第玖話 天童家の当主
白兎の周りに浅く水溜まりができてきた。
時折、ぴしゃりと水がおちる音が響く。
白兎はそれを無視して、自分の携帯をいじって誰かに連絡をしていた。
見かねた、椛が彼女にバスタオルをかけた。
すると、白兎は笑顔で礼を言った。
数分後
「天理様のご帰宅の用意が調いました」
「よし、では私は授業に戻るぞ」
「と言っても、あと3分ぐらいで5時限目が終わって、ホームルームと部活見学しかやること無いと思うわよ。」
「それもそうだがな、部活見学を楽しんで帰るとするか」
~美希、下校中~
部活動見学では検査結果をSにしたせいで、射撃部と文化部一部と運動部全般に体験に付き合わされかなり疲れた。
今日は迎えをあいつの護衛につけてしまったので、徒歩で帰る事にした。
何で飛ばないかというと・・・・少々問題が発生するからだ。
まあ、飛べばすぐ着くんだがな。2㎞強をのんびり歩いて帰っていると、大きなやしろに着いた。
ここが、天理家本家、用はあいつの自宅と言うことになる。長ったらしい階段が小さな山の中腹まで続いている。鳥居は階段のを合わせて7つ。説明は省かせてもらうが、天兎族にとって“七”と言う数字はとても重要な数字に当たるのだ。
まあ、そんなことはさておき、その上の社はとても立派な作りをしている(とっても大きい神社を想像してもらえばわかりやすいかも知れないな)。
そこでは、月に一度、会合が開かれる。天理は祭り事を率いる家だからもちろん能力的な面での話し合いになる。
これが、めんどくさいのだ、私も一応は現当主なので必ず出席する。話し合いの途中、しばらくしてから幹部の古株共が文句を言ってくるのを黙らせるのが面倒なのだ。あれは、本当に憂鬱になる。
小さなため息を漏らし、まっすぐ足を進めていく。実はここから100~200mすれば自宅なのだ。これから、夜中まで当主としての仕事に追われる羽目になる。
今日もこれから、会議が一件、事件が三件、緊急会議がさっき入ったと白兎が知らせてきた。
事件というのは、能力者が時折、犯罪に能力を使って事件を起こす。しかし、警察ではそんな“あり得ないモノ”は扱いきれなくなる。そこで、天童家に国から直接依頼されたのがこの仕事だ。だから、天童家は能力者専門の警察として会社を一つ築き上げた。それをきっかけに、幅広く企業を立ち上げ、今では国の財政のほとんどをまかなう程になってしまったのだ。
用は、当主になるとそれらの企業を取り仕切る事になり、多額の財産が得られるのだ。
だけど、天兎族と人間は似て非なるモノだから、それ程物欲が激しいわけではない。気付いたら、こんなになっていただけで、生活に必要な物以外を買うことは滅多にないのだ。
だから、自然と金が貯まっただけの話だ。
「まぁ、それを狙ってくる者は山ほど居るんだがな・・・・・」
そろそろ、自宅に到着する。やたらと広い武家屋敷みたいな家は寂しさが増していた。大きな門の前には白兎が出迎えている。
「お帰りなさいませ、お疲れ様でした。主様」
「相変わらず、笑顔が上手いなお前は・・・・」
そうして、彼女の転校初日は終わり、彼女の“当主”としての日常が始まる・・・。