第弐拾話 石碑と詩人
*放課後 校舎正門前*
約束の時間きっかりに会長がやってくる。
「姫様の言ったとおり君を案内させてもらう。たぶんこれから、ほぼ毎日通う場所にもなるだろうからこの地図を渡しておこう」
渡された地図?はノート一冊。パラパラとめくってみると、見慣れた風景が絵となって続いている。それが漫画の背景くらいのクオリティーで永遠と全ページに書き込まれていた。
「あの・・・これは?」
「生徒会の会計に書かしたんだ。上手いだろう」
ドヤ顔で語る会長はさておき
----会計、おかしいって気付けよ!なんか、無駄に画力あるし。
「あ・・りが・・・とう御座います?」
わかりにくい地図をもらうよりはましだったので、一応礼はしておいた。
「天組の支部なら基本的にはIDカードかパスワード、あと場所さえ知っていればどこへでも大体はいけるんだが、本部だと面倒で、その地図が最短ルートなんだ。付け加えると、姫様はおおむね本部におられる」
先程の地図といい、今の説明といい会長はやる気が空回りして方向性を間違ってしまうタイプだと推測できる。そんなことを考えながら、山の中を俺達は歩いていた。
緑生い茂る中、草を抜いてあるだけの山道は流石に辛い、やっと開けたと思ったら、その山の頂上に俺たちは降り立っていた。
「---ここって、家の裏の山じゃないですか!」
今更気付くのもどうかと思うけどな
「裏?あぁ君の家か、確かにそうでもある。しかし、結界があるから気付かなかったろう」
またしても自信のありそうな笑みを浮かべ、胸を張って会長は言う。
「えぇ、気付きませんでしたよ!こんな所に訳の分からん石碑があるなんてねっ!」
見ると刀が七つ石碑を囲むように刺さっている。なんか、意味あるのかアレ
「この石碑は有名で、伝説上の起源の場所とされていると烏水先生から聞いた」
ようは、天子が最初に降り立った場所って事なのか・・・
「そして、石碑の文章が読める者にだけ本部に入れる資格がある。姫様は3歳の頃にこれを見つけて、遊ぶ場所として使用していたらしい。文章の意味が人それぞれ異なっているため、君の素質があるかの試験でもあるんだ」
真面目な顔をして語られても困る、石碑に書いてある文字は見たこともない物ばかりだ。
同じ文章なのに人によって読み方が違うなんて、そんなものがあって良いのか?
「・・・・つまり、読めと」「ああそうだ」
「どうやって?」「そんなものは、自分の感覚で見つけるんだな」
石碑に向き合ってみるものの、何も浮かばない出てこない。五(+六)感をフル回転させながら総真は考えていた。
刹那、人影が真横にあるのに気付く、見上げようとするも、何か縛りのようなものをかけられて動かない。その重みは全身に及び総真は足を地面に着く状態で耐えるしかなかった。
----碧き月に踊らされ、紅き海に身を沈め
----唄で紡ぐ言の葉は、届かざる詩人の詩
----天に響く孤の叫び、聞きしものは二度と帰れぬ
----移りゆく輪廻の中、あがき続ける者達は今何処
聞こえる声は知っている。唄っているのは誰かも解る。
声に反応するように石碑の文字の部分を光が滑る。
「・・・来ないんじゃなかったのか?」
「来ないなど私が言ったか?大体お前ごとき、こんな試験を受けたって何にも出来ないくらい見えすいた事だ、バーカ」
本当に美希はタイミングが良いな。そしていつも俺より先を平然と歩いてやがる。
「ハッ、俺だってこのくらいできるさ」
「やってみろ、と言いたいところだが、もういい、急ぐな。珠璃だって丸々1ヶ月かかったんだからな」
「……基準がわからん、美希はどの位かかったんだ?」
「このシステムを作ったのは私だぞ?石碑は元々あったが・・・小さかったからな、憶えていないんだ」
「今でも小さいと思いますが?」 「うっさい、黙れ!」
見えはしないが今、美希が内心怒ってないのは何となく見当が付いた。
「美希、そろそろ術解いて欲しいんだけど・・・」
彼女の機嫌が悪いと一生このままになりそうなので、恐る恐る頼んでみる。
「それは私ではなく石碑のせいだ、どうしようもない。本部に着くまでそこで座ってろ」
「座ってたら、歩けないじゃないか」「馬鹿か、私は歩くと言った憶えはないが?」
山に強風が吹き荒れ始める、カサカサと不気味に木は鳴き出し飛ばされてしまいそうだ。
一瞬体が浮いたと思ったら、いつの間にか何にもない真っ白な空間に三人は来ていた。
「ここどこだ?」地面が無いのに足が着いている。
「本部、正確には創作異空間と呼ばれるものだ。必要とする場所や物を提供してくれる異空間とでも言えば理解してくれるかな?」
「用は、望めば叶う夢の楽園。ここで天組本部が欲しいと願えばそこに行ける」
美希が一歩踏み出すと白かった画面が花びらと化し舞い落ちる。
そこは見覚えのある場所、大きな畳の座敷に座布団が幾つも並べてありどれも空席だ。右端と左端の場所だけ少し床が高くなっていた。あの時、つれて来られた部屋と同じ。
七年前の記憶が総真の中で渦巻いていた。