第拾話 天理家の生活
目が覚めたら、自分の部屋にいた。
妙にリアルな悪夢を見た。夢のせいなのかは分からないが、頭が痛い。
今、ちょうど部活が終わって帰る時間帯だ。
壁掛けの時計を見て目覚める前の事を必死に思い出す
「くそっ・・・・何時間寝てたんだ?俺は・・・」
確か五時間目に・・・・あんまり思い出せない。なんか、よく分からん。夢が印象に残りすぎたせいなのかも知れないな。
「とりあえず、なぜ俺は家に居るんだ!?」
考えるのが面倒になった頃。
「・・・・まあいいや、どーでも」
鞄もあるしな。
“どれだけ深く考えてもそれ以上に深い泉に真実は存在する”なんかの本にあった言葉だ。
俺はこの言葉が気に入っている。用はあまり考え込んでも分からないものは分からない。ならば、分からないままでも構わない。つまり、無関心と言うことだ。この性格のおかげで今まで平和に暮らしてきた。
下の階から母さんが呼んでいる。そう言えば、もう飯の時間だ。
この時間を逃したら、今日の晩飯は抜きになる。そう言うルールなんだ。
理由を加えれば親父も兄貴も天兎族の会議とやらに出席しなければいけないからだ。
「遅いぞ、総真」兄貴が偉そうに足を組んで座っていた。
相変わらず、憎たらしいなこいつは。成績も上位、ランクもA、オマケにスポーツ万能である俺の兄貴は、天理家の跡取りとなっている。俺は次男なのでそんな得点もなし。成績中の上、ランクC、運動神経が少し良いくらいで何の取り柄もない。
次男が居ると言うことは、長男にとっては嫌なことらしい。特に俺たちみたいな家系で能力を司る人間の本家はその一族をまとめる義務があるらしく。兄貴は俺にその座をとられて自分が惨めな思いをしたくないらしい・・・。だから、あまり仲が良くない。
っま、俺には関係ないが・・。だって跡継ぎ争いなんて面倒だろ、それなら平凡に暮らしている方がよっぽど良いとは思わないか?
そんなこんなで、妙に緊張の糸が張りつめたこの食卓をいつもは嫌な気がしていたが、今日はなぜかそんな気がしない・・・・。
食事を食べ終えると俺はすぐ部屋に戻ってしまう。この家は外から見ると平屋に見えるが実は二階建てである。
それからいつものように宿題をしたりグダグダとマンガやテレビ、インターネットで暇を潰す。下の階では家にいる巫女が騒いでいる、たぶん今日もここで会議が開かれるのだろう。なぜか知らんが会議の時は2階でおとなしくしているように言われていた。
そのかわり俺は、平凡な日常を約束されているのだ。
その日はこのまま寝てしまっていたらしい、目が覚めたら次の日の朝だった。
*次の日*
天気は曇天、今にも雨が降りそうだ。
家の巫女たちに傘を持たされて俺は登校した。
「ちっ・・蒸し暑ちぃーな」
6月だから仕方ねーけどな
能力者の街“野桐”は都会と田舎の中間みたいなところだ。一歩中心を離れたらド田舎みたいな田んぼが広がっている。
その田んぼを横切ってバスに乗っていけば野桐中学校が見えてくる。野桐中もどちらかというとその田舎の部分だ。
「まぁ、校門をくぐれば最新の教育施設なんだがな」
周りが草木に囲まれている校舎は隠れるようにしてたたずんでいた。
*昼休み*
あいつは、今日は一言も話しかけては来なかった。
と言うより、能力診断でまさかのSランクをとってしまって、今や校内の有名人だ。
俺なんかと話している暇もない・・・・・
教室は静寂に包まれていた。今にも降りそうな雲が何となく不安を感じさせていた。
ほとんど笑顔か無表情しか周りに見せない彼女は、俺の後ろでほおづえをついて哀しそうに空を見上げていた。
何となく話しかけづらいその表情はとても儚げで綺麗だった。