第拾伍話 儀式と取引
【天理家・参道】
美希は首筋に刃を向けられたまま、総史郎に話しかけていた。
「反抗期とは違う気がするけどな」
総真がいなくなると同時に刀を取り出した巫女達は緊張状態で、。総史郎は、話す余裕も無かったんだ、というといつものように笑顔で受け答える
「えー何でだい?まあ、どちらにしても美希ちゃんの所為には変わりないさ」
「知るかっ・・・・」
そっぽをむく美希はイライラしながら天理家の玄関の方に目を向けていた。
「ところで、美希ちゃんは何しにウチに来たんだい?」
総史郎は眼を細めながら低い声で美希に問う。美希は待っていたかのようにニヤリと笑う。
「・・・・“そろそろ”じゃないのか、もう14になるぞ」
美希が答えると総史郎は顔に手を当て感嘆の声をもらす。
「あぁ、そういうことかっ・・・・フフッ、まったく可愛い子供にまで・・・お前らは何がしたいというのだ。普通に、幸せに暮らすのさえ駄目だというのか」
美希はそんな総史郎を、感情の無い普段の彼女の様な表情で視ていた。
そして、美希は低く重みのある声で呟いた。
「・・・私は幸せな生活をした覚えがないがな----」
それを聞いて我に返る総史郎を無視して美希が明るい声で問う。
「----場所を変えた方が良い、どこか借りられるか?」
「いいよ、部屋なら余ってるからね」
【天理家・屋敷内】
広々とした屋敷の中は、天理家の力の強さを表していた。神職で代々暮らしてきた天理家がここまで大きく成長したのも、天兎族と信仰心のちからである。
幾つあるか分からない襖の列の奥、札が貼られた襖があった。不気味に感じるその襖を巫女達が開けても、特に変わりはなく普通の8畳ぐらいの大きさの部屋が一つあった。
「外は四重、所々六重に結界を張ってるな」
感心しながら部屋に入る美希に総史郎は、当たり前だよ、とだけ返した。
中には掛け軸と、いかにも高そうな壷が一つ、後は座布団が敷かれているくらいだ。畳と煙の香りが充満している。
「香を焚いている・・・」嫌な顔をしながら美希は座布団に座る
「まあ一応、君は重要危険人物なわけなんだよ。好き勝手暴れてもらっては僕も困るからね」「初めて聞いたよ、私は危険人物なのか?」
「少なくとも、遠い親戚として僕はそう思っていないけど保険があるに越したことはない」
「確かに、その意見は正しいな」
その言葉を聞いて安心したように総史郎は反対側に座った。
「で、用件はなにかな?」笑顔で聞いてくる総史郎に美希は答えた。
「さっき言ったはずだが?」「・・・・質問してもいいかい」
「ああ、答えられる所までは」彼女の声に合わせて煙はゆらぐ
「・・・なぜ、君は総真にこだわるんだい?」「それは、対の理の中に」
いつもと口調が違う美希に一瞬困ったような顔をした総史郎は、眼に光の無い彼女を見て、気付いた顔をしたかと思うとまた話を続け始めた。
「君は総真を不幸にさせたいのかい?」「・・・・否、我はそれを望まない」
「では、何故そう急かす必要が?」「時が近い、“最悪の事態”になる」
「君としては、どうしたい」「クロノスはまだ未熟すぎる、実践はおろか知識もないままであっては、すぐに“飲み込まれる”」
「だから、ある程度の教育が必要だと」
「・・・是、我とて最悪の事態に飲み込まれる危険性がある」
「それを何故この時期にする」
「トーナメントが野桐中で開催される、それに乗じれば気付かれる可能性は低くなる」
「では最後に、君にお願いしたい事がある、聞き届けてくれたら君の望み通り、総真を君に預けよう」「・・・・是、それが私に出来るのならば」
「最後は自分自信で答えたね」はぁ、とため息をつく総史郎に不気味な笑顔を向ける美希。
「“七つ問い”古くから伝わっていた儀式の一つだね。正確な情報を教える為に使われた技であり、すさまじい精神集中を要する。ある天兎族が神々からの言葉として一日一回七つの問いに答えたのが始まりだったっけ?」
「まあどうでも良い、私は用が済んだ。それで願いとは何だ?」
それを聞いてにっこりと笑う総史郎に美希は冷や汗をかいて顔をゆがませた