第伍玖話 舞台で舞う
計画?なんだそれ・・・
「方法はいくらでもある。過去の天子の器達はどうなったか総真は知っているか?」
「・・・・椛姉さんから少し」
姉さんからは知るべきではないと念を押されていたから忘れていたが。
「クロノスは苦しむ死に方をしたらしいな」
「いつも処分されるのはクロノスだった。白い翼は神聖視され、黒い翼は異形視されたんだ」
ゆるゆる動いていた山車が止まる。
「クロノスとウラノスは同時期に現れるのは意味があるらしい。それを阻止するためにクロノスの器は殺される。それはウラノスの器でも良いのではないか?」
「・・・っ!!」
兄貴を殴ろうとした瞬間、幕が少し開き京華が顔を出した。
「クロノス様、お疲れ様です。これから舞に入ります」
「まぁ、しばらくこっちがお前の天理としての仕事だしっかり果たせ」
なにをえらそうに。
兄貴に続いて山車を出ると美希が先を歩いていた。
白を基調とした衣装に重たそうな鈴が多い髪飾り、青い石の着いた装飾品の数々、長い黒髪がよく映える。
周りの見物客が息を呑むのが分かる。やっぱり綺麗だ。
舞は一日に二回披露される事になっている。
一回目は一般向け、二回目は親戚向けだった。
こんな長ったらしい舞を何でみんな見に来るんだ?
一般の来客数はあり得ないほど多く、老人達は俺達を手を合わせて拝み、関心のなさそうな若者達は見せ物気分で見ている。
若者の間違った話では、ウラノスやクロノスは天兎族の中でも特に美形の人が演じているみたいな噂が出回っているらしい。去年まで白兎達が演じていたからか?
「・・・エアコンのある部屋に早く行きたい。湯浴みがしたい」
とかなり険しい顔で訴える美希の額には汗が滲んでいた。
「えぇ、後でお色直ししましょうね」
そういう母さんは美希を風呂場に誘導した。
「清めた水しか浴びられないと言うのに、物好きですねぇ」
京華がいうのも分かる、コレで今日三回目だ。祭りでは毎回の事らしいが。
「水足りなくなるんじゃないか?」
「むしろ良いと判断だと思います。七天祭は正式な儀式です。毎年、貴方が引き籠もっている間に下は大忙しだったんですから」
「ウラノスとクロノスを祭り上げる儀式だったか?」
「ええ、そうですよ。天兎族の士気を高めるためです。現在、天兎族の人口は増加傾向にあり、分家以外は“翼を有した者”しか登録されてませんから・・・」
「やはり、ウラノスとクロノスの存在は必要なんだな」
「あのウラノスの器はとっととくたばって欲しいですがね」
「ほんと、京華は美希のこと嫌いだよなぁ」
「彼女が本物の天童美希とは思えないので」
「は?」
「巫女達も言っていたでしょう。彼女は7歳の時からこの舞を始めています」
ですから、例の事件以前から面識もありました。
「その頃の彼女と今の天童美希。別人みたいなんですよ・・・」
「---どんな風に違うんだ?」
ふぅ、と小さく息を吐くと京華は眉間にしわを寄せながらも淀みなく話し続けた。
例の事件前の天童美希もかなりの逸材ではありました。大人達に囲まれて育ったからでしょうか、しっかりした子で礼儀正しく、覚えも早かったです。まぁ、天兎族の血筋は能力や知能の高い者が生まれるのは珍しいことではないですが・・・。
彼女は明るく、微笑みを絶やさず、けっして傲慢になったりしなかった。
そう、聖女であり賢女であった。
ウラノスの器としてその小さな身体で全てを受け止めながら、彼女は笑っていた。
あの事件の後、帰ってきてすぐの美希を親父に使われた京華は見たらしい。
「表情が無いんですよ、あの無機質な目を見てるとおぞましい」
全てを吸い込み無に変えてしまうようなあの瞳が。
陶器でできた人形のような心のない表情が。
「まぁ、聞く話によると総真様の前では猫を被っているらしいですが・・・」
襖がたてる音と共に出てきたのはヤケに冷たい表情をした美希だった。
「総真、次の仕事だ」
突き刺さるような低い声、全身に鳥肌がたつ。
不味い・・・・聞かれたか!?
「重鎮様がお見えになるぞ、気を引き締めろ、総真」
いったいどれだけの人間が気付くのだろうか、その無機質な瞳の奥、何かに震え続ける彼女の姿を。