最終話 異世界転生リバースサイド
初作品、エタることなく無事に最終話を迎えられてホッとしています。
まじめに異世界転生を考えると堅苦しくなるので、できるだけギャグ風味にしてみました。
でも、異世界転生をまじめに考えることが最大のギャグかもしれません(`・ω・´)
聖堂の祭壇は白い蒸気に包まれていた。
リーツは、その傍らで折り畳み式の椅子を用意して座っていた。
そして、手元の本を読みながら、ときどき微笑していた。
たまに、白い蒸気に包まれた祭壇に目を向ける。
「そろそろ終わらないかなぁ……この間、暇すぎて困るよ……」
リーツはやることがなく、ぼやいていた。
そう言って、再び手元の本に視線を落とした。
しかし、すぐに手元の本を閉じて、祭壇に目をやり、立ち上がった。
祭壇を覆う白い蒸気が、その中央に収束するように晴れ始めていた。
やがて、白い蒸気は横たわった人型を取った。
人型の白い蒸気がさらに収束して、勇者の遺体が露わになり始めた。
白い蒸気が晴れるのと、ルカが再び姿を現したのは、ほぼ、同時のことだった。
「お疲れ様です、ルカ様。」
リーツが一礼すると、ルカは微笑した。
「待たせたね。ちょっと時間をかけちゃったよ。」
ルカの言葉を受けて、リーツは肩をすくめた。
「ええ、かなり念入りに対処されていたようですね。」
「まぁね。――勇者クンに悪い影響が出ないようにするのが大変だったよ。」
そう言うと、ルカが一歩引いた。
逆に、リーツは前に踏み出して、勇者の遺体に両手をかざす。
その周囲に白い光が現れ、流体のように絡み始めた。
リーツが言った。
「それでは、第二表皮と第一表皮――肉体との同期手続きを始めます。」
「うん、頼んだよ~」
ルカがゆるく言った後で、微妙に申し訳なさそうにたずねた。
「ねぇ……オレ、残ってないとダメかな?」
ルカの言葉に、リーツは苦笑した。
「残りの手続きは、僕だけで問題ありませんので一足先にお戻りください。」
リーツがそう言うと、ルカは満足そうにうなずいた。
「優秀な部下を持つと楽ができていいや。」
ルカの軽口に、リーツは不敵に笑った。
「当然です。蘇生の仕上げ、仕上がり確認、その後報告に上がりますから。」
「わかった。任せるよ。」
ルカはうなずくと、その足で聖堂から出て行った。
その後、リーツは聖堂の内側に残って、勇者の蘇生手続きを仕上げた。
「――よし。」
リーツはうなずいて、手を降ろした。
勇者の顔に赤みがさしていた。
それから、リーツは聖堂から出て行った。
その後、聖堂の鐘が鳴り響いた。
リーツが去った後、少しの時間が経って、勇者はおもむろに体を起こした。
その勇者は、何も言わなかった。
ただ、首を動かし、手を振り、肩を回し、自分の肉体の動作を確かめた。
それから、祭壇を降り、扉の方へと歩き始めた。
* * * * *
リーツは、遠くの崖の上から、その聖堂の方角を眺めていた。
そして、ひとりごとを言った。
「とりあえず、無事に起き上がった、と。」
そう言いながら、同じ方角を眺め続けていた。
「困惑しているようだけど、それはどれだろうね。」
リーツはひとりごとを言いながら苦笑した。
それから、考える仕草を取りながら言った。
「ただの寝起き、第二表皮の同期遅れ、あるいは、記憶の混濁、可能性はあるけれど――」
そして、頭を振った。
「――それはもう、すぐに結論を出せることじゃないからね。」
リーツの周囲に風が吹いた。
その次の瞬間には、リーツの姿はその崖の上にはなかった。
* * * * *
例によってルカは、大きな部屋の中で、モニターを見つめてニヤニヤしていた。
果たして、彼に神々しさを見出すか、そうでないか、それは不明だが。
やはり、男女の修羅場を眺めてニヤニヤしていた。
コンコンコンコン、と落ち着いたノック音。
ルカが、扉に目をやって、言った。
「――リーツかな?入っておいで。」
扉はひとりでに開いた。
「失礼します。」
リーツが一礼すると、ルカの目の前まで進み出た。
その後、モニターを見て肩をすくめて苦笑した。
「ルカ様、ご報告します。」
「よろしく~」
ルカがゆったりとうなずくと、リーツは言った。
「勇者は無事に立ち上がりました。」
すると、ルカはたずねた。
「記憶はどうだったかな?」
「遠視で確認したため、声までは拾っていませんが――戸惑う様子を見せていました。」
リーツの言葉に、ルカは少しだけ考える仕草をしてみせた。
「判断しにくい様子だね。」
「ええ。」
それから、ルカは続けた。
「オレの手応えだと、残念だけど五分五分、良くて6:4。」
「……記憶への影響は、表れると見ておきましょうか。」
リーツが肩をすくめると、ルカは苦笑した。
「まぁね。――で、記憶への影響の程度にもよるけど、場合によっては人格への影響もあるかも。」
「そこまで行くと、大事故みたいなものですが……」
神妙な顔で言うリーツに、ルカは肩をすくめた。
「そこは、神様にでも祈ろうか。」
「皮肉ですね……それこそ最後は神頼み、ですか。」
リーツは天を仰いで苦笑して、それから言った。
「――この後の様子、観察しましょうか?」
すると、ルカは大きく息を吸い、そして天に向けて吐き出した。
「――ま、オレの仕事は終わりだよ。するかしないか、それは任せるよ、リーツ。」
「承知いたしました。」
リーツは一礼した。
それから、退出した。
ルカは再び、モニターを見つめてニヤニヤし始めた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
勇者は、太郎のかけらは、どうなったのか――
何もかも元通り(完全な素材化)、ちょっと太郎の記憶が混ざる、記憶経由の主従逆転――
作中のルカとリーツは、「何もかも元通り」を目指していました。
そうは言っても、“良くて6:4”。
ですので、読者の皆さまそれぞれが、思い描く結末を与えていただければと思います。
それではまた、次回作を書くことがありましたら。




