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空に響く歌声  作者: 麻香
5 五里霧中で悪戦苦闘
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第伍壱話 勉強会では捗らない

野桐図書館にある自習室はクーラーが効いているので涼むにはうってつけの場所だ。

そんな場所に勉強会と称して集まった総真、勝呂、篠原の三人組は個々で全く別のことを始めていた。


『夏休みといえば?』

そう持ち出してきたのは勝呂、彼の頭の中には遊びの計画を立てることしか無かった。

「ずっと仕事に専念できるよ」

そう言って、ニコニコと笑顔を保つ篠原は相変わらず、キーボードを打つ手を止めない。

「じゃなくて・・・プール!海!山!あと、夏祭りも良いよな」

無理矢理、自分の好きな方向に話を持って行った勝呂の宿題は何も進んでいない。


「夏祭り・・・はぁ・・」

地道に進めていた筆を止め、総真はあからさまに溜息をついた。

「なんだよ、総真。夏だぜ?元気出せよ」

「まぁ、総真君にも色々あるんだよ、彼の家が神社だって事忘れてないよね」

「おぉ!そういやそうだったじゃねーか!お前無料券とか持ってるか?」

「もっていたとしても俺は使わん。うちの祭りは二人で回ってくれ」

「ンだよ、つれねぇな」

「何か仕事があるのかい?」

篠原は手を止め心配そうに俺を見る。勝呂の前でそう言う話をする時はそれ程深い回答を求めていない証拠だ。

「表だったことは無いけど、疲れるからいつも家に籠もる。兄貴は挨拶に回るらしいが」

「おいおい、夏祭りを家で過ごす何てありえねーだろ」

「総真君の場合、家を出なくても夏祭りに行くことになっちゃうけどね」

「だいたい、お盆の祭りなら街が仕切れよ・・・」

「しょうがないよ、コレは七天祭の名残なんだから」

むすっと拗ねている総真を微笑みでながす篠原、勝呂は一人、顔をしかめていた。

「なんだそのしち、七福神?・・・福神漬けか?」

「ブッ・・・」

七天祭(しちてんさい)だっ!」

久々に篠原のふいた姿を見たな。彼のツボだったらしい。


「ははっ、天兎族たちのお祭りなんだけど、お盆の夏祭りと15~20年くらい前に混同されちゃって、今じゃあ天子のための舞も完璧見せ物になっちゃったね」

「あれは、見せ物用だ。本番は後で天理と天童と幹部だけでやる」

「そんな重要機密教えちゃって良いの?」

「別に重要な事でもないさ、ただの義務だからな」

“祭り事を仕切る天理家”の義務な。

「大衆にも、天兎族にも拠り所を提供するのが天理の仕事さ」


嫌いだからといって、逃げられないんだがな。




今夜も演舞の練習に励む巫女達、その中に美希が混じってることに気付く人は何人いるのだろう。何故だ?去年まで京華の仕事だったはずなのに。

「おぉ、総真。どうした?浮かない顔をして」

やたらと元気そうな美希は復活して一週間と経っていない。その間色々あったが・・・まぁまたの機会にそれは話そう。俺は相変わらずこき使われているんだが。

「何でお前がココにいるんだ?その立ち位置は姫巫女の場所だろう」

毎年練習している風景を見ているため、それくらいは俺にもわかった。

「姫巫女がいそがしくてな。今は代役だ、本番は出ない」

親父に頼まれた美希は白兎を代役に行かせようとしたが、巫女達に取り囲まれたらしい。

ご愁傷様な美希さんはおいといて、それ以前に・・・。


「何で舞えるんだ?」

「なんでだろうな、不思議と身体が動く」

おいおい、回答になってませんよ。

年長の巫女(とは言っても20代だが)が穏やかに語った。

「美希様は七つの時に姫巫女の代役を務めているのです」

「私は憶えていないが・・・」

「小さかったですからね、覚えが早くて驚きましたよ」

「あの時の美希様は可愛かったですよね~」

「今も可愛いですけどね~」

どことなく青ざめている美希はどうしたのでしょう?


あ・・・美希がつかまった。

巫女達に撫でられ、抱きつかれ、小さい、可愛い連呼され続ける美希は目を回している。


「そろそろ休みにしたらどうだ?皆疲れてるだろ?」

「総真様はお優しいですね」

「お言葉に預からせて頂きます」

妙に満足げな巫女達が去っていった後、残ったのは魂が抜けたような顔をした美希だった。



「・・・大丈夫か?」

「何時になったら戻ってくるんだ!?姫巫女は!・・・もう帰りたいです」

あぁ、混乱していらっしゃる。その証拠に口調が表美希と裏美希ごっちゃになっていた。

「とりあえず、今の時期天童家(おまえ)も忙しいんじゃないのか?」

祭りの時期は一族全員が集結する為、天童家も仕事が多いはずだ。

「・・・病み上がりで、ダウンした」

頬を膨らましながら言う美希は子供のようで可愛らしい。

「はぁ、それは病み上がりの所為じゃないだろ。お前のスケジュールどうなってる?」


「今日は、会議が3つ、書類が1000枚、昼は珠璃の相手、暇な時間は夏休みの課題に回して・・・」

「ちょっと待った、それで終わったのは?」

「書類以外全部」

夏休みの課題も!?どんな仕事量だよ・・・。

「んでその後、親父につかまったのか」

「そう、でもまだ余ってる書類が237枚、追加で133枚の報告書が夕刻に届いた」

「まさか、それも片づけるつもりか?」

「いや、珠璃に止められた。意外とあれは頑固だからな」

会長の押しには美希は敵わないらしい。もし、会長が折れていたなら今頃、美希は残った書類を片づけているだろう。ホントに美希はいつ寝てるんだろうか・・・。

「会長もお前が一番大事だからだろ」




客間にいったん移動して茶を飲みながら俺と美希は話していた。もちろん仕事の話が大半だったが、結局は祭りの話に行き着く。

「・・・総真は祭りはどうするんだ?」

「特に決まってない、今年も部屋に引き籠もるかな」

「総真が毎年参加してないのは問題になってるんだぞ」

溜息をつきながら和菓子を小さく頬張る美希はその甘さに顔の緊張を緩める。

「俺はああいうのは苦手なんだよ、大体兄貴と一緒にいるのも・・・」


「あぁ、そういえば兄上殿は健在でいらっしゃるか?」

上目遣いで真剣な表情をしている美希はその体制から一ミリも動こうとしなかった。

ってか、いきなり敬語で喋るなんて気持ち悪いな。

「向こうが避けてるからな、ほとんど会わない。美希は会合とかで会わないのか?」

「ん?あぁ・・・会わない訳では・・無いぞ」

「なんだよ、歯切れが悪い。美希らしくねー」

いつもズバズバ物言うくせに。

そういえば、兄貴の話を美希とするのはコレが初めてだな。

俺はどうせ次男坊だから跡継ぎ問題には一切興味はないが、兄貴とは冷戦状態のままだ。

「・・・とにかくだ、今年はお前も出ろ。天組は皆出席するのが習わしだ」

「下っ端には関係ないだろ」

天組では篠原よりも俺の位は低い、もし俺が天理じゃなかったら(みき)の顔なんて拝めない立場だ。

「全員招集がかかる、と言うか・・・」



「--平和ボケの為、私のためにも出席しろ。今回、お前がいない状況は極めて危うい」



はいはい、また命令ですか。ソレって俺に拒否権あるんですかね?




ここまで読んで頂き有り難う御座います!


更新遅れて申し訳ありません・・・。

第五章スタートです!

やっとこさ来ました夏休み編!

これからも『空に響く歌声』をよろしくお願いします。   麻香より


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