第16話:最強の献立表
「毎日違う種類の種を使った料理を作れば、バランスよくステータスを上げられます」
美琴が新しいページを開き、ペンを走らせ始めた。
「明日は知力の種で大豆の炊き込みご飯にしましょう」
「月曜日は?」
「守りの種でひじき豆。火曜日は素早さの種で五目豆、水曜日は体力の種で大豆カレー、木曜日は魔力の種で豆ご飯……」
美琴の献立案は実に豊富だった。
「金曜日は運の種で、大豆ハンバーグなんてどうでしょう」
「バリエーション豊富だな。飽きなくていい」
「大豆料理は和食の基本ですから。他にも、豆腐や納豆風にアレンジすることもできるかもしれません」
悠真は感心しながら美琴の計画を聞いていた。彼女の料理への情熱と知識の深さに、改めて感謝の気持ちが湧いてくる。
「7種類を順番に使って、バランスよくステータスを上げていきましょう」
「ああ。じゃあ、他の種も全部複製しておこう」
「そうですね。今のうちに準備しておきましょう」
美琴が台所から密閉容器を7個持ってきた。100円ショップで買った透明なプラスチック容器だ。
◇ ◇ ◇
二人は再び複製作業を始めた。
「知力の種」から順番に、残りの5種類も同じ手順で複製していく。1個から始めて、倍々に増やしていき、それぞれ128個ずつ作る。
「知力が上がれば魔法の威力も上がるし、防御力が上がれば生存率も上がりますね」
美琴が期待を込めて言う。
作業は機械的で、30分程度で全ての複製が完了した。
7つの容器に種が収められている。力の種は88個、他の5種類は128個ずつだ。美琴がラベルを作り、種類が分かるように貼り付けた。
「これだけあれば、しばらくは大丈夫ですね」
美琴が満足そうに容器を眺める。
「ああ。計画的に使っていこう」
悠真も同意した。容器を棚に並べ、大切に保管する。
◇ ◇ ◇
夕方6時半になり、美琴が夕食の準備を始めた。
「今日は豆カレーにしましょう」
「いいね。どの種を使うんだ?」
「『体力の種』を40個使います。カレーなら豆の味も気にならないでしょう」
美琴は手際よく材料を準備した。玉ねぎ、人参、じゃがいも、鶏肉。そして「体力の種」40個。
まず、種を別の鍋で茹でる。その間に野菜を切り、肉を一口大にカットする。
フライパンに油を引き、玉ねぎを炒める。透明になったら人参を加え、さらに炒める。肉を加えて色が変わったら、水を注いで煮込み始めた。
「いい匂いがしてきた」
悠真がキッチンを覗く。
じゃがいもを加えて15分ほど煮込んだ後、カレールーを溶かし込む。スパイシーな香りが部屋中に広がった。
最後に茹でた「体力の種」を加える。見た目は大豆カレーそのものだ。
「完成です」
「美味そう!」
食卓にカレーライスが並べられる。大きな皿に盛られたカレーは、具だくさんで食欲をそそる。
「いただきます」
「いただきます」
スプーンでカレーを口に運ぶ。スパイスの効いた辛さと、野菜の甘みが絶妙だ。「体力の種」も、普通の大豆のような食感で違和感がない。
「うまい。これなら毎日でも食べられる」
「よかったです。明日の献立も考えておきますね」
食事をしながら、二人は明日以降の計画を話し合った。
◇ ◇ ◇
午後9時、美琴が帰り支度を始めた。
「明日の献立も決まりました。知力の種で大豆の炊き込みご飯。きっと美味しくできます」
「期待してるよ」
悠真が玄関まで見送る。ドアを開けると、廊下の冷たい空気が流れ込んできた。
「今日は大成功でしたね」
「ああ、全て順調にいった。本当にありがとう」
「いえいえ。それじゃ、また明日」
「おやすみ」
美琴が自分の部屋に入っていく音を聞きながら、悠真はドアを閉めた。
◇ ◇ ◇
一人になった部屋で、悠真は今日一日を振り返った。
リビングのテーブルには握力計が置かれている。92kgという数字が、デジタル表示に残っていた。たった20個の種で2kgの向上。これを続ければ、確実に強くなれる。
棚を見ると、7つの透明容器が整然と並んでいる。力の種と体力の種は少し減っているが、それでも大量の種が保管されている。
悠真はベランダに出た。夜空を見上げると、予想通り2つの月が輝いている。片方はいつもの位置に、もう片方は60度離れた位置に。どちらも同じ大きさ、同じ明るさで夜を照らしている。
「このペースなら、1ヶ月後には相当強くなれるはず」
独り言を呟きながら、悠真は月を見つめ続けた。
自分が引き起こした前代未聞の事態。その責任の重さは計り知れない。でも、後悔しても仕方がない。今は前に進むしかないのだ。
風が吹いて、カーテンが揺れた。少し肌寒くなってきた。悠真は部屋に戻り、窓を閉めた。
明日の予定を確認する。日曜日は美琴と一緒に新宿中央公園ダンジョンの10階層に行く予定だ。新しい剣の試し切りも兼ねて、いつものコースを回るつもりだ。
シャワーを浴びて、ベッドに入る。今日は疲れたが、充実した一日だった。
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