第拾玖話 少女と娘
「銀髪女でもあり天童美希でもある」
自称ウラノスはそう語った。
その瞳は深い青か緑色、心なしか濁って見える表情の無い眼が俺を見下す。
確かに銀髪女は美希にそっくりだった、ほとんど彼女の対として造られたような精密さは同一人物だと裏付けることが出来ない訳ではない。
ここは、能力者がゴロゴロ居るんだ、そんな能力あったって不思議じゃない。
「どうやったら、そんなことになるんだよ」
「ほぅ、妾の存在を否定しないとは・・・少しは成長したらしいな」
「否定?何の話だ?」
ウラノスは答えず後ろを向き脱力した顔をしながらそこにいる人物に話しかけた
「・・・・珠璃、こいつ面倒だ。お前から話してやれ」
「かしこまりました。どの辺りまでで?」
「白兎が生まれた理由と天組のシステム辺りくらいで良いんじゃないか?」
「了解です。では天理総真くん話そうではないか、君は何が一番聞きたい?」
彼女に対する態度とはまるで違う威厳のある会長の姿を見て、切り替えの早い人だと総真は思った。
「・・・まず、会長の正体から」
「私の事から聞いてくるのは意外だ」
「正体不明の人の話を信じられない性格なんで、俺」
「それは一理あるな、私は天組の学生達のまとめ役、この学校の立場と大差ない。学生はもちろん小中高様々だがそれら全てを率いるよう姫様に命令されている」
「何故、会長は美希に従う?」珠璃は言葉を詰まらせながら弱々しい声で話す
「・・・・・・助けられたから、君には関係の無いことだ」
「大体分かった。これから、俺は会長を信じることにする。銀髪女は何なんだ?」
「白兎と言った方が無難だな、表の世界では天風 白唯という名前がある。ウラノスの力を所持し、天童美希が存在するために生まれたモノだ」
「その白兎がウラノスなのか?」
「否、その力を受け継いだのは美希様本人ということが証明されている。ところが数年前、力だけが暴走してしまったと聞いている。そうなると力に飲み込まれ、美希様が存在できなくなってしまうのだ」
「その時、対応策として無意識にもう一人の妾、つまり白兎を造りだしてしまったのだよ」
「それが、白兎の正体であり、美希様とウラノスの力を共有するもう一つの美希様だ」
「---ややこしいだろ」
ニヤリと笑うウラノスは凛々しく勇ましい風格はあるが、幼さや悪戯っぽさを感じるアンバランスな面影がある。
「じゃあ、俺は銀髪女は美希と考えて良いのか?」
「そもそも、お前の知っている天童美希は半分でしかない。今の妾が10歳まで完全に保っていた天童美希だ。理解したか」
「何となく。結構慣れたけど頭が痛くなる話だな・・・」
「まぁ、一度にこんな事言われて信じろって方が無茶苦茶です」
「そうか?」美希は首を傾げて口を挟む、頷きながら珠璃は続けた
「今まで知らずに日常を送ってきたのですから、ちゃんと考えてあげて下さい」
「あと一つ質問いいか?白兎ってのは今どこにいる」
「妾の内に居るが、そろそろ離れないといけない。いい証明ともなるだろう」
ウラノスは見事な白銀の四枚の翼を広げると、双眼には紅い線が輝き出した。
すると、一人に見えていたモノが歪み始め二つに分かれていく・・・
一つは銀色の髪の毛に黄金の目、左目紅い線が走る、常に笑顔でいる娘の姿に
一つは生糸に似た黒髪に碧い瞳、右目を隠す前髪、表情のみえない少女の姿に
「「理解した?(しましたか?)」」
少女は無表情で、娘は笑顔でそう言った。
「納得したけどさ、二人が一緒の時は何て呼べば良いんだ?」
「心配するのはそこか?」
「私は主様のお名前でよろしいかと、事実、主導権を握っているのは主様ですし」
「じゃあ、そうさせてもらう。美希はそれで良いのか?」
「別に構わないぞ、どうでも良い話だ」
美希がそう言ったところでチャイムが鳴りはじめる。
「ホームルームが終わった様だ。生徒会長がサボっていては示しが付かないから、そろそろ私は失礼させてもらうよ」
「あぁそうだ、放課後こいつを本部に案内及び天組についての説明を頼む」
すると会長は美希にかしずきハキハキとした声で告げる。
「美希様のお申し付けとあらば、我が身に変えてもその責務、果たしてごらんにいれましょうぞ」
「・・・なんか、旧家の人みたいだな」「まあ一応はある武家の系譜の者だからな珠璃は」
早足で過ぎ去る珠璃を見送ってから二人並んで歩き出す
「ってか、身長は前の方が良かったんじゃないか?」
「五月蠅い!十歳の頃は周りより高かった!今でも少しは伸びてるんだからなっ!」
地団駄を踏む美希を見て、仕返しだ、と総真は含み笑いをしながら思うのだった。