第21話:二人で描く、未来への設計図
地上に戻ると、夕方の光が眩しかった。
受付でレベルアップの登録を行う。
「おめでとうございます。平山さんはレベル21、綾瀬さんはレベル18ですね」
係員が端末に情報を入力する。レベルアップは探索者にとって大きな節目だ。特に20を超えると、上級探索者への道が開ける。
その後、探索者協会の買取所で素材を売却した。三人それぞれが買取カウンターに向かう。
悠真と美琴は、途中で獲得したCランク魔石や狼の瞳などの素材を売却した。二人合わせて150万円ほどになった。Bランク魔石は後で使うため、売らずに取っておく。
紗夜は別のカウンターで手続きを進める。
「Cランク魔石8個と、各種素材の買取をお願いします」
紗夜の戦利品は、100万円以上の値がついた。
「こんなに譲ってもらって、本当に良かったんですか?」
買取所を出てから、紗夜がまだ恐縮している。
「いいんだよ。妹さんの治療に役立ててくれ」
悠真はリュックに入れたままのBランク魔石のことを考えていた。これは後で複製して資金源にする予定だが、紗夜には言えない。
「最新の治療も試せるようになります。本当にありがとうございます」
紗夜の声には、心からの感謝が込められていた。
協会を出たところで、紗夜が深々と頭を下げた。
「今日は本当にありがとうございました。命の恩人です」
「大げさだよ」
「いえ、本当です。それに、久しぶりに仲間と一緒に戦えて、楽しかったです」
紗夜の言葉には、孤独な戦いを続けてきた者の実感がこもっていた。
「じゃあ、また連絡するから」
「はい! いつでも連絡ください」
紗夜は何度も振り返りながら、駅へと向かっていった。
◇ ◇ ◇
紗夜と別れた後、悠真と美琴は近くの喫茶店に入った。
落ち着いた雰囲気の店内で、アイスコーヒーを注文する。
「今日は収穫が多かったですね」
美琴がアイスコーヒーを飲みながら言う。
「ああ。それより、さっきのメッセージなんだけど」
悠真は声を落として、スキルの覚醒度について打ち明けた。
「覚醒度52%……ということは、まだ半分しか覚醒してないんですね」
美琴が興味深そうに考え込む。手帳を取り出し、メモを取り始めた。
「100%になったら、何か変わるのかな」
「新しい能力が解放されるかもしれません。もしかしたら、複製したものを消す能力とか」
それなら、2つになった月を元に戻せるかもしれない。二人は期待を込めて話し合った。
「覚醒度を上げる方法は?」
「レベルアップと連動してるみたいだ。21になって52%ということは、計算すると……」
美琴が電卓アプリで計算する。
「レベル40くらいで100%になる計算ですね」
「40か……道のりは長いな」
現在、世界最高レベルは37だ。レベル40に到達した探索者は、まだ誰もいない。それほどの高レベルに到達するには、相当な努力と時間が必要だ。
◇ ◇ ◇
喫茶店を出た後、アパートに戻ってから、インターネットで「生命の花」について調査した。
美琴がノートパソコンを開き、探索者フォーラムやオークションサイトを確認する。キーワード検索、掲示板の過去ログ、あらゆる情報を調べた。
「やっぱり市場には出回ってませんね」
画面には、生命の花に関する情報がいくつか表示されていた。
「ここに詳細が載ってます。『生命の花:上級レベルのモンスター(21階層以上)から極稀にドロップ。使用すると1%の確率でどんな病気・怪我も完治する。失敗した場合、効果なし』」
「1%か……低いな」
「でも、現代医学で治せない病気なら、その1%に賭ける価値はあります」
美琴の言葉通りだろう。何もしなければ確実に死が待っているなら、1%でも可能性があるアイテムは希望になる。
「過去の取引履歴を見ると……3年前に1個、1億5000万円で落札されてますね。それ以降は出品すらされていません」
「生命の花を手に入れた者は、売るより使うことを選ぶんだろうな」
「複製できれば、紗夜の妹も救えるのに」
美琴の呟きに、悠真も同じことを考えていた。生命の花を1個手に入れて複製すれば、100個でも1000個でも作れる。1%の確率でも、100個使えば63%、1000個使えば99.99%以上の確率で成功する。
しかし、まずは現物を手に入れる必要がある。それは簡単なことではなかった。
「上級階層……最低でも21階層以上か」
「今の俺たちじゃ、まだ厳しいな」
「でも、種シリーズを食べ続ければ、すぐに挑戦できるようになりそうですね」
二人は決意を新たにした。紗夜の妹を救うためにも、より強くならなければならない。
◇ ◇ ◇
夕食の準備をしながら、美琴が紗夜について話し始めた。
「紗夜ちゃん、いい子だと思います」
野菜を切りながら、美琴が言う。今夜は肉じゃがだ。じゃがいもの皮を剥きながら、別の鍋で体力の種を茹で始める。
「ああ、剣の腕は本物だった。レベル14であそこまで戦えるのは、才能がある証拠だ」
悠真も認めざるを得なかった。紗夜の剣技は、年齢やレベルを考慮すると驚異的だった。基本がしっかりしていて、無駄な動きが一切ない。
「妹さんのために、あんなに頑張ってるなんて」
「家族思いなんだな」
鍋に火をかけ、肉を炒め始める。香ばしい匂いが部屋中に広がった。
二人で作った夕食を食べながら、今後の計画を話し合った。
「レベルも上がったし、来週は17階層にも挑戦できそうですね」
美琴が提案する。
「そうだな。来週は17階層、再来週は18階層って感じで、毎週1階層ずつ進んでいけるかもしれない」
「16階層がこれだけ余裕なら、20階層くらいまで一気に行けるかもしれませんね」
「そうだな。今の実力なら十分挑戦できそうだ」
「明日、連絡を取ってみましょう」
◇ ◇ ◇
食後、悠真は一人でベランダに出た。
夜空には相変わらず2つの月が輝いている。もう1ヶ月以上この状態が続いているが、人々はすっかり慣れてしまったようだ。ニュースでも、最近はほとんど取り上げられなくなった。
新しい仲間ができたこと、スキルの覚醒度のこと、考えることは多い。
「紗夜にも種シリーズを分けてあげたいが……」
独り言を呟く。種シリーズでステータスを上げれば、紗夜ももっと安全に探索できるようになる。しかし、まずは信頼関係を築く必要がある。スキルのことを打ち明けるのは、もっと先の話だ。
風が吹いて、カーテンが揺れた。少し肌寒くなってきた。
部屋に戻ると、美琴が皿を洗っていた。
美琴の後ろ姿を見ながら、悠真は考えた。紗夜の妹のためにも、生命の花を手に入れる方法を見つけないとな。
明日はゆっくり休んで、来週からまた頑張ろう。
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