第拾陸話 髪飾りと願い
「・・・願いとは何だ?」
そう聞く総史郎はにっこりと明るい笑顔をした。
「僕も考えてはいたんだよ、君たち二人の力を弱める方法はね・・・」
小さく襖が開き、京華が顔を出す。
「コレの制作にはかなりの時間がかかったよ。だって、君たち二人の能力は相反しながら同調していたんだからね」
京華は総史郎に小さな桐の箱を手渡し、静かに部屋から去っていった。
「・・・・・・同調?」
そんな京華の姿を睨みながらも、落ち着きながら美希は総史郎の話に耳を傾ける。
「そうだよ、だから片方が封じられていても、“もう片方を封じなければ”意味がないんだよ」
自慢げに語る総史郎を美希は見上げ言葉を紡ぐ。
「あぁ、なんだ、そんなことか・・・」
心のないその返事に総史郎は顔をゆがませた。
「---それなら、前から知っていた。だから私は、あの日に創造しておいた“もう一人の私”を覚醒させる事によって、半自主的に力を封じたんだ」
まるで他人事のように呟く美希。
「やっぱり美希ちゃんは凄いね、いつも僕たちの先を行く・・・」
いつも笑っている彼が見せる赤茶色の瞳は冷たく、表情はいつもより凛としていた。
「でも、君だけ安全な領域にいるのは不公平じゃないかな?」
「・・・世の中に公平などあるものか。と言いたいところだが、私はお前に約束をした。その願い、聞き届けようではないか」
「だから、君にコレをつけていてほしいんだ」
桐の箱から取り出したモノ。それは鈴の付いた白い組紐だった。
「機械じみた感じではないな」
驚いたように言う美希に総史郎は平然と答えた
「コレは古来より我が一族に伝わってきた、封じる方法の応用みたいなモノだ、学校に行くときはもちろん出来ればなるべくほどかないようにしてほしい」
「どこに結んでおくんだ?」
組紐を手に取りながら総史郎に問う美希
「腕や首・・・いや、髪に結んでもらった方が自然かな」
ではそうしよう、といった美希は長い髪を手櫛で結い上げた。
「何も起こらないなぁ」
頭を左右に揺らし、鈴を鳴らして遊ぶ美希。
「そりゃ、そのために香を焚いたんだから」
そう言って、そこら辺に漂う煙をなでるような仕草をする総史郎。
「一番最初に君は気付いたでしょ、この香は能力者の力を弱める。だから、多少力が弱まっている状態にしておける。力が弱ければ反動もすくない」
「なるほどなぁ、ちなみに聞いて良いか?」
「なに?美希ちゃん」
そこには、いつもの満点の笑顔に戻った総史郎がいた。
「制作者は誰なんだ?」
「それは・・・僕。と言いたいところだけと“烏水 椛”だよ」
「あぁ、なるほど」
美希は左目を隠している前髪を掻き上げ、もう一方の目で気だるそうに遠くを見つめていた。
「合ったことあるのかい?」
あごに手を当てながら考え込む総史郎。
「いや、そうじゃない。私のデータがどこで漏れたか心配しただけだ」
「それなら、全て破棄させてもらったよ“他の家”にわたると面倒だからね」
「両家共にコレがばれると大変だからなぁ」
立て膝をしてため息をつく美希。行儀悪いよ、とニコニコしながら言う総史郎は怒っているわけではなさそうだ。
「総真をこれからどうするんだい?」
「別に基本的なことしか教えないさ。あいつは鈍いからな」
「ああ、分かるよ。誰に似たんだろうね」
「・・・・お前じゃないのか?」皮肉を言う美希は楽しそうに微笑む
「僕?どうなんだろうねぇ」とぼけた様な口調で総史郎は返してきた
それからしばらく、二人は含み笑いをしながら愚痴をこぼし合っていた。
*数十分後*
総史郎が一呼吸置いてから少し張った声でしゃべり出す。
「それでは、これにて本家緊急会議略式、締めとさせて頂きます、この度はわざわざご足労頂きありがとうございました----」
それに割り込むように、美希は艶のあるしっとりとした声色で続けた。
「これからも、良き平穏が続くよう、努力して参りましょう」
相手を見据える美希の容姿はやけに大人びているように見える。照れくさそうに微笑む彼女を総史郎は暖かな笑顔で見返していた。