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お忍びでノストルム観光ってわけ

 




 今日はイグニオン神星会議という大き過ぎるイベントの前に気晴らしという事でお忍びでノストルムの街を歩いている。隣にユリアンを連れて。それにしてもノストルムの街は素晴らしい。エルガーベラス領とは大違いだ。だってあんな巨大な水道橋とかコロッセオとか、エルガーベラス領には建てれそうにない。一般人が住んでいる賃貸ですら芸術の域に達しているんだ。

 それで今、私達が何をしているか。


 「いけー!マクリヌス!」


 後ろから甲高い黄色い声援。そして同時に四馬仕立ての戦車(チャリオッツ)8つが嗎と砂煙を上げて走り出した。そう、戦車競争である。


 「うわ凄い熱気だね、ヘリオ」


 「あのマクリヌスって人、金の兜した人が凄いイケメンで今日こんな集まってるらしいよ」


 今回は金兜のマクリヌス、顔はまだ分からないけれど凄い筋肉の人だ。でも馬は貧相だし戦車は脆そうで安っぽい。しかし彼の馬は全く置いてかれていない。

 コーナーに差し掛かった時、彼は丸太のような腕を高く上げて馬に鞭を打った。彼の貧相な馬は姿勢を下げて、その非力そうな肉体からは想像できないような力を絞り出した。

 そう、馬の貧相さも戦車の見窄らしさも全てはスピードの為、機能美だった。


 「マクリヌス〜!!」


 大きな歓声が競技場を包んだ。マクリヌスが一着でゴールしたのである。そして彼は競技場を一瞥した後、その金兜を地に投げ捨てた。


 「え、うわすご」


 素直な声が出てしまった。短く整えられた黒髪に漆黒の瞳、キリッとした眉、互い鼻に控えめで小さな唇、そして幸薄そうな涙ホクロ。これ以上のイケメンは転生前後含めて私は知らない。

 いいな、あの顔であの筋肉。正直何というか、抱き締められたい。そしたら暖かくてガッチリとしていて、安心出来るだろうな。


 「うっわヘリオ今凄い顔してたね。なんか本当に女の人みたい、や、それはいつもか。何というか、凄かったよ今の顔」


 「え、そうなの。いや、違うんだユリアン」


 「違うないでしょ。なるほどねヘリオああいうの好きなんだ」


 「いや、ただ凄いなって思っただけだよ男として、多分」


 嘘である。私だって流石に自覚してる。私の中の私はあの男の筋肉質な胸に身体預けたいなと思っていた。


 「嘘吐き、流石に分かるからね。だってあの顔私に絶対してくれないじゃん」


 こういう所だ。私は何とかして私の中の私を黙らせないとユリアンを抱けるようにはなれない。


 「そろそろ行こっか」


 競技場を出た後、昼食を済ませる為に大通りから外れた道を歩く。すると流石ノストルムというべきか、聖職者が大勢の市民の前で星典を読み上げていた。


 「……星メンディリウスは背の高いエンドウのみを集め庭に植えました。するとそのエンドウの種は多く背の高いエンドウを作ったのです」


 転生前の世界ではメンデルの法則と言われていた奴だろう。確かア=ステラは救世主でありながら天文学者であり、汝真理に努めよさすれば天国はそこに在らんと残したんだったっけか。そのせいで聖職者と科学者は不可分で多くの人間が学問をやるようになった。だからこの世界はこの様にある部分では転生前の世界と比べて凄いスピードで発展してる。

 でもその代わり知識こそが天国の門の鍵って認識で聖職者の権力がめちゃくちゃにデカくなってしまった。だって真理を追い求める為の知識を聖職者が独占してるって事は聖職者が天国を独占してるって事でもあるしね。


 「あ、ちょっと待ってて、ユリアン。あの人……」


 話を聞いてる人達の中に右腕を欠損していた人が居た。


 「ダメだよヘリオ。ダメ」


 治癒魔法を使おうかなと思っていたその時、彼女は私の服を引っ張って止めた。


 「エルの治癒魔法は無闇に使わないで」


 「何でさ、可哀想って、偽善でもその人にとっては意味のある事になるでしょ」


 「馬鹿。そういう所だよあの政務長に利用されるの。いい?なんか貴方はわかってないけれど魔法って権力だからね。特別な力でも何でも無いから無闇やたらに使っちゃ駄目だよ」


 「それは、そうだね。うん、ごめん。やめておくよ」


 ここは私の中の私とこの世界の人達の感覚の違いなんだろう。転生前の知識が魔法というのは超常の力であり、困難を打ち破ったり人を助けたりするものってイメージを強くしてしまう。特に漫画とかアニメのせいで。でもこの世界の人達からしてみれば魔法というのは最初からそこにあったもので超常でも何でも無い。多分一番近いものだと権力とか、金銭なんだと思う。それをわかっているのに、どうしても……治さなくちゃ。


 「本当に怖いからね、貴方。なんか天然なのか鈍感なのか、きちんと分かってる時は分かってるんだけど、何でだろうね」


 「気を付けるよ」


 その後、適当な店で昼食を済ませ城に帰った。

 

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