第拾弐話 疑問と帰り道
「貴様はクロノスのくせにウラノスのことも分からないのか?」
彼女は俺の後ろでそう言った。その声は別人の様に冷たく低い声だった。
今、俺は美希に右腕をとられている。寄りかかれば折れてしまいそうな彼女の小さな腕には似合わない程の力に俺の腕が悲鳴をあげていた。俺は激痛のせいで言葉も出せない。
今度は訴えるように美希は総真に質問した。
「おまえは私のことを本当に覚えていないのか?」覚えてる?何の話だ?
「すまん・・・・俺が美希に初めてあったのは、美希が転校してきた日のことだ」
「そう・・・・か・・・」さっきとは対照的に弱々しい小さな声だった。
それと同時に美希は総真の腕をはなし、まるで人形のようにへたり込んだ。
涙を流すこともなく、ただ放心状態で動かない美希。こいつは何が言いたいんだ?
「やっぱり、お前でも駄目か・・・」
美希は総真に聞こえないくらいの声で呟いた。
総真は美希の目線の高さまでしゃがんだ。のぞき込むと彼女の顔が険しくなっている。
「----なあ、どういう事だ?・・・ウラノスだっけ?それって何なの?」
おい!この状況でなに言ってやがる!俺!
頭を抱えながら、焦っている総真を見て。美希は呆れたようにため息をついた。
「・・・本当に、おまえの父親は何も教えなかったんだな」
そして、獣のような鋭い目つきで総真を睨んだ。彼女は起きあがり大きなため息をまたつく。総真は馬鹿にされている様で少し腹が立ってきた。
「まあいい、今日はお前の家に寄るとしよう・・・・・・」「はぁ!?」
そう言うと、美希は総真を無視して携帯を開き、電話をかけ始めた。どうやら、家族に連絡しているらしい。一通り相手に話し終えたら、電話を切った。
「よし、帰るとするか」
と言って、美希はさっきの事は嘘のように歩き始めた。
仕方なく、総真は美希について行った。美希は総真に道も聞かず、ただ黙々と神社に足を運んでいた。道なんて聞かなくても知っているかのように・・・・・・
そういえば俺、質問してから答え聞いてなくね!?
「なあ、何でおま・・・天童が俺の家に行く話になんの?」「・・・・・」
「美希、教えろよ」「お前には関係の無いことだ。あと、周りに気を遣え」
辺りを見回すと、同じ学校の奴らが俺たちを傍観していた。通る奴のほとんどが振り返る、話していなければ言い訳が出来そうだが、会話をしていれば面倒なことになるだろう。たぶん美希はそれが言いたいのだ。
二人がしばらく無言で歩き続けると、家の鳥居が見えてきた。そこから、階段がずっと続いている。我ながらこんな所を毎日登って帰宅しているのに感心するな・・・。
美希は階段を見て立ち止まった。
「・・・はぁ、面倒だなこれは」確かにおっしゃる通りです・・・・・・。
「ちょっと、まって」俺が歩き出そうとした時、美希は俺を引き止めた。
すると、美希は鞄から小さな笛を取り出し、口にくわえた。
彼女が吹くと甲高い音が響き、風が舞う。
その突風に目をとじると、近くで翼が風を切る音と獣のうなり声のような物が聞こえた。
目を開けると翼の生えた狼がそこにいた。大きさは人間より一回り大きい。
白い毛並みがフサフサとして可愛いかも知れないが機嫌を損ねたら食べられてしまいそうな圧迫感がある。瞳は緑色で額には青色の印みたいな物があった。
「良い子だね、瑠璃丸は」
美希はその狼をあやす様にそう言った。それは、いつもその年に似合わず、みんなより先を突っ走りすぎていそうな美希が見せる初めての光景だった。
美希がただの女の子にみえてくるぞ・・・・・・。
美希の声に反応するように瑠璃丸と呼ばれた狼は喉を鳴らし、美希に顔を寄せてきた。狼の巨体が美希の背の小ささのせいでよけいに目立つ。
「ここの上まで行きたいんだ。出来るよね」
彼女が頼むと、狼はふせをしながら喉を鳴らした。
美希は狼にまたがると、総真に手をさしのべた。
「空を飛ぶのは嫌いじゃないか?」
「えっ・・・・あぁ・・・・たぶん」
そういって美希は総真を後ろに乗せて狼を走らせた。
いきなり飛び立ったのにビックリして思わず目を瞑った。
「うわぁあああぁぁ」「あはは、なに怖がってんの?」
次第に慣れてきて目を開けると、夕日で紅く染まっている世界が目の中に飛び込んでいた風が俺達の周りをすり抜けていく。美希ははしゃぐ子供の様に笑いとても楽しそうだった。
こいつも、こんな所があるんだな・・・・。
飛ぶことの出来る存在“天兎族”それなのに彼女は空を眺めることしかしない、自ら飛ぼうとしない。こんなに楽しそうなのに、彼女は翼を表すのを極端に嫌がる・・・・・・。
『何故?』 最近、俺の知らないことが多すぎる気がする。