第肆肆話 約束か偽物
とある荒れ地に威圧感を放つ研究所。そこには天童美希と同じ顔をもつ少女達。
美希は取り囲む偽物達に問う。
「おまえ達が何故私になり得ないのか、おまえら自身はしりたいのか?」
答えは振り下ろされた能力殺しの剣にあった。
襲いかかる少女の背中からは紅に彩られた刀が突き出ていた。
「哀れだな、言葉も使えないのか・・・」
ズシュという嫌な音と共にその刀が引き抜かれ、美希の無表情なその貌には鮮血が降りかかる。
何も映さず輝くその瞳に反して、身体は的確に少ない斬撃で相手を殺していった。
美希の背中の翼がギシギシと擦れ合う、柔らかい羽からは想像できない音。片翼は部分的に露わになった骨、攻撃されていないのにもかかわらず、こびり付く黒い血の上にまた新しい血がにじみ出していた。
次々と積み上がる少女の亡骸。足下には池のように血が滴り、ぴちゃぴちゃと歩く度に音がする。
能力殺しの剣はこちらが能力さえ使わなければただの重い剣となる。10歳ほどの体型の少女達にそれを使わせるとなれば、剣に振られる形となるのだ。
そんな状態の彼女たちと、刃物の扱いにも長けている美希の差は技術的に大きく差を開いていた時。
「まだよ!」
白衣の女の叫びと同時に横のシェルターが開き先程の二倍近くの偽物の少女がぞろぞろと歩いてきた。
「長期戦は苦手なんだよなぁ・・・」
と疲れた顔を垣間見せた美希は、面倒くさい、と小声で呟く。
「ウラノス、久々に貴方の能力を貸して貰うわ」
青く輝く瞳の奥に淀んだ何かが蠢く。風は彼女を守るように包み込む。そのとき、一瞬見えた右目の紅い線がいっそう濃くなったように感じられた。
天童家の屋敷内で書類に目を通していた白兎は突然激しい動悸に襲われる。
「あっ、ぁぁあぁああ゛」
血の巡りが速くなり、左目が痛み出す。
「だっ駄目です、主様」
どっと汗が流れ出し、高熱を発した時のように白兎は力なく倒れ込んだ。
白兎はウラノスの力には抗えない。
「・・・無理をなさってはいけません」
彼女の意識が途切れたとき、ウラノスの能力は一気に解放される。
「“妾の能力”を解放するのは数年ぶりか?」
美しく笑うウラノスは幼い無垢な子供を連想させる。輝きを増す黒髪が風によって乱れていた。その風格は凛としていて畏怖を周りに植え付ける。
「退くなら今だぞ?白衣女」
ガラスの向こうに告げると、白衣の女はニンマリと下衆びた笑みを見せた。
「ハッ、ウラノスを目の前にして捕らえない訳にはいかないでしょ?」
「・・・そうか、それが答えか・・・」
“おろかなやつだ”
ウラノスは目の前にいる自分と同じ顔のソレを抱き寄せる。
するとその少女はみるみるうちに乾き、砕け、灰と化した。
その砂塵が指からすり堕ちていくのをウラノスは辛そうに眉をひそめ、嬉しそうに口は微笑み、遠くを見るような目で見つめていた。
「すばらしいわ、ウラノス!貴方は本当に存在していたのね!」
歓喜に浸る白衣の女は赤いフレームのメガネをかけ直した。
そのガラス越しの声はウラノス自身には届かない。
全く、いつ見てもこれには慣れんな・・・
(昔の約束は覚えているか?我が器よ)
(あぁ、それは覚えているよウラノス。いくら記憶がないと言ってもソレは忘れはしない)
ウラノスと意志を交わすことは私が言葉を覚えるよりも早くできた。
私が生まれ落ちた瞬間から彼女(?)は私を器として存在していたのだ。
これは、今から九・十年前。私が四、五歳くらいのことになる。
私はウラノスと約束をした。
“おまえは嫌ではないのか?、妾がいる限りおまえは不幸になるぞ”
ウラノス転生が発覚するのは二年後、能力が覚醒するのはそこから更に三年後となる。
「嫌?なんで?」
“・・・・”
「だって貴方は私と一緒でしょ?お父様達がいなくても貴方がいてくれるじゃない!」
“・・・だが、妾の能力は全てを壊してしまうんだ。妾はココに居場所がない”
「だったら、私が貴方の為に創ってあげるわ」
“・・・何を?”
「貴方の居場所をよ、貴方は私を独りぼっちにしないお礼に私は貴方を救ってあげる」
“ははっ、居場所か・・・おまえは面白い。妾の贄となった天童の中にはそんなことを言う奴はいなかったぞ?”
「・・ニエ・・・なぁにそれ?」
“まぁ良い、頼んでみようかのう”
「うん!任せて!」
その笑顔は誰もが幸せになるような輝きある純粋なもの。
彼女なら、叶えてくれるかも知れない・・・
“・・・すまんが、もう一つ頼み事がある”
(お前が妾に居場所を与えると言ったんだ。だったら妾は他の奴の造った器などいらん)
(後ろめたさを感じるよウラノス。貴方の消したモノに対しての後悔ね、コレは。平気だよウラノス、私が殺ったの。だから私が許さないの彼女たちの存在を)
「ふふっ、お前は大きくなったのう」
群青の濁った瞳に濃く走る紅い線、右目だけでなく両目ともその線が巡っていた。
瞳を隠す前髪はそのままだが黒髪の色素が薄くなりうっすらと灰色、いや銀に見える。
彼女の背に現れたのは白銀の四対の翼。
輝きに満ちた彼女の姿はまさに天の子と呼べるだろう。
「妾の能力、見てみたいのだろう?」
ひらりひらりと舞う白い羽が彼女を包む風に煽られ部屋全体に降りそそぐ。
---ガシャン
その時だった、周りが闇に包まれたのは。
「ブレーカーを落としたバカがいるわね・・・予備電源に切り替わるわ」
白衣の女は驚くことはなく、逆に興がそがれたと舌打ちした。
しかし予備電源に切り替わってもなお、この部屋だけ明かりがつかない。
不審に思った女は辺りを見回す。
・・ぐしゃ・・
声もなく首から出血して倒れていく、綺麗に着飾った美希の形をとったソレ。
「---腹が立つんですよ」
気が付いたときには女の首に輝くナイフが添えられていた。
「何で僕がこんなにもイライラしているのか、貴方ならわかりますか?」