一話目
短編にしようとしたら、頭の中でねったストーリーが偉いことになった。だから連載に移行するお(*´ω`*)
酒場に入って最初に見つけた違和感がこいつだった。
「……あのっ」
人を呼び掛けるか細い声が酒場のざわめきにすぐに溶けて消えてしまう。
小さな背中だった。
顔はフードに隠れて見えないものの、気品の高さと物腰の柔らかさだけはよくわかる。
黒と白を合わせたローブを身にまとったその少女は確かに、薄汚い屑どもが集まる酒場には似つかわしくないほど綺麗であり、また危なっかしいと感じた。
「おい……」
「―――あ、はいっ」
緊張に震える甲高い声。
振り返るままに肩を縮こまらせフード越しに上目づかいを覗かせる仕草に、俺は軽く少女の肩を叩いて、彼女の傍を通り抜けた。
「あんた……何があったか知らんが、あんまりここにいない方がいい」
「……」
「バカと屑が多いんだ。お嬢様がいると服をむしり取られるぜ?」
呆ける少女に少し脅しをかけつつ俺は酒場のカウンターに座り、酒場の主人に注文をとりつけようとする―――
「……なんだ」
グゥウウッとズボンから突き出た尻尾を引っ張られる感覚。
痛みに顔をしかめて振り返る俺を、少女はフードに顔を隠しながら、こちらを見上げて丸めた俺の背中に立っていた。
何か言いたげに俺を見上げている。
だけど、口は貝の如く固く、喋ろうとする気配はない。
なんだよまったく……。
「―――マスター……なんで酒場にガキなんか……」
「俺だってできることならお前らみたいな屑どもを根こそぎ外に叩きだしたいさ。特にてめぇは全身毛だらけで掃除するのが大変なんだよくそが」
「……ひっどい物言い」
「やかましいわハーフウルフが。全身の毛毟って売ってやろうか」
「その前にあんたの首が飛ぶことになるからやめておけ。俺も優しいマスターを私怨で殺したくない」
「なら一発殴らせろ」
「いや……」
苛立ちに顔をしかめる目の前の酒場の主人に、俺は頬杖をカウンターにつきながら、おかしさに肩を震わせて子君良く笑っていた。
と、尻尾がグッと更に強く握られる感覚。
後ろに感じる、少女の視線。
痛みが僅かに頭の奥を走り、俺は顔をしかめると丸椅子に座ったまま振り返るままに少女の手を払い、後ずさる彼女を軽く睨みつけた。
「なんだよ……ブラッシングでもしてくれるのか?」
俺の視線にビクリと僅かに肩を震わせ身体を縮こまらせる姿は、まさに小動物と言った具合だ。
まったく、こんなガキがどうしてここに。
探しものだろうか。
それとも――――
「ったく……とにかく帰れよ。でないと俺が追い出すぜ……」
「……あのっ」
先ほどと同じ、少し甲高い、訴えかけるような声。
こいつを追い出そうと立ち上がった俺は、目を見開き、少し背伸びをして必死な様相で覗き込む少女に眉をひそめ、またイスに座り込んだ。
そして次の言葉を探そうと、華奢な体をもじもじとさせる少女に、溜息を洩らしつつ、膝に肘杖をつきつつ、俺はうんざりとした面持ちで首をかしげた。
「何か用か……」
「……あのっ」
「ん……」
「―――その……」
「ああ……」
「―――一緒に、冒険してくれませんか?」
思わず尻尾がきゅっと丸まり、ペタン尖っていた俺の耳が左右に垂れた。
それくらい脱力した。
その言葉を言うために、俺の後をついてきて、尻尾を引っ張り何度も言い淀んだのか。
コミュニケーションの取り方が下手くそなのか、俺のアプローチが下手くそなのか……。
「ったく……」
「あの……」
垂れた耳の中に聞こえてくるか細い声。
少女はと言うと、眉間を押さえて項垂れる俺のことを心配そうに覗きこんでいる。
マスターはというと、俺と少女の両方を見比べては、それこそ苦いものでも口いっぱい頬張ったようなひきつった顔を見せていた。
俺はというと、マスターとおそらく似た心境だ……。
「冒険……同行者を探していたのか?」
「はいっ……ただその……あまり人が集まらなくて」
当然だ。
そういうのは、ここじゃなくて近くの斡旋所がやってくれるし、俺もそこに登録して斡旋所越しにメンバー招集されるのを適当に待っているところだ。
こんなところでメンバーを集めたところで、集まる連中はいない。
まったく―――
「……執事から聞いたんです。ここには冒険者が多く集まるって……それで……」
斡旋所が近いからここに入り浸っているというのが正解だ。少なくともここは斡旋所登録者だけでなく、ただ酒欲しさに群がるクズも少なくはない。
どこの出身かは知らんが、あまりに世間知らずだ、この女は。
ともすれば、小石に蹴躓いただけで死んでしまいそうなほどに、か細く、崩れそうな命だ。
どうしたものか―――
「あの……冒険、一緒に……お願いできますか?」
と、伸びた鼻筋を掻いて悩むそぶりを見せていた俺の顔を、フード越しに覗いてくる少女。不安げに声は震え、胸元に手を置きながら少し肩をすぼめてそう囁く。
かといって、首を縦に振るわけにもいかず――
「マスター……ビール―――」
「お金ならありますっ。お父様からもらって一杯ありますからっ」
「マスター、早くビール……」
「お願いですっ。少しだけでいいんですっ。私に力を貸してくださいっ」
「マスター……」
「―――でないと……でないと私、お母様に殺されてしまう……」
耳がペタンと垂れる。
泣きながら後ろでささやく少女の言葉に、俺は顔をしかめつつも、観念して俯いて顔を何度も袖で拭う少女へと向き直ると、丸椅子から身体を離した。
そして片膝を立てるままに、項垂れる少女の頭を撫で、フードを覗きこむ―――
「……ひくっ……あぅ……」
「……。場所を変えるぞ」
「ひくっ……はい……」
「ったく……」
しゃくりあげる声が酒場のざわめきに消える。
俺は少女の手を取り、群がるクズとバカどもを掻きわけ、彼女を引っ張り木の床を蹴って薄暗いを酒場を出ることにした。
去り際、マスターの視線が痛かった。
グッと体毛に爪を食い込ませる少女の手が熱かった。
「ここはどこですか……?」
「俺の部屋」
「―――まさか私のことを……?」
「なんで嬉しそうなんだよ……」
話を聞けば、こいつはミア・オルトテニスという名前の少女だった。
オルテニス―――よく聞く名前だ。ここいらでは有名な名家で、王家の政治にも口出しができるというなんとも羨ましい話の連中だった。
そんな有名な貴族の娘がどうして……。
「あの……学校で頼まれたんです」
「―――母親は?」
「……」
―――こいつ、嘘をつきやがった。
「ご、ごめんなさい……」
怒りはなかった。
騙されたというより、こんなきゃしゃな体から俺みたいな比較的ガタイのいいハーフウルフを騙そうとする気概が湧いてくることに驚きを隠せなかった。
そこまでして、この女にはやりたいことがあるのだろう。
底ぬけて面白い―――気が付いたら、頭を下げるミアの前で俺はにやにやと笑っていて、慌てて顔を伏せた。
「……構わん。続けてくれ」
「はい……」
ミアはこう話した。
聞けば学校の課外授業で、何を使ってもいいので生きたドラゴンの心臓を手に入れてこいとの話らしい。なんかの魔法で使うとか、武器を強化する為に必要だとか。
学校―――ここいらで魔法学校と言えば、天輪魔術学院しか思い浮かなかった。
「は、はいっ。えとこのローブも制服でして……」
「あまり連中は外に出ないからな。わからなかった」
「学校では、外の人たちと交流するのは、原則ダメなんです……」
「今回はいいと」
「はい……」
「……」
俯きながら呟くその顔は、フードに隠れて見えないが、声色からしてあまり嘘をついているようには聞こえなかった。
それとも俺の耳が衰えたか―――
どちらにせよ、確かにあそこは閉鎖的な空間ではある。魔術の秘匿の為に外部の人間はほぼ出入りができない、一歩間違えれば巨大な要塞でもあるからだ。
言っていることに矛盾は見えない。
さて―――
「……えと……ついてきて、くれますか?」
「他にメンバーは?」
少女は俯いたまま僅かに首を振る。
「集める気は?」
少女は俯いたまま首を振る。
俺は天井を仰ぐ。
「……なんでだよ」
「―――ふ、二人以上の同行は、課題では認められていないんですッ」
「……」
――嘘、だろう。
どうも話が腑に落ちないのもあるし、声が震えているし、何より詰め寄ってくる少女の気配がとても必死であるからだ。
ただ嘘をついてまで、ドラゴン狩りなどと無茶をほざくこいつの心理も正直理解ができない。
何考えているのやら―――俺は少し間をおいてから、また少女に尋ねることにした。
「……どこのドラゴンを倒すんだ?」
「――エフェクトラの山の風のドラゴン族です」
東の遠方にある山岳だ。
常に嵐と気流の乱れで土煙がその姿を覆い、一年を通してあまり山景を見ることのない、いわゆる難所である。
そこに住んでいるのは少女が言ったように風のドラゴン族。
数十体ほどがあの山の頂上付近で群れをなして生息していて、風の中を自由自在に飛び回ることのできる、個人的に苦手な飛びトカゲの一種ではある。
まぁ別に苦労はしない。
連中とはイヤと言うほどこれまで戦った経験もあるし、多分俺とこの少女だけでメンバーは十分だろう。
十分―――
「……その一族の長を倒してこいって……先生に……言われました」
「……。マジかよ」
一族の長―――エフェクトラ山のマザードラゴンか。
あそこの山に住んでいるメストカゲは他のドラゴン族よりはるかに巨大なババァではあるし、正直、斡旋所でもアレを倒したという報告は聞いたことがない。
当然だ。
あのメストカゲを殺す事は、エフェクトラ山のドラゴン族を一掃することに等しいからだ。
正直、それをガキとワンコの俺と二人で為そうと言うのは、どうにも無茶が過ぎる。
さて、どうしたものか―――
「……」
「―――お願いしますっ。どうか一緒についてきてくださいっ。私どうしてもこの課題をクリアしたいんです」
「他の課題にシフトできないのか?」
「で、できませんっ。お願いです、一緒にドラゴンの長を倒してください。何でもしますからlt」
「……」
「お願いします!」
――溜息しか出なかった。
ただ、ここまで言われて断るのも、正直男としてすたれていると感じたのも事実だった。
だがそのために命を投げ出せる覚悟があるか。
男としての誇りの為に、嘘か本当かわからないような与太話に付き合うだけの度胸と器量が俺にはあるか。
「……ああ」
――上等だ。
嘘だったら違約金でも貰えばいい。本当だったらそれこそ英雄扱いだ。
生きて帰れたらそれでいい。死んだらそれまでだ。
こんなクズに生きている価値なんでそもそもあるわけがない。この女が俺の命をほしいと言うなら、それも一興だ。
面白い――――
「あの……本当に?」
「聞き直すなよ。俺の気が変わる前に契約を結ぶぜ」
「あ……ハイッ!」
俺は気がつけば、にやにやと笑っていて慌ててローブの奥から羊皮紙を取り出す少女を見下ろしながら、口の端から牙を覗かせていた。
グルルルゥ……
喉が僅かに唸り、突き出た鼻筋にしわが寄るほどに笑みを滲ませ、羊皮紙を差し出す少女を前に俺は興奮に何度も爪の伸びた手を開いたり閉じたりを繰り返す。
やばいな。サインする手が震える。
出発する前から興奮してきた―――
「……あの、大丈夫ですか?」
「気にするなよ相棒。……お前にも手伝ってもらうぜ」
「……はいっ」
力いっぱい頷きながら、ふいにミアのフードが脱げる。
そして俺はふいに顔をあげて、テーブルをはさんで満面の笑みで微笑む少女の顔を覗きこむ。
「オマエ……」
――匂ってきたのは、柔らかな花の香り。
長い赤髪をなびかせながら、少女はハッとした様子で紅い目を見開いては頬を赤らめ慌てて顔を手で隠して背けてしまう。
恥ずかしそうに俯く紅い瞳。
もじもじと華奢な体を動かしながら少女は
その横顔は、とても幼く、綺麗で―――どこかで見たことのある顔だった。
どこだったか―――
「あ、あの……」
「……まぁいいか」
頭が悪いので考えるのも思い出すのも苦手だ。
とりあえず俺は羊皮紙に自分の名前を書くと、恥ずかしそうに胸に手を当て不安げに立ち尽くす少女、ミアに紙を差し出した。
「アルト・フェルディアって言う……よろしくなミア」
「あ……はいっ―――はいっ、アルト!」
差し出した羊皮紙ごと、俺の手を握り締め、ミアは長い紅髪を振り乱しながら、一生懸命に何度もたじろぐ俺を見上げて頷いた。
その目は紅く澄み、どこまでも本気だった。
本気で、俺と共に戦おうとする目だった。
力強く、そして優しく、そしてどこか熱っぽく俺を見ている―――
「じゃあ……明日、飛行船でエフェクトラ山に行きます。装備はできる限りこっちで用意しますっ」
「――――おう」
「頑張りましょう、それで―――――それでっ」
「?」
「け―――」
「け?」
「――――なんでもないですっ!また明日迎えに来ますのでぇ!」
そう言って、ミアはドタドタと足音を立てながら、俺の部屋を後にしていった。
残ったのは部屋でぽつんと立ちつくす俺一人。
そして握りしめたままの羊皮紙。
「これ忘れたらいかんだろうに……」
どうしたものかと思ったが、取り合えず棚の奥に、この情熱のこもった羊皮紙を押しこみ、俺はベッドに直行した。
明日はドラゴン征伐。
それはそれは死に物狂いの戦いになるだろう。もしかしたら死ぬかもしれない。
興奮に銀の体毛が逆立ち、牙を覗かせながら、尻尾が興奮に風をブンブンと切る。
闘いたい。
戦って勝ちたい。
今にも飛んでいきそうな気持ちを抑え、俺は身体をベッドの上に丸めた。
眠りはすぐにやってきて、俺の体を癒してくれた。
『U』のキーが最近調子が悪くて、少女少女と打とうしたら画面には処女処女と並ぶばかり。うーんこのキーボードと思いつつ、もう少しだけ続くんじゃ




