第捌話 銀髪の娘
「はっ・・・ウラノス、姫!やめてあげて!!」
椛姉さんの声で唄が瞬時にやんだ。
異常を感じた美希は眉間にしわを寄せ椛の見て居るであろう監視カメラを睨む。
何かを察したのか顔を青くし美希がものすごい勢いでドアを開けた
「なぜ?いや、知っていたが、これほどだったとは」
いつの間にか美希が気を失った総真のそばに来ていた
総真は壁にもたれ掛かる様にしていて、苦しそうな表情をしていた。
「苦しかったか、すまない、お前に背負わす事はしてはいけなかったのにな」
美希の哀しそうな目で言った言葉は、総真には聞こえるはずがなかった。
「しばらく、休ませた方が良いな、校内じゃなく静かなところが良いか・・・」
「保健室はだめなのかな?美希ちゃん」
二人は倒れた人を何人も見てきた様な冷静さで話し出した
「だめだ、休ませる理由が無い、しかも、いまのこいつのは精神的ダメージが大きすぎる」
「家に帰らせるとか?」 「どの神社?」
「ああ、天理の神社って沢山あるんだっけ、ええっと、美希ちゃんの家に一番近いところじゃないかしら」
「しょうがない、責任上私が送る。家の運び屋をよんでおくから、椛は適当に理由付けをして置いてくれ」
椛は真面目な顔で首を縦に振った。
「わかりました。だけど、あなた達二人一緒に帰ったら間違いなく、いや、最低でも天兎族と天狗一族の子達はいかがわしい眼で視ると思うけど」 美希はジト目で
「・・・・・中学二年生ってそんなものなの?」 「だいたいは」 椛は笑顔で答えた。
ばかばかしいと小声で言ってから美希は大きなため息をついた
「仕方ないじゃあ、私はそのまま授業にでる。世話役がいるからそいつに面倒見させる」
「わかった、総真くんはここで迎えを待つ感じで良いのかしら?」
「それで良いだろう、あぁ、あと診断結果どうすれば良いんだ?」
「貴方の場合は、もういっそSで良いんじゃない」「アバウトだな。でも、それだと目立つからAの方が良いんじゃないか?」
「えっとね、美希ちゃん美人だし目立つのよ、下手に誤魔化すより可能性無限大って感じにしちゃえば的確なデータは漏れないんじゃないかしら」
「わかった、ところで着替えるから、総真に目隠ししてくれない」
「大丈夫、大丈夫、気失ってるから、分かんないわよ」
「・・・・なんか、嫌・・・・」
「わかったわ」ふてくされる美希を苦笑いをして椛は眺めていた。
美希が無造作に総真に目隠しをつけたかと思うとたった1分で着替え終わってしまった。
拳銃をホルスターにしまうとすぐに椛の電話を借りて誰かに連絡をし始めた。
「ああ、私だ、いろいろあってな。一人天理を運んでくれないか?」
『○×△★*』
「・・・・・よし“10秒”で来い」 「!?」
美希が当たり前のように言った言葉に椛はあ然とした。無理もない美希の家はここから2㎞強はなれている。とても10秒でこれるはずがなかった。
そして、きっかり10秒
------バサバサッという音がしたかと思うと着物姿の娘が一人、翼を生やした狼みたいな生き物に乗って天から降ってきた。
しかも、美希そっくり・・・。違うところと言えば髪は黒ではなく銀髪。目は綺麗な青じゃなくて金色に輝いている。そして、この完璧な笑顔はたぶん美希には作れないだろう。
一番似ていない所は左の眼球の瞳孔の周りに一つの紅い線がはしっていることだ。
外に乗ってきた生き物を置いて、校内に入る。研究室のドアをノックし、あけるとすぐに美希を見つけ、美希の目の前に来て片膝を付いている。しかし、彼女は雨のせいでズブ濡れになっていた。
「お嬢様ただいま参りました」
軽く頷いたかと思うと美希は黙って総真を指さした
「こちらの殿方が天理のご子息ですか?」
「ええ、そうよ」
椛が言葉を返すと血相を変え、立ち上がり美希と椛の間に自分を移動させる
「どちら様ですか?」眉を寄せた顔は裏の美希そっくりだ
「名を訪ねるときは己から名乗れ、白兎」美希は無表情のままで淡々と告げた。
それに、反応するように白兎と呼ばれた娘はピクリと動き「申し訳ありません」と即座に返してきた。
「私、天童 美希様の側近を務めさせていただいております天風 白唯と申します。お嬢様には白兎と呼ばれていますどうぞよしなに」
「これはこれはご丁寧に、わたしは烏水 椛。烏天狗の一族で能力制御装置を開発しているわ、よろしくね白唯ちゃん」
「・・・・・・」対応に困る白兎をよそに美希は総真を指さした
「荷物はあれだから、よろしく」
「わかりました」 瞬時に美希に笑顔を振りまく白兎を無視して美希は話を進める。
「丁重に運べよ、一応は漆黒の天子だ」美希は冷たい目で総真を見て、小さな舌打ちをしていた。
「では、警備はお嬢様と同じようにさせて頂いてもよろしいでしょうか」
「わかった、あいつらを使っても良いぞ」相変わらず無愛想な美希と愛想を振りまく白兎。
「お心遣い感謝します」と言い白兎は一礼した。
“白兎を気遣わず無表情で淡々と命令する美希”
“美希の命令には絶対逆らわず笑顔で従う白兎”
その二人は、まるで絶対的な“縛り”があるように見えた。
血のつながりでは無く何か深い縁の様なモノで・・・・。