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空に響く歌声  作者: 麻香
4 四苦八苦か意気揚々
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第肆弐話 普通か非常識

朝起きて、学校の支度をして、カレンダーを見たら土曜日・・・

何という脱力感、今までの苦労は何だったんだろうか。

部屋着に着替え直す・・・あぁ、そう言えば最近では着物を家で着るのは珍しいらしいな。

絶対こっちの方が楽なのに、小学校の頃よく驚かれたものだ。

階段を下りれば、巫女達がせわしなく朝食の用意をしている音が聞こえる。

家族用のテーブルと巫女達の食べる場所は違うんだが、テーブルに兄貴が陣取ってるので、巫女達の方へ回る。

「「おはよう御座います、総真様」」

ものすごい威圧感。笑顔の巫女達の中に呆れ顔の姫巫女、京華がいた。

「またこちらで食事ですか?、女ったらし」

「別に良いだろ」

「裕真様と仲が悪いにせよ、こんなところで食事を取られるのはどうかと・・・」

「親父もいるじゃん」

「おはよー総真。また裕真と喧嘩でもしたのか?相変わらず仲悪いなハハッ」

「総史郎様?何してるんですか!いつここに来ました?」

「ん?さっき」

きょとんとした顔でいう親父は明らかに京華をからかっている。


「にしても・・・たわけがッ!お前ら主に対しての敬意がなっとらん!」

京華が血相を変えて怒りの切っ先を向けたのは巫女達だった。

「京華姉さまって、私たちには古風に怒るよね」

「聞こえてます」

「えー、だって私たちいつも総真様とお話できないんですよ?主様もあまり喋ってくれないしー」

「こら、はしたない!」

「ごめんよ、忙しくてね。だからこうして僕はここにご飯を食べに来ているんだ」

心底悲しそうな顔で言う総史郎は巫女達を娘のように可愛がっている。

真のたらしは親父だろ!?なんか言い訳まじっているぞ?

「京華姉さまはいいなぁ、いつも一緒でしょ?」

「仕事がない方が楽だろ」

そう俺が呟くと、巫女達の空気は一気に暗くなった。俺が幼い頃怯えていたその表情。


「総真様は解っておいででない」

「私たちは働いてこそ存在意義があるのです」

「天理家の巫女として天理に尽くすのは当然の事」

「そのためだけに生きている者も中にはいるのです」

「天理のお手伝いをするのは私たちにとっての幸せです」

「あまり、そういうことを言わないで頂きたい」

「全ては貴方様とこの家のために私たちは尽くすのです」


「・・・ほら、みんなご飯食べよ?」

流石は親父、こういうところでは流れを変えてくれる。

何というか、普通だなぁ。普通は好きなはずなんだがな。

いつから俺は自らズブズブと面倒な方へ足をつっこむようになったんだろ?

アイツが来てからか?





人が避けて通るビルとビルの狭間の路地、15~19前後の若い男達がたむろしている。

データに出てきた顔ぶれと一致するその4人に俺は接触を図っていた。

「あん?誰だてめー」

来るなりガンとばす奴らと関わるのは天組の下っ端としては恒例行事だ。

「こんにちは、こんな昼間からのんきなものですね」

あくまで視線を合わせず、置いてあるビール缶や煙草の吸いがらなどをじっと見つめていた。若干挑発気味なのは自覚しているが止める気はさらさら無い。

「ここが、どこだかわかってんのか?」

「いいえ、解りませんねぇ」

「ここらはなァ、かの早乙女様の土地(シマ)だぞ?」

「はあ、そうなんですか」

天組の土地のはずなんですけどね、何というか最近の若いのは。

「何とぼけてやがる、意味がわかんねーのか?」

イライラしているのか、置いてあったビール瓶の箱を蹴飛ばす。自分が痛いだけなのに、無意味な行動だな。一般人だったらビビるんだろうが、俺には何の威嚇にもならない。

「わかんないですね。俺、あなたがたに用があってここに来てるんで」



連れて行かれた場所は廃墟、輸送会社が使っていたのか大型コンテナが置きっぱなしだ。

しかし、こんな山奥にコンテナが置いてあるなんて不自然だ。後で調べておくか・・・

コンテナの上でふんぞり返るそいつを見上げると、周りにいる敵の多さにうんざりした。

「どうした?何か用か?」

「聞きたいことがある」

「いいぜ、答えてやる」

「おまえは“染幻(せんげん)の早乙女”で間違いないな?」

「その名を聞くのは久しぶりだな。みんな恐れて口に出さなねぇ」

瀬川 祐子(せがわ ゆうこ)はここにいるな?」

「あいつがどうした?テメーまさか元カレ?それにしてはおまえはガキすぎるな」

「ここにいるのか?」

「あぁ、いるぜ。ちゃーんと生きてるよ」

笑う早乙女を睨み付けると周りの手下共がざわざわと笑い始める。

その不愉快さに眉をひそめると彼らは下品に大笑いを始めた。

「このコンテナーのどっかになァ!!」

「---そうか、わかった」

「んじゃあ帰って頂きましょうか?お坊ちゃま」

バカにした口調で言う早乙女。手下共も腹を抱えて転がっている。


「そう言うわけにもいかねーんだよなぁ」

頭を掻きながら父親似の微笑みでそう呟くと総真は深呼吸をして大声で叫んだ。

「俺は天組(そらぐみ)の者だ。依頼によりここに来た!」


一気に静まりかえる倉庫内。天組の名は世界中に轟いている。“超能力者の居場所”“凶大組織”言われ方はそれぞれだが、相手にしてはいけない人間の集まりであるのは確かだ。


そんなうちの1人がここに来たのだ(下っ端だが)青ざめる手下共の反応は正しい。

そんな中、眉一つ動かさない早乙女は見下したまま黙る。

「うぁあああぁ」

沈黙を破ったのは鉄パイプを持った男の一撃だった。

「声を上げて近寄ったら奇襲はできないだろ?当たり前だぜ?」

しかし、総真は振り返ることもなく避けてステップを踏み、かかと落としを男の背中に放つ。男は倒れてヒューヒューと変に呼吸をするだけだった。

京華の方が断然速く、会長の方が重い攻撃をする。

毎日相手にしている総真にとって彼らはもはや敵にもならない程弱い存在と化していた。


技量差を目の当たりにしたはずなのに、手下達は総真に立ち向かう。

敵討ちだ、などと口々に叫びながらあえなく散ってゆいった。小さな血飛沫が頬にはねる。彼の紅い瞳と同じ色。的確な攻撃と異常なまでの平常心は最近の仕事で培われたものだ。


「待てッ!テメーら」

ピタッと不自然に攻撃を止めた手下達はぞろぞろと奥へ消えてゆく。

「天組、おまえの相手は俺がしてやるよ」

コンテナから降りてきた早乙女の顔を確認する。口元の古傷は特徴的だ。

「良いぜ、来いよ」

昔はこういうの嫌いだったんだけどな。


『総真くん、総真くん!』

慌てて耳に聞こえる声は篠原。さっきから後方支援をしてもらっていた。

『なんだ?いま取り込み中なんだ』

『早乙女の能力に異常な数値!彼、今、レベルがBからSになってる!』

『洒落にならねーぞソレ』

どうやったらそんな短期間にレベルが上げられるんだ?訳がわからん。


『ともかく、気をつけて彼は“幻言洗脳(げんごせんのう)”厄介な能力だよ!』




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