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正しいとか間違ってるとかではなく、選んだ選ばないとかではなく、私の存在そのものが

 




 「は?え、もう一回言ってよ、どういう事?」


 今日も今日とて書類仕事をしていた。一枚一枚と金の帝印を押している中事件は起こった。


 「ですから、サンティニオン主教含め異端が火炙りに処されたと」


 サンティニオン主教、イグニオン神星会議でケレネール学派の立場に立っていた人だ。


 「違う、どう言う事だって聞いてるんだよ。何で処刑されたのって」


 ラスアジィンニコフはいつもと変わらない顔をしている。


 「何でって、異端ですから」


 「だから、それがわからないんだって。異端って言ってもア=ステラの捉え方が違うだけじゃん」


 「ん?異端は処刑される理由になるでしょう、異教徒ならまだしも異端ですよ?この前の会議で星教の正統(オルトドクス)が決定されて、それに従わないって態度取ってるんだから処刑されて当然でしょう」


 机から立ち上がりラスアジィンニコフの目の前に立つ。こう見るとラスアジィンニコフの以外と高く、真横に並ぶと私の頭の上は彼の肩に届くか届かないかくらいだった。


 「だから、それが何でって言ってるんだ、私は」


 「いや当然でしょ。だって多数決って言っても、体制側である貴方の名の下に正統(オルトドクス)はこうですよって決める話だったじゃないですか。それなのに、いや正統(オルトドクス)はこっちですよって唱えてるのは体制に対する挑戦と認識されるのは自然では?」


 私のせい、なのか?いや、違う、何で。どうして?


 「まさか、それを分からず会議に挑んだんじゃないんですよね?」


 「そんな、いやわかってたはずなんだ、私は。私の一挙手一投足で人が死ぬかもってでもこんな、こんな簡単に……こんなはずじゃなかったのに」


 彼は私の肩に手を置いてこう言った。


 「貴方が何かしても何もしなくても、選択の是非に問わず人が死ぬ、でも知らなかったから仕方ない……なんて言いませんよ。知らなかったで済まされる訳ないですからね。だからただ粛々と死人の罪滅ぼしをし続けるか、あるいは開き直るしかないんです」


 「わかってる!わかってるから、一人にして、それと後、私のせいで困ってる人達教えて……」


 ラスアジィンニコフはしかめ面をしてから唾を吐くように言葉を吐いた。


 「最初の即位式、貴方は市民に対して善帝の印象を与えました。そしてその度の正統(オルトドクス)の決定で雌雄同体である事の宗教的な意味を作ってしまったのです。そのせいで美少年奴隷の需要が高騰しましてね、一人売って五人大学へと、それくらいでしょう」


 親が子を売る、五人の子供大学に行かせる為に。私の行動によって産まれてしまった価値……


 「そう、子供達を買い取って、親元に返してあげて」


 彼は溜息を吐いて出て行った。私はただ、立ち尽くすしかなかった。

 私の少しの我儘が人を殺して子を奴隷に落とした。私の我儘が他人の命を損なった。

 私は他人を損なうことしかできないのか。私は誰かに何かを与えられただろうか?私の我儘に見合う物を、損なった人々に見合う物を提供できているのだろうか。

 あぁ、どうせ皇帝になるなら誰かを損なうのなら知っている人の為にって、なのに、そんなに簡単に誰かが死ぬなんて、想像できる訳ないよ……


 「ヘリオ、落ち込んでる?」


 「ユリアン、何でここに?」


 「ラスアジィンニコフさんが王妃の仕事だって言ったから。あぁ、そういう事ね」


 ユリアンはの身体の熱が伝わる。暖かい、ずっとこうやって抱き締めていて欲しい。でもこれはこれで貴方の事を損なっていないだろうか、私が傷つく事で貴方のしたくない事をしていないだろうか。


 「偉いよ頑張ってるよ、なんて私は言うつもりはない。でも貴方が正しい事をしていると思ってやっているのなら素晴らしいと思う」


 「正しい、もう私には分からないよ、自分のしている事が正しいのか。感覚として分からなくなっちゃったんだ。だから必要だと思う事をしようかなって思った矢先にこれなんだよ」


 自分の冷たい口調に驚いた。あぁそうさ、私は泣いていないんだ。私の中の私の心はこんなに、張り裂けそうに苦しいのに私は、ヘリオースは泣いていない。


 「でも私は思うよ、星教を国教とする上で星教の教義を定義する事は必要だった。少なくとも、これから星教を信じようかなと思う人たちにとってはね」


 「でも私のせいで親が子供を売った。私のように、嫌だな、自分で言って嫌だけど、私のようにある種の雌雄同体性を持った美少年を親が売ったんだ。私が存在を世界に証明しようとしたせいで、たとえ誰かを損なってでもって」


 今、私の肉体が喋った。私の中の私ではなく、ヘリオースという肉体が喋った。だからあぁ、そうか。これがヘリオースの真意なんだ。ヘリオースは世界に対して自分を証明しようとしている、たとえ誰かを損なってでも。

 ヘリオースは自分勝手なんだな、王様みたいだ。


 「そう、それで次はどうしたいのヘリオ」


 「魔法を平民に広めたい。魔法が広く使われて効率的な産業が確立されたり、単純作業しかできない奴隷よりも熟練した魔法使いを使って大量生産した方が効率が良くなるはず。そしたら奴隷制を廃止にできて、今みたいな悲劇は無くなるはずだから」


 「それをしたら私たちのような貴族は没落する。それでもそれをするべきだと考えているの?もう、やめにしても良いんじゃないの?


 あぁ、駄目だ。言うなよ、私。また自分の我儘を言って、それで誰かを損なうつもりなのか?


 「これ以上醜くなりたくないの」


 「そう、なら貴方はそれをやるべきだね」


 いつのまにか私は彼女の柔らかい胸の中に埋まっていた。そうしたら泣けるだろうと思ったのに、私の肉体は泣かなかった。

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