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第十話:科学料理人エィミィ

 科学調理法:火の鳥! 厨房は一気に戦場と化し、燃えあがった炎はまるで不死鳥の如く全てを浄化するのだった。

 そんな感じ……ではないお話。


 

 科学者にして人間を超えた人間。超越者のロゼには、彼女を慕って付いてくる者が多い。


 前の世界では自身の科学力が異常だと理解していたため、世界を改編しないためにも表舞台に出なかった彼女だが、動物達は彼女を慕っていた。


 今回はそんなロゼに惹かれた一匹の牛のお話。



 ◆ ◆ ◆



「ただいま帰りました~♪ エィミィさん居ますか~?」


「おかえり、セム。あたしが厨房を離れる時は滅多にないさね」



 エィミィと呼ばれたのはロゼに心酔する軍団員の一人。

 巨大な二本角にパンチパーマの人間型改造を施され、筋骨隆々の四肢を持つ調理責任者だ。


 年はロゼと同じく50歳のはずだが、彼女もまたロゼと同様に異様に若い! いや、逞しい!!!


 常に裸エプロン姿で見る者を引きつける彼女の筋肉は、一点の陰りもない美しさッ!


 ……まぁ、それはさておき。

 狩りに出てニワトリを狩ってきたセムとアクスは、ロゼの科学的転移装置によって即座に研究所に帰還してキッチンにやってきたという訳だ。


 オマケで狩った魔王は、めぼしい物を持っていなかったので倒したあと放置。

 殺してはいないので第二形態となって襲ってくる可能性も無くはないが、そこはロゼの楽しみのためにも期待して放置した訳だ。むしろ襲って来てみろというノリである。



「おや、あんたが最近ロゼ様のお気に入りだっていう騎士のアクスかい?

 あたしの名はエィミィ。ロゼ様配下で料理担当の大ベテラン。

 あたしの料理を残す奴は、死ぬよ」


「あ、ども。はじめまして。

 ロゼさんに惚れて振り向いてもらおうと頑張っている28歳独身のアクスでっSU♪

 ところで料理を残すと死ぬって、エィミィさん手ずから、料理を残した人を殺すってことっすか?」


「うんにゃ。あたしの料理には毒が入っていて、完食することで初めて中和されるのさ。

 ロゼ様の科学技術を加えた料理ってところだねぇ~♪」



「それは面白いっすね♪

 流石は俺の惚れこんだロゼさんだけあるZE♪」



 エィミィの筋肉に対抗してなのかサイドチェストのポーズを取るアクス。


 いや、お前そんなに筋肉質じゃないだろ?



「……ロゼ様もだけど、あんたもずいぶんと変わった男だねぇ~。

 (黙ってればイケメンって言葉はこいつのためにあるんだろうね)」



 初対面でも気安いやり取り。

 これこそがアクスの本質であり、ロゼに気に入られているところでもある。


 エィミィは、隣でニヤニヤ笑っているセムと似た雰囲気をアクスから感じ取り、感想を口にすることはなかった。



「それじゃ紹介も済んだことですし、アクスもその似合わないポーズをやめて話を進めるぞ?

 エィミィさん、今回狩りでニワトリ狩ってきたんで調理の方お願いします」


「あいよ、任せて大船どんぶらこってね♪

 (あーあー、折角あたしが気を利かしてスルーしてやったってのにセムったら)」


「マジで!? でもさ、エィミィさんの筋肉を見てたら対抗したくなるJAN?

 俺、そんなに似合わないか?」


 アクス、今度はマスキュラー。だが残念。

 アクスも頑張ってはいるものの、エィミィの筋肉に遠く及ばない。


 彼女の筋肉は比べることもおこがましく感じる美しさなのだ。



「ま、まぁ料理を始めるよ。

 アクス。あんたはチャックルにロゼ様を呼んできてもらいな」


「え? 俺がロゼさんを呼びに行っちゃ駄目なんすか?

 てか、セムでなく俺に頼むの?」


「あんたはロゼ様と出会ってまだ一週間程度じゃないのかい?

 知らないだろうから言っとくけど、ロゼ様が実験をしている時に実験室に入ると死ぬよ?

 あと、セムは毎回あたしの料理補佐係なのよ」



 唯一、ロゼが実験中でも自室への入室を許可しているのがチャックルだ。


 彼は改造前から外見は変わらないが、実際にはその体を液体金属へと強化改造されている。


 普段の黒豹の姿は彼の記憶がそうさせているだけで、実際にはどんな姿にも慣れるし、うっかり爆発や電気ビリビリに巻き込まれても死ぬことはない。理論上は。


 最近は似たようなタフネスを買われ、超悪魔ミッシェルも入室許可をもらったので唯一ではないが、それでも軽々しく入れるような部屋ではないのだ。



「ほら、分かったなら三分以内に呼んできてちょうだい。

 あたしの料理は科学的に時間を短縮できるから、どんなに複雑な料理を何人分作っても三分以内に完成しちまうのさ。

 冷めたら完食しても解毒出来ないかもしれないよ」



 急げアクス! 料理を美味しく食べるために!!



 ◆ ◆ ◆



 エィミィの三分クッキング~♪


 ロゼが配下の中で唯一料理の才能を見出した料理人。角と筋肉と巨乳成分だけ牛っぽいおばちゃんのエィミィ。

 彼女の腕は軍団随一と言えるものなのだが……、



「料理とは科学! 科学と言えば我らが主のロゼ様!

 すなわち料理とはロゼ様に捧げることこそ我らが望み!」


「いっえーい! エィミィさん今日もスンバラスィ~くて、おいぴー料理を期待しています♪」



 いつものように料理教室っぽい雰囲気を出すエィミィと、彼女の料理補佐をするセム。


 セムは何気に優秀……ではなく、ハプニングを起こすのが上手いので、本当に事故や不運で鍋をひっくり返したり砂糖と塩を素で間違えることが出来る。


 そしてエィミィは、そんなうっかりセムべえが側にいても美味しいものを作れる料理の達人だ。


 だからこそ主であるロゼはこの二人を料理当番に任命したのだ。



「あぁ!エィミィさん大変ですッ!

 間違えて圧力鍋でなく斥力鍋で火を掛けてしまいました!!」


「安心おし。そんな事だろうと思って科学的にベクトル操作で圧力鍋に即興で変えておいたから」



 この程度は日常茶飯事。



「あと、お米と間違えて小麦粉をチネったものを入れてしまいました!」


「それも心配しなさんな。とっくの前にすり替えておいたさ」



 ……これもまぁ、よくあること。



「うわぁ!!! 蓋をあけてビックリ!

 サムゲタンを作っていたはずなのに、かぼちゃのパイになっちゃった!?」


「……流石に完成品を持ってこられても修正しようがないねぇ~。

 みんな、今日のご飯は鶏肉を使ったかぼちゃのパイだから残さず食べるように」


「でもこのパイ、パイ生地じゃなくてクッキー生地だ!」


「生地すら別物!?」



 これにてお料理教室は終了。


 ロゼやアクス、それに研究所のみんなは美味しくかぼちゃのパイ(クッキー)を食べましたとさ♪


 それはとても美味しかったそうな♪


 

 ~後書き~


 チャックル「ロゼ様、エィミィの作る料理に毒を仕込んでいるのですか?」


ロゼ「ええ、無味無臭。しかも毒にかかっても何も起きない代わりに解毒剤もないわよ」


 それはつまり無毒と一緒なのでは? というツッコミは禁止です。


 料理は科学。

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