完璧なセキュリティを誇る私の研究所に侵入を試みる愚か者に引導を渡してやりましょう♪」
哀れソンム。普通に手土産持って玄関から入っていればこんなことにならなかっただろうに、下手に策を弄したためにロゼの玩具に。
でも仕方ないよね。50歳のおっさんだし、消えても誰も困らないんだもの。
こうしてロゼの玩具になったソンムは、レプリード王国に戻った後、すべての役職を辞して山奥に隠居するのだったとさ。
めでたし、めでたし♪
王城での役割と個人資産の大半を失った彼は、改造手術の副産物として上昇した身体能力を駆使して山奥で『うきょろきょきょーん』という奇声を発しながら逞しく生きていくのであった。
そして野生動物たちと戯れ、第二のロゼとなれるのかは彼の今後の努力次第。




