第二次奴隷戦争の終結……?
第二次奴隷戦争開戦から二週間後、そして奴隷2000人を磔刑にしたカカシの海岸線事件から一日後の夜、私は自室にてあの男の身体に寄っかかっていた。
「ねぇ、マクリヌス。私、貴方と同じような人沢山殺してきたよ」
この男の厚い胸板に寄っかかって安心を覚えている。本当に自分が嫌だ。ヘリオースが皇帝として強く、立派になっていくほど、私の中の私は弱くなって行くんだ。まるで二つの力が逆の方向に引っ張りあってるようで、弾けてしまいそうで、二つに裂けてしまいそうで苦しくて怖いんだ。
「でも必要なことでした。貴方がそうしなければならなかった皇帝として」
「そうだけど、でれそれはそれとして私の命令で人を殺した事は変わらない。私は……」
彼は私を抱き締めてくれた。多分ラスアジィンニコフだったら結局何が言いたいんです?とか言って来ただろう。私は正論が欲しいんじゃなくて抱き締めて安心させて欲しいんだ。
「あんたは立派な人ですよ」
馬鹿だな、私は本当に。黙って抱き締めてなんて言えないから察して欲しいなんて、私の強がりを否定して欲しい事を察してなんて、それが卑怯で狡い事ってわかってる。でも私はそれ以外の方法を知らない。
「本当に嫌だよ、最初、貴方に勉強を教えて解放奴隷にするのが正しいって思ってたのに、結局貴方を男娼として使ってる。私のドロドロとしたこの気持ち悪い私を吐き出すために使ってる。本当は奴隷なんて言って人に命令するの嫌なのに」
「俺は構いませんよ。それが俺の仕事ですし、俺はそれ以外の生き方を知りませんから」
「だから卑怯者なんだよ、私……」
その日はそのまま彼に抱かれて眠った。涙を彼の胸板に押し付けて夢の中に落ちたんだ。
朝がやってくる、それと同時に私の中の私は夜まで眠って、ヘリオースが目を覚ます。
「ん、おはようマクリヌス」
「あぁ、おはようございます」
「今日はそうだな……神星院から頼まれた神事の前にラスアジィンニコフと話しておこうかな。それで……そうだ、マクリヌスって確か奴隷のお友達多かったよね。もしもに備えて、第二次奴隷戦争の背後関係を洗っておこうって思って。調査委員会と私でもやる予定なんだけど、奴隷として市内の人に聞き込みして来てくんない?」
彼は眠い目を擦りながら答えた。
「……昨日大泣きしてた人とは思えませんね、相変わらず」
「まぁ、皇帝だからね」
マクリヌスに着替えを手伝わせ、すぐに私はラスアジィンニコフの邸宅に向かった。
彼の邸宅は広く、朝なので彼の家の前に長蛇の列ができている。彼らは元ラスアジィンニコフの奴隷、解放奴隷って奴である。元主人が解放奴隷の面倒を見ることが義務付けられているように、解放奴隷側も朝イチで主人に挨拶をする事を義務付けられている。またその列の長さでその人の威厳を表すんだとか。
「すまない、解放奴隷諸君。通りして欲しい」
皇帝である私を見る彼らの目。無関心なものが殆どだけど一部憎むような目で見てくる人もいる。当然だ、彼らの仲間を2000人殺したんだから。でもその眼は間違っていると私は思う。あの2000人は彼らノストルムの奴隷仲間などではなく、ノストルムに反旗を翻した、むしろ彼らの敵と言えるものなのだから。
「ごめん、ラスアジィンニコフ。神星院からの頼まれ事の前に貴方と一度話したいんだ」
解放奴隷の近況報告と挨拶を聞いているラスアジィンニコフは朝イチということもあり髪も乱れて服は寝巻きだった。
「私もそうしたかった所ですが、少し待ってて下さいね、身支度を」
「いいよそのままで」
「そうですか。じゃあ君たち!私はこの人と話しがあるから少し待っていろ!」
彼は解放奴隷にそう叫び、私を自分の書斎に連れ込んだ。
彼の書斎は狭っ苦しい。多分本とか地図とか山積みな上に、趣味の釣り道具とかも一緒に置いているからだろう。
「で、話の内容は大体想定付きますが」
彼は大きく欠伸をした後、私に向き直った。こう見るとこの人も人間で、本当に中年親父なんだなって思える。
「まずはガイウス魔法法改正について、協力感謝してるよ。貴方の協力がなければ成せなかった」
「で、あれでしょ、独裁官制度の廃止についての話をするんでしょう?わかってますよ」
「そのつもりだよ。それで独裁官の所では貴方とぶつかり合うけれど依然と来てガイウス魔法法の廃止については賛成だからその点では協力しようって話」
頬杖を突きながら彼は再び欠伸をした。多分、私は彼にとっていまだに脅威と思われていないのかもしれない。
「一度上手い指示をしたからって調子に乗らないで下さいよ。貴方の言っている事くらい当然私とて理解できるし、そうするつもりだ。で、それだけですか」
むろん、私とてこれを言いにきた訳ではない。むしろ本題はこっちだ。
「奴隷を処刑を担当した部隊から奇妙な報告があった」
彼は姿勢を直し、いつもの政治家の目をした。
「奇妙な報告とは?」
「奴隷達が祈っていたらしい。神にではなく、アナキヌス・スパルタクス様と、そう祈っていたそうな。だから第二次奴隷戦争の背後にはとても大きな、何かが存在してる。つまり私が思うに、この戦争はまだ終わっていない。むろん調査委員会は設置する予定だよ」
「なるほど……調べておきます。こちらでも」
ラスアジィンニコフ邸での用事が済んだので、私は王宮に戻り神星院からの用事を遂行する事にした。




