第7話:思い出の魔石、無限の資金
美琴がフライパンで鶏肉を炒め始めると、香ばしい匂いが部屋中に広がった。手際よく玉ねぎを刻み、ご飯を加えて炒めていく。
その様子を眺めながら、悠真はふと思いついたことを口にした。
「そういえば、お金を複製すれば、一瞬で大金持ちになれるんじゃないか?」
美琴がフライパンを持ったまま振り返った。少し呆れたような表情をしている。
「悠真さん、それは通貨偽造罪になりますよ」
「いや、偽造じゃなくて複製だから……」
「法的には同じです。お札には固有の番号が印刷されてますし、同じ番号のお札が2枚あったら大問題です」
悠真は頭を掻いた。確かにその通りだ。
「そうか……残念」
美琴は苦笑しながら料理を続けた。オムライスのいい匂いが漂ってくる。
しばらくして、美琴が手を止めた。何か考え込んでいる様子だ。
「でも……」
「ん?」
美琴が振り返った。
「探索で取れた素材なら、複製して売却できるんじゃないでしょうか」
「素材?」
「はい。モンスターからドロップした素材なら、シリアル番号なんてありませんし」
悠真は目を開いた。確かに、それなら法的な問題もクリアできる。
「でも、手元に価値のある素材なんて……あ、そうだ」
悠真は立ち上がり、部屋の奥にある棚に向かった。そこには、探索で得た様々な記念品が飾られている。その中から、小さな木箱を取り出した。
「これ、覚えてる?」
「あ、それは……」
美琴の目が大きくなった。
「1年前、初めて15階層をクリアした時に手に入れたBランク魔石だ」
悠真が木箱を開けると、中には親指大の青く輝く結晶が収められていた。Bランク魔石――中級以上のモンスターから稀にドロップする貴重な素材だ。
「記念に取っておいたんだよな。売れば100万くらいにはなるけど、思い出があるから」
「でも、複製できれば……」
「そうだな。記念品は手元に残せるし、複製品を売れば資金も得られる」
二人はスマートフォンでBランク魔石の相場を調べた。現在の買取価格は、1個あたり90万から110万円程度。品質によって価格は変動する。
「これを複製して売れば、かなりの資金になりますね」
「ああ。でも、俺達みたいな中級探索者が一度に複数売ると怪しまれるかもしれない」
「そうですね。今日は1個だけにしておきましょう」
美琴がオムライスを完成させ、テーブルに運んできた。ふわふわの卵に包まれたチキンライスの上に、ケチャップがかけられている。
「美味しそう」
「ありがとうございます。どうぞ召し上がってください」
オムライスと食後のプリンを食べた後、二人は早速行動に移すことにした。
◇ ◇ ◇
悠真は木箱から魔石を取り出し、テーブルの中央に置いた。青い輝きが部屋の中に幻想的な光を投げかける。
「きれいですね……1年前のことを思い出します」
「あの時は本当に苦戦したよな。コボルドジェネラルを倒すのに30分もかかった」
「でも、二人で協力して倒せました」
「ああ。あの時の達成感は忘れられない」
悠真は深呼吸をしてから、スキルを発動させた。
「『無限複製』」
七色の光が魔石を包み込む。そして次の瞬間、隣に全く同じ魔石が現れた。2つの魔石が、テーブルの上で並んで青く輝いている。
「できた……」
美琴がすぐに複製品を手に取り、じっくりと観察した。透明度、色合い、内部の魔力の流れまで確認する。
「完璧です。これなら専門の鑑定士でも見分けがつかないと思います」
「すごいな……でも、オリジナルは記念だから売らないよ」
「もちろんです。思い出は大切にしないと」
◇ ◇ ◇
午後3時、二人は探索者協会の買取所に向かった。日曜日ということもあり、多くの探索者で賑わっている。
買取カウンターに並び、順番を待つ。前には、ゴブリンの素材を大量に持ち込んでいる初心者らしき探索者がいた。
「次の方どうぞ」
悠真がカウンターに近づき、Bランク魔石を1個差し出した。
「Bランク魔石の買取をお願いします」
「承知しました。鑑定させていただきます」
係員は手慣れた様子で、魔石を特殊な装置にセットした。魔力濃度、純度、品質などが数値化されていく。
「素晴らしい品質ですね。上質なBランク魔石です。買取価格は105万円になります」
「お願いします」
手続きはスムーズに進んだ。探索者証を提示し、必要書類に記入する。しばらくして、現金で105万円を受け取った。
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
◇ ◇ ◇
買取所を出た後、二人は近くの喫茶店に入った。
「一気に100万円以上……信じられません」
「ああ。これで良い剣が買えるし、余裕もできた」
「でも、これ以上は控えた方がいいですね」
「そうだな。Bランク魔石は15階層以降でしか入手できないし、俺たちのレベルだと滅多に手に入るものじゃない。あまり何個も売ると不自然に思われるかもしれない」
コーヒーを飲みながら、二人は慎重に計画を立てた。
「とりあえず、今日の資金で新しい剣を買おう。それ以降は、必要に応じて少しずつ」
「賢明だと思います」
「さて、本題の剣の購入ですけど」
美琴がノートパソコンを開きながら言った。
「ネットで調べたら、良さそうな武器店がいくつかありました」
画面には、探索者向けの武器を扱う専門店のサイトが表示されている。商品の写真と共に、詳細なスペックが記載されていた。
「この店なんてどうですか? 『武器工房タケミツ』。品揃えが豊富みたいですし、口コミの評価も高いです」
「タケミツか。聞いたことある。確か、有名な刀匠の家系が経営してる店だよな」
「はい。伝統的な技術と、現代のダンジョン用武器の技術を融合させてるそうです」
商品一覧を見ると、確かに品揃えは充実していた。初心者向けの安価なものから、プロ用の高級品まで幅広い。
「この『雷鳴の刃』っていうのはどうですか?」
「どれどれ……雷属性付きか」
画面に表示された剣は、刀身に電撃のような紋様が刻まれていた。スペックを見ると、雷属性の魔法効果が付与されているらしい。
「かっこいいな。でも80万か……」
「今の悠真さんなら買えますよ」
「うーん、でも実物を見てから決めたいな。写真だと分からないこともあるし」
「そうですね。明日の月曜日、大学の後に一緒に見に行きませんか?」
「ああ、是非。美琴の意見も聞きたいし」
二人で色々な剣を見比べながら、それぞれの特徴について話し合った。
「この『月影』っていう剣も良さそうです。切れ味重視みたいですね」
「でも、耐久性がちょっと低いな。俺の戦い方だと、すぐ刃こぼれしそう」
「確かに、悠真さんは結構激しく戦いますもんね」




