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空に響く歌声  作者: 麻香
4 四苦八苦か意気揚々
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第参玖話 潜入か潜索

平地の果てにある、有刺鉄線がひかれたコンクリートの壁。

高さはゆうに5メートルを越す。出入り口は見あたらず、ただひたすら壁が続いている。

天井もドーム型の防弾アクリル板に覆われ完全に中から逃げられない構造になっていた。

美希はその天井の一つになにやら、紋章を書き始めていた。

「さてと、こんなものかしら」

最低限の大きさの陣がくまれている。

そこに、美希が手を当てると空間が歪んで向こう側の地面が見えていた。

彼女たちは躊躇することなく、その空間に飛び込む。

「さすがです、どんなセキュリティーも無力だ」

「いいや、そうでもないぞ?」

刹那、警報機の鳴る音が響く。


「あぁ、見つかっちゃった」

「リアクション薄いですねぇ」

無表情で呟く美希は悠然と中に入る。走って逃げる気も無いらしい。

慌ただしく動く厳つい作業員は彼女たちを見つけだすといきなり美希の髪を引っ張った。

「ひッ!」

抵抗しているのは敵意の眼差しだけ、戦うことができてもそうしない。代わりに美希は弱々しい声を上げる。二人とも無抵抗で作業員に捕まった。


暗いコンクリートの部屋、隅に残る血痕。

「あーあ、思い切り引っ張りやがったよあいつ。ッ、後で殺そう」

美希は後ろ手にされながら地団駄を踏んでいた。

「まぁ、手荒くも潜入はできたわけですから宜しいのでは?」

「そうね、久しぶりの香りだわ」

周りを見渡せば、子供が転がっていた。

「予想はしていましたが、吐き気がしますね」

えぇ、と適当すぎる返答をすると、10歳前後の少女に近寄る。

美希は、だらりとした腕を見た。

そこには痣などなく綺麗な健康体、目がうつろで焦点が定まっていない。

「そうね、私たちといた場所はずいぶんと違うようよ」


「では、何故ここだけ・・・“あの時と同じなのですか?”」

「いいえ、足りないわここには・・・」

「---メインキャストが足りない。でしょ?そうね、あなたの代わりをできる子なんているはず無いでしょウラノス」

奥の闇から現れたのは白衣の女は長いストレートをきっちりと結い、赤いレンズのフレームがやけに目立っている。

「だれだ?おまえ」

いつもよりも攻撃的な目が鉄格子越しに彼女を貫く。

「あら?忘れてしまったのかしら悲しいわ」

腕を組み前に踏み出す白衣の女のハイヒールがカツンと音を立てる。

「私は必要ないことはすぐ忘れる性格だからな、人の名前なんぞほとんど覚えていない」

「・・・まっ、まぁ、覚えていない方が好都合だわ」


ローラー付きの椅子をよせて、足を組みながら座る彼女はメガネを直す。

「目的は何なんだ?」

「そりゃあ、秘密よ。ここの役者にあたしは入っていないもの。あたしの存在を教えたらせっかくの調律が無駄になっちゃうのよ」

「研究者きどりか?金のある思想家が」

「コレでも研究者なのよ?」

ニヤリと口元だけ笑い、見下す白衣の女は上機嫌のようだ。

「でも、素敵でしょう?この舞台。全て貴方の為にあるのよ、ウラノス」

「・・・・・・」


---ククッ


と含み笑いを始めたかと思うと、美希は逆撫でするように告げる。

「それは、金の無駄遣いだぞ?残念だったな」

蛍にはどういう意味か理解できない。しかし、美希は確信を帯びた表情をしていた。

「はぁ、いいの?あたしはあなた達をどうすることもできるのよ?」

「やってみろよ、宣教者。お前は何を望んでいる?」

「神様と契約したいのよ、あなたならできるでしょ?」

「さぁ、知らんな」

美希の瞳がほのかに碧く光る。ハッキリとしていないのにやけに明るく見えた。


「知っていなくても良いのよ、あなたを使えば簡単でしょう?だから対策まで立てたのよ、最強と謳われるあなたを対抗するために・・・」

「アレを作ったのはおまえか?」

「えぇ、造ったわ。能力者殺しの剣(サイキラー)。親会社だったから渡したけど、結局あなたに破壊されちゃうし・・・」

「・・・どうやって・・・」

この情報が知りたいが為に、こんな嫌なことを我慢している。その意をくみ取った白衣の女は足を組み替え吐き捨てる。

「気になるでしょう?教えないけどね」

美希は座り込んだまま、唇を噛む。瞳孔が開き気味なのを下を向いて必死に隠していた。


沈黙が支配する鉄格子の先、女はただ舐め回すように見つめるだけだ。


「さてと、そろそろ教えてあげましょう」

いきなり無表情になった美希は意味深に淡々と喋った。

「おまえは自ら調律を無駄にしていますよ?はやくシナリオを修正しないと大変です」

美希と会話をした女は自分のシナリオに登場してしまった。

その決定的なミスを美希は誘っていたのだ。

「ああああぁぁああっっっ!!」

先程の余裕はなんだったのか気付いた途端に、彼女はどこかへ走り去っていった。



「・・・もう良いですかね」

「そうね、しばらく来ないわよ彼女」

二人はすんなりと後ろ手を解く、腕を強く握ると骨のなる音が聞こえた。

「関節外すのは簡単だけど戻すのとか痛いから嫌なのよねぇ・・・」

「対抗する剣を生み出しても、こんな簡単なもので捕らえたら意味無いでしょう」

縄を落としながら渋い顔をする蛍。

「ある意味バカよね、彼女」


ふう、とシンクロした溜息が部屋内を支配する。

「どうする、きみ達はここから出たい?」

部屋の端にいる子供達にしゃがんで話しかける蛍をソレは無表情でこちらを見上げていた。

「いいや、そんな事聞いて応える子がここにはいないでしょう」

前の皆を蔑むような目で見る彼女は後ろを向く。

「はぁ、めんどくさっ!!」

錆びた鉄格子は簡単に粉砕される。美希の手にはガラス片が握られていた。

「逃げたければ出なさい、ここにいたいならそうしなさい。行くわよ蛍」

「はっ、はい!ぎゃっ」

目の前にあった鉄片に乗り、蛍は足を滑らせ前につんのめっていた。

「慌てないの、すぐ転けるんだから・・・」


彼女達は足早に部屋を後にする

振り返っても子供達は動こうとしない。真っ直ぐ前を見つめる美希は険しい顔をしていた。

防犯用のシャッターが降り始める。しかし、彼女にとっては無力そのもの。ガラス片が的確に破壊を繰り返す。美希はほのかに碧く光る瞳を細め、嗤っていた。

美希はハッとなり急停止する。蛍が対応しきれずに後頭部を打ち付けた。

頭をさする蛍に美希は耳打ちする。


「蛍、アレだして」

蛍が持ち出したのはジュース缶の様なモノ。

ふたを開けるとたちまち通路内がスモークで満たされる。


「やはり、このくらいするんですね」

うっすらと見える大量の赤い線。

美希が投げ込んだ鉄片が見事に切断された。

「あぁ、細切れ肉加工用の大型機械?にしてはちょっと大がかりね・・・」


「冗談に聞こえないです。これは人専用ですよ?」





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