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何も知らない。まだ、私は何も知らない。

「どこに行くんですか?ハイネ」


「出ていくんだよ、この楽園を」


部屋で荷物をまとめていると私の世話をしているメイドのアンリが現れた。

アンリは見た目だけで言ったら私と大差ない。

ただ両腕が夜闇の様に黒く、流動系なのである。

今は腕の形を保っているが、料理の時は手が包丁になっているし、同時に何かをする時は腕が数本になっていることもある。


まあ、その程度の差しかなく見た目も大して変わらない為、私は私自身を珍しいと思わなかったのである。

私が絶滅危惧種だと伝えられた今にして思えば、意外と私と違う点はあるのだが、もう何年も一緒にいるせいで何とも思わなくなっている。


「で、出ていく?ど、どうしてですか?」


「どうしても何も…、飽きたから?知らないままでいることに」


私がそう言うと口をあんぐりと開けて呆けた。

数秒の後、決意は固いのですね?と聞いてきた。

私は、もちろんと答えた。


するとアンリは意を決したかの様に言った。


「私も付いていきます」


「え?」


これは想像していなかった。

まさかそんなことを言い出すとは。


「ダメって言われても、聞きませんよ」


私にはわかる。

こうなったアンリは何を言ってもきかないと。


「いや、まあ、いいけどさ」


「ハイネには私が必要ですよ?14にもなって服もひとりで着れないんですから」


「それは、確かに」


ごもっとも過ぎる意見に耳が痛い。

よく考えたら私、出来ない事ばっかだな。




###





「お嬢!」


荷物もまとめ終わり、一息ついていると今度はハルが声をかけてきた。


「お嬢、ここ出てくんすか?」


「え?」


なんで知ってんだこいつ。


「なんで知ってるんだ?って顔してますね」


「なんで知ってんの?」


「何年一緒にいると思ってんすか!俺も行きますよ!」


「え〜」


どうせならひとり旅が良かったんだけどなぁ。

アンリとハルと居ると旅に出た感じがしなさそうで付いてくるのは嬉しい限りだが、あまり気乗りしないのである。

しかし、楽園の外を知らない私がアンリとだけで旅を出来るかと言ったら少し不安な所もある。

もし常に死と隣り合わせの様な世界ならば問題なく生きていける保証はない。

アンリが戦えるかの知らないし、戦えそうなハルを連れて行くのも悪くない。


「あー、いいよ、ついてきても」


「よし!俺も荷物まとめてきますわ!」


アイツ何であんなに嬉しそうなんだ?


ハルは見たことないくらいの笑顔をうかべて、手を振りながら走り去っていった。




###



「「は?」」


警備が薄くなっている時間帯。

私とアンリ、ハルは楽園の裏門に集まっていた。


「何?どうしたの?」


アンリとハルはお互いに気づくと同時に顔を顰めた。

何かあったのだろうか?

2人は私が6つの時から世話係をしている為、お互いの事を私以上に知っている筈なのだが、たまにこうやって互いを睨みつける事がある。


「ハイネ、少し時間を貰ってもいいですか?」


「少しだけね。早く行きたいから」


「ありがとうございます」


アンリはそう言って丁寧にお辞儀をすると、ハルの首根っこを掴んで何処かへ行ってしまった。


会話が聞こえなくなる所まで離れて、アンリとハルは同時に口を開いた。


「「何で?」」


奇しくも全く同じ言葉であった。

なぜ相手がこの場にいるのか、その理由を聞いている。

アンリもハルもハイネとの2人旅だとルンルン気分で支度をしたのだが、いざ集まってみれば嫌いな相手、というか1番邪魔な相手がその場にいた訳である。


まあ簡単に言ってしまえば、アンリもハルもハイネと2人旅がしたかったわけだ。

普段の2人ならば、()()が邪魔しに来るというのは想像出来たはずだ。

が、意中の人との逃避行。

2人の思考が鈍るのも無理はなかった。


「何でテメェがいんだよ?お嬢は俺が守るから、楽園(ここ)で1人静かに暮らしてろや」


「お前が四六時中ハイネにいやらしい視線向けてるのに気づいていないとでも?消えろ汚物が」


バチバチと2人の間で火花が散る。

たとえ2人の背景を知らずとも、今にも殺し合いが起きそうな雰囲気である事を感じ取れるだろう。


「今ここで殺してやろうか?黒液族(ハリボテ女)


「実力差が分からない様ですね、吸血族(寄生虫)


今まさに殺し合いが起きる、その寸前。


「遅い!警備厚くなるよ!何してんの!?」


待つのに飽きたハイネが2人の元へとやってきた。

2人の思考はとても単純で、端的に言えばハイネ至上主義であるため、ハイネが少しでも嫌がる様な事をしない。

(2人が良かれと思ってやることが、ハイネにとっては煩わしい事である時もある為、ハイネ至上主義と言っても自己満足の面が強くある)

2人は戦闘態勢を解き、笑顔を浮かべ返事した。


「いや悪いね!お嬢!早く行こうか!」


「時間を取らせてすみません。行きましょうか」


門は閉まっているため、塀を登り楽園の外へと出た。

楽園の外も楽園の中も景色は大して変わらず、ハイネは心の中でこんなものかと少し落胆した。

だかしかし、塀で区切られていない景色というのは新鮮であり何処までも続く世界に心が躍ってもいた。


「アンリとハルって殆ど私と同じ見た目じゃん?だから私、自分が珍しい種族だなんて思ってなかったんだよね」


ハイネは従者2人を連れて、まだ見ぬ世界へと歩き出した。




###



「こちら本部。そちらの状況は?」


「予定通り人間が楽園を出た。計画は順調に進んでいる。何も問題はない」


「了解。本部はこれより計画を第2フェーズへと進める。そちらは引き続き楽園の管理を続けろ」


「御心のままに」




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