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イグニオン神星会議……歴史動かしちゃった?

 




 イグニオン神星会議はその名の通りイグニオンで開かれる。それで私は一万の軍勢とラスアジィンニコフとノストルムきっての神学者や聖職者を連れてイグニオンに向かって、そして今着きそうって感じなんだけれど、ここにきてやっと分かった。何故ラスアジィンニコフがイグニオン神星会議でア=ステラの神性を肯定するべきなのかと言ったのかを。


 「やっと分かったよ、ラスアジィンニコフ。救世主ア=ステラが神であると肯定すれば、神は人の姿を持って地上に現れる事があるって言える。そうすれば皇帝とか偉い人は自分を現人神だと言える様になる。それでいて私がア=ステラとかその使徒しか使えなかったエルの治癒魔法を使えるのなら尚更。こういう事でしょう?」


 「えぇ、まあ大方はそうですね」


 正直言って、これを瞬時に導き出したラスアジィンニコフには脱帽する。だって私は一ヶ月くらい考えてやっと分かったんだしね。


 「さぁ、見えてきました。あれがイグニオンです」


 城塞都市イグニオン。小さな山を囲むように城壁を備え、山の上にそのまま建築物を乗せたような作りをしている。そして中央、山の頂上には何とも巨大な城が建てられていた。さながら巨大なモンサンミッシェルである。


 「凄い、どうやってあんなのを……」


 「伝承によるとア=ステラが建築の魔法で一週間のうちに建設したのだとか」


 「流石に嘘でしょ」


 「1000年前とかではなく340年前の事ですよ。こんな嘘吐くのは難しいでしょう」


 「本当なのかなぁ」


 この街を本当に一週間で?私がエルの建築魔法を使っても100年くらい掛かりそうな街なのに。あり得ない。私はア=ステラを転生前の世界から来た私と同じくらいの時代の人と思っていたけれど、もしかしたらもっと先の時代の人なのかもしれない。だって魔法は知識、私よりより先の時代の知識を知っていて真理に近いのなら私より凄い魔法を使えるはずだしね。

 そんなこんな考えている内に私の軍勢はイグニオンに入城した。しかしこの街は不思議だ。外から見た時は水道橋やら石造りのアーチやらがあってノストルム地域の建築何だなと思ったが、中に入ってみると鮮やかな青の尖塔や幾何学模様などどこかイスラーム風味な雰囲気があった。しかも何より驚きなのが、先程は見えなかった裏側にはまるでビルのような建築があったという所だ。まるで建築様式の寄り合い所帯である。

 しばらくして私達一行はイグニオン神星会議が執り行われる星アルタイル大教会に辿り着く。


 「凄まじい……」


 金の装飾と類稀なる彫刻技術を使った過剰なまでの絢爛さ。天井には夜空を描き、壁は純白なる大理石と金の装飾。それが星アルタイル大教会である。そして既にこの場所には200名余りの人々が集まって立ち話をしている。そう、こんな豪華な装飾をしているのにも関わらず、椅子とか十字架とかそういうものがここには無いのだ。奥の祭壇を除けば、まるで超高級体育館のようだった。


 「ラスアジィンニコフ、十字架とか椅子とかがないようだけど、これは何で?」


 「えぇ、この辺りの地域の人々からすればそれらは不要なものなのです。星典派ですので、ア=ステラの第一の言葉、天国とは遥か宇宙の穴にありき、という事のみを真理にしているのです。ですから祈る必要なんてないんですね、ここの人たちは宇宙の穴に行く方法を探求しているので」


 要はこの辺の人たちは科学者寄りの聖職者って訳だ。ノストルムとは逆である。


 「さて、そろそろ時間ですねヘリオース陛下」


 「そうだね、緊張するよ」


 皇帝となっての初めての大仕事だ。今までの結婚とか即位式と違って、今回ばかりは置物じゃいけないんだ。

 私は聖職者や属州の統治者達を掻き分けて、祭壇の前に立つ。格好が格好だからだろう、皇帝がスカートを履いてるは真だったのかと皆困惑しているのかもしれない。しかし誰もそれを問題視しないし口には出さないのだろう。何故なら今からの会議の方が大事だからね。


 「まず諸君におかれまして、広くマレ・ノストルム帝国内各地からお集まりいただいた事、誠に感謝申し上げます。さて、諸君らも知っての通り、星教を国教とするにあたり、星教の正統性をここにおいて決定しなくてはなりません。主な争点としては休息日の設定、そして救世主ア=ステラの神性の有無になります」


 「次に諸君らの立場について、諸君らの立場はマレ・ノストルム第30代皇帝ヘリオース・エルガーベラスの名において保障されております。ですからこの場において諸君らは如何なる発言をしたとしても決して拘束される事はないと約束致します」


 「では会議に入らせて頂きます。第一の議題はア=ステラの神性について、と致しますがこれについて異議を唱える者は一歩前へ」


 誰も動かなかった。


 「ではアルメリウス学派アルセンティヌス主教様、お願い致します」


 集団の中から立派な白髭を携えた老人が壇上に向かう。私は彼と入れ替わり、彼の立場表明が始まった。

 そう、今回の会議は一人ずつ壇上に立った後に立場を明らかにしてその後に投票という形で行われるのだ。


 「私、アルセンティヌスはア=ステラは神と星と同質の存在であると考える。つまり議題に則って言うのならば、ア=ステラは神性を有すると考える。使徒ガモフの福音12章3節より、"宇宙の始まりとは一つの火であった、それは貴方が神であり、また人であり星であるように。ただ無限の方向に拡散する"ここにおいて明確に使徒ガモフはア=ステラに対して明確に神であり星であり人と言っています。故に、ア=ステラは神性を有するのです」


 宇宙の始まりは一つの火、明確にビックバンだ。ん、待てよこれ使えるんじゃないか。後で彼の言葉はうまく使っちゃうかな。少し冒険だけれど、今後必要になるんじゃないのかな。


 「アルセンティヌス主教、感謝申し上げます。では次にケレネール学派、サンティニオン主教、お願い致します」


 さっきとは打って変わって黒髭の老人が壇上に立った。


 「ア=ステラは神性を有さないと私は考えております。理由として星典においてア=ステラの神性を肯定する文言は一切無いのですから。また星典21章15節より"私は真理の従属人で御座います。そして貴方も同じく。私達は天国に至る手法を導く為、真理を追求する従属人なのです"ここにおいてア=ステラは神と同一である真理に対して、私は従属人唱えております。ノストルムにおいて父による奴隷殺しが合法的であり、またその逆、奴隷による父殺しが違法であるように、真理の従属人とは従属人に過ぎず、真理と従属人は同一では無いのです。よってここにおいて、ア=ステラは神性を有さないと証明されます」


 星教において真理とは神でありまた究めるものでもある。簡単に言うと物理とか科学とか、あるいは宇宙そのものが神であり、それを解明する事が祈祷であると言う訳だ。

 で、肝心のこの人が何を言ってるかって事なんだけど、この人はこう言いたいんだと思う。

 ア=ステラは研究者です。研究者が自分こそが神(宇宙)ですと言わないように、またア=ステラも同じく神(宇宙)ではない。


 「サンティニオン主教様、ありがとう御座います。では次に……」


 そこから200人が喋った。そしてとうとう私の番が来る。影響力を考慮して皇帝は一番最後なのだ。


 「さて、私ヘリオース・エルガーベラスとしてはア=ステラの神性を肯定致します。私としては先程のアルセンティヌス主教様と同じ立場なのです。つまり、ア=ステラとは原初火であり、火は神であり、星であります。つまりア=ステラとはある種の完全性、両性具有性、雌雄同体性を持った存在であり、また神性を持つのです」


 ア=ステラの両性具有、これが肯定されればスカートを履いた皇帝というこの姿が肯定される。


 「では諸君ら全員の意思を確認が終了致しましたので、投票に入らせて頂きます」


 この後の投票の結果、ア=ステラの神性は認められた。これがかの有名な第一回イグニオン神星会議であった。

 しかし私は知らなかった。いや、知っていて無視していた。私がどのような選択をしたとしても、また選択をしないとしても、絶対に誰かは犠牲になってしまうという事も。

 そしてイグニオン神星会議による星教の正統(オルトドクス)の選択も、その一つであった。

 だから私の耳の中に彼の、サンティニオン主教の声が生涯残ることになってしまったんだろう。


 貴方達にとって真理とは自然でも宇宙でもなく、世俗権力そのものなのです。

ニケーア公会議ですね。史実でもここでキリストの神性について議論されました。

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