第伍捌話 窮屈で霞む
私にとってこの祭りは行事と言うよりただの作業と言った方がしっくり来る。
山車はゆるりゆるりと前へ進み私は中でただ座っていると言う作業。
外からは美味しそうな香りや楽しそうな声。
それにつられて私は山車から抜け出したことがあるらしい。覚えていないがな。
まったく、山車の中から顔を見せないならこんな重たい衣装着る必要無いと思うんだが・・・。
「・・・・長い、暑い」
「みんな一緒です。我慢して下さい」
三畳ほどの広さの山車の中、二人は何もせずただ向かいの隅にそれぞれ座り、足を投げだしていた。
「扇風機ぃぃ!!」
「持ってきたところで動きませんよ」
余計暑苦しいので止めて頂けますか?と流し目で鬱陶しそうに睨む京華に美希は舌打ちで返す。
「大体、なんで姫巫女が私の担当なんだ?珠璃になるはずだったのに・・・」
「私だって総真様のお付きのはずでしたよ!」
「あの裕真が立候補する何て誰も思わなかっただろう、次期当主をむげにも出来ないしな」
これほどまでの肩身の狭さは最近の俺でも味わったことがない。
俺に付く護衛は京華じゃなかったか?
ただでさえこの狭い空間に仲の悪い・・・というより接しようとしない二人がこうも閉じこめられると気まずさは増すばかりだ。
「---総真」
「なっ・・・なんでしょうか」
「そんなに畏まる必要はない、兄弟だろ」
「あっ、はい」
「聞きたそうな顔をしているから教えよう、それが目的でもあるしな」
ふぅ、と小さく深呼吸をしてこちらを射抜く様に見やる。
「総真に話があってきた。ウラノスの件だ」
やはりか・・・
「クロノスとして、天理家次男として、どう考えている?」
「先に聞きたい、兄貴にとってウラノスは敵か?」
先手を打っておかないとこっちが全部持ってかれる、兄貴は親父とそういうところがそっくりだ。
「ウラノスという存在は天理としては神仏に近いからな」
「俺が質問を間違えた、天童美希は敵として考えているのか?」
「良いものとしては見ていない俺にとっては損害の方が大きい」
「確かに迷惑しか振りまいてないしな」
たぶんこういう事がいいたいのだろう、と見透かしているような回答が癪に触る。
「俺個人の目的を端的に話そう“ウラノスの消滅”だ」
「兄貴ってそんな荒っぽい思考してたっけ?」
均衡と秩序ばっかり気にしてる奴だと思っていたんだが。
「これは本来、“クロノスの消滅”までを終着点とした通過儀礼でしかないがな」
俺の話は無視かよ。
「何故それを今俺に話したんだ?」
「最近、クロノスの器にウラノスの器が過度の接触を試みているからだ」
「それの何が悪い。ウラノスとクロノスは天兎族にとって守るべきものなんだろ?だったら一緒にいた方が守りやすいんじゃねーのか?」
「天兎族が守るべきは血統と能力だけだ。ウラノスとクロノスは厄介な存在にすぎない」
天兎族の祖先は天子ウラノスとクロノスである。
ウラノスとクロノスがいなければ今の俺達は存在しない。
だが、何故ウラノスやクロノスは器を媒介にして500年間隔で過去数回現れているのか。
その謎は解明されていない。しかし、天兎族はそれをなんの疑問も持たず受け入れている。
更には崇拝しているような状態だ。
そもそも何故、翼を持つ天兎族が現れたのか。
そんなことを知らずどうして受け入れているのだ。
それらを天理家次期当主として教えられたとき兄貴は思った。
『ウラノスとクロノスはいらない存在だ』
だが、天理家としてその謎を受け入れる義務がある。
だから、今ウラノスの思惑に踊らされるのは目的達成の邪魔で敷かなく、身内でありクロノスの器である弟に余計な行動をして欲しくないという話だった。
「・・・随分勝手な話だな」
「俺も勝手だとは思っている。お前に全て教えてしまえばクロノスにも干渉してしまいかねない」
「だから、それを俺に話すのは不味いことじゃねーのかよ」
さっきも同じ事言ったんだが?
「天理家現当主からの承認は得ている」
それは京華や母さんは知らないってことか?なんて勝手な奴ら。
「天童家はそのことはしっているのか?」
「先代が亡くなられた時、天童美希は継承者として認められていない。だから生前に話されているかは分からない」
なるほど、美希はどうか知らないが天理家と天童家の極秘事項らしい。
「それで、俺にどうしろと?」
「ウラノスの器との関係を今すぐ絶ってくれ」
「それは無理だ」
総真は即答する。その姿に裕真は感心しているようだった。
「天童美希はウラノスの器である前に、俺のクラスメイトで、俺の上司で、俺の---」
“守ろうと決めた奴だ”
「・・・なんにせよ、人との関係なんてそんな簡単に絶てるもんじゃないだろ」
「それは困るなぁ、こっちも計画の方向性を変える必要がある」
満面の笑みでこちらを見る姿が親父とだぶって見えた。