第拾捌話 発表と始動
「あれ、転校生じゃん!?あんなに身長低かったんだ!」
「検査でいきなりSランクだったんでしょ」
「もう時の人だよね彼女」「それにしても美人だな」
周りの話には一切耳を傾けず、ただ平然と歩く姿はいつにも増して凛々しい。
彼女は緊張感とそれ以上の希望を胸に抱き廊下を進んでいた。
ホームルームが始まりそうな時間になっていた。
「それにしても、美希さん来ませんね。登校中に何かあったとか・・・」
確かに篠原の言うとおり、この学校の生徒は超能力者が多いためか事件に巻き込まれる例もざらにある。
「毎日定時に登校、規則正しいあいつが寝坊って事もあるまいし」
現に俺は、朝登校してきたの見てるしな
「でも、姫さんならどんな事件に巻き込まれても、自力で解決しちまいそうだな」
勝呂がそう言うと二人とも自分の席に戻っていった。
刹那、放送が流れる。
『えー、生徒諸君聞いてほしい』
生徒会長の声だった。3年5組 淺田 珠璃はAランク、成績首位独占という記録を持つ、武士みたいな言い回しが特徴の女子生徒だ。
『今年も最初の実技テストが近づいてきている、能力者の諸君には誠心誠意努力に励み、“できるだけ手加減”をしてほしい。なお、今回のテストでは能力自警団天組の人材派遣指揮官殿が見学されることとなった』
学校中がざわめく、裏の仕事を行っているのは一部で、表では能力者担当の警察をしている“天組”は学生でもその能力に価値があると判断されれば、就職できるのだ。
『そこで、今日は野桐支部の組長殿がお見えになっている。心して話を聞くように』
『今回うちの人間がお邪魔することになってしまって、申し訳ありません』
(この声はっ!美希の家にいた銀髪女じゃねーか)
総真は自分の教室を飛び出し放送室に向かって走り出していた。廊下にも放送は流れ、話は続けられる。
『こちらの選別は、順位も関係なく平等にしていきたいと思っています。すぐに就職という形ではなく、あくまで本人の意見を尊重するよう心がけるので、ご安心下さい。なお、選ばれた中学生の皆様には“仮の部活動”として参加頂きます。私たちにとって必要な人材が見つかることを祈願しております』
「着いた!」
勢いよくドアを開け・・・・られない!鍵がかかっている
放送室は防音だ扉をたたく音も彼女たちには聞こえない!
『かたじけない、生徒諸君これからも野桐中生という誇りを忘れず勉学に励んでほしい。これで放送を終了致す』
(銀髪女は天童家の使用人だ、美希がいない理由を知っているはず!)
総真はこの時、気付かなかった。何故こんな事をしているのか、彼女がいつも道理にいない、ただそれだけの事だったのに・・・そして自分が恐怖している事にも彼は気付いていなかった。
開かれた扉の内側にいた人間を見て、彼はとても驚いた。
あける反動と共に彼女の額にはドアの角が当たって同時に総真は倒れ込む。
誰か分からずに危険を察して、その倒れそうになる人物の頭をかろうじて右手で防ぐ
結果、見た目的に彼が美希を押し倒した様な状態になっていた
「これはっ、どういう冗談だ?」
「こっちが聞きたい、お前は何をしている」
平然と答えるその姿は紛れもなく美希だ。しかし、その声は銀髪女のものだった。
「不謹慎だな」
腕を組み総真を白い目で見る淺田会長はそう言って扉を静かに閉じた
それと同時に美希はゆっくりと総真をどけて起きあがる
「・・・珠璃も内心は人のこと言えないんじゃないか?」
今度は二人の声が二重に聞こえてくる
「そのようなことは御座いません。この淺田、13歳の時分から美希様だけを見て参りました。それは、他の邪な感情より強い誓いであります」
陶酔しかけている珠璃を苦手な食べ物を押しつけられる子供の様な目で彼女は見る。
「・・・その言葉、他では口にしない方がいいと思うぞ」
次は美希の声、何だこいつは!?
「・・・誰なんだ?」
「その質問は何度か聞いた。もう答えるのにも飽きたぞ総真」
そう何度か聞いた、だが彼女の口から言葉を聞かなければ自分は信じられない
ソレは美希の声で、銀髪女の笑顔で、答えを紡ぐ
「妾はウラノスだ。お前の言う銀髪女でもあるが、今は天童美希と言っておこうぞ」