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シャーロット・ガーデンウッドの黎明

シャーロット:シャーロット・ガーデンウッド。《SATELLITE》に所属する探偵。


アルベルト:アルベルト・フォトシュタイン。《シェイクハンズドットコム》という便利屋業を営んでいる。


 :本編


 :ユドラ帝国、首都オルドガンクス


シャーロット:「(M)……夜雲やくもの明星。この国は常に、分厚い雲に覆われている。昼も夜もなく、街にはネオンをはじめとした、様々な灯りがともり、賑わいの中には、怪しげな気配がいつも浮かんでいる」


シャーロット:「(M)ユドラ帝国は首都、オルドガンクス。黒々とした鉄と鋼に覆われたこの街は、錆びた罪咎つみとがの香りがする。人々の笑みには影が差し、足取りには迷いが滲む」


シャーロット:「(M)この国は、何かを抱え込んでいる。それは罪であり、あるいは罰である。そして私は、その正体を見極めるために、ここに来た」


シャーロット:「(M)あいにくの土砂降り。数メートル先の視界すら危うげな常夜とこよの街で――」


シャーロット:「(M)私の物語は、その幕を開けたのだ」


シャーロット:「(M)シャーロット・ガーデンウッド。私は――探偵だ」


 :とある路地裏


シャーロット:「はぁ……、はぁ……」


シャーロット:「……思ったより、だいぶしつこかったわね……。まぁ、その必死さこそ、この文書が重大な証拠となることを、物語ってくれているんだけどね……」


シャーロット:「(M)オルドガンクスの裏側を取り仕切る、巨大マフィア《ヴィアンカ一家ファミリー》。この文書は、彼らと国が交わしたとされる、ある密約を示す証拠品」


シャーロット:「長らく鎖国しているはずのユドラが、マフィアというパイプを通じてやりとりしている、密輸品のリスト。しかも取引相手には、世界的に有名な企業や組織の名前が並ぶ……。まさしく、これが公開されようものなら、世界中の経済が丸ごとひっくり返るほどの逸品。……ほんと、我ながら、よく盗み出せたものよね……」


シャーロット:「(M)…‥盗み出す、か。これでは、まるで泥棒だ」


シャーロット:「……ううん。これは闇からの秘密を暴く、正義の執行よ。私は紛れもなく、探偵なんだから。このバッジに誓ったことを思い出して、シャーロット」


シャーロット:「(M)胸元のバッジに、手をかける。大丈夫。私の信念は、揺らがない」


アルベルト:「――ちょっと失礼。お嬢さん」


シャーロット:「っ!」


アルベルト:「おっと。驚かせたのなら謝るよ。ただ、こんな路地裏でぶつぶつと独り言なんて、それも、こんな雨降りの中、傘もささずだからさ。気にするなって方が無理だよ」


シャーロット:「あ……、ごめんなさい……」


アルベルト:「いや、こちらこそ。ただの浮浪者なら声なんてかけないんだけど、君のその格好、とてもじゃないけど生活に困ってるって感じでもないからさ。それとも、今日、すべてを失った新参者なのかい?」


シャーロット:「いえ……、あの、失礼ですが、あなたは?」


アルベルト:「人に名前を聞くときは、まず自分から、って習わなかった? ま、でも話しかけたのは僕の方だし、ここは僕から名乗るのが礼儀かな」


アルベルト:「僕はアルベルト。姓はフォトシュタイン。一応、この街で便利屋業をやってる。《シェイクハンズドットコム》って言うんだけど、知ってる?」


シャーロット:「シェイクハンズ……。あ……」


シャーロット:「(M)聞いたことがある。オルドガンクスに看板を構える、小さな会社でありながら、その仕事内容は、規模問わず多岐にわたると。まさに便利屋業。聞くところによれば、迷子の猫探しから浮気調査、果ては国同士の戦争の調停まで行ったことがあるとか……」


アルベルト:「その反応、どうやらまったく知らないってわけでもなさそうだね。僕は、そこの社長をやってる。名刺もあるけど、いる?」


シャーロット:「あ、それなら、一応……」


アルベルト:「おっけー。ちょっと待ってね……。はい」


シャーロット:「ありがとう……」


アルベルト:「それじゃあ、次は君の番。名前を聞いても?」


シャーロット:「もちろん。――私は、シャーロット・ガーデンウッド。探偵をしています」


アルベルト:「へぇ。探偵さん。あ、なるほど。その胸元のバッジ、見たことあるよ。君、《SATELLITE(サテライト)》の探偵か」


シャーロット:「ご存知でしたか」


アルベルト:「知らないやつを探す方が難しいんじゃない? 《SATELLITE》といえば、世界的にも有名な調査機関だ。世界一の規模を誇る探偵社。僕も、仕事の関係で何度かお世話になったことがあるよ」


シャーロット:「そうでしたか。……でも、そんな方が、ここで何を?」


アルベルト:「そっくりそのまま返したいけどね。ま、仕事だよ。頼まれれば、大抵どこの国でも行くけどね、基本的には、この街が活動領域だからさ。今も、せっせと依頼を遂行中ってわけ」


シャーロット:「それは、申し訳ありません……! 邪魔をしてしまったようで……、ご心配をおかけしました……!」


アルベルト:「いやいや、無事ならそれで何よりだからさ。じゃあ、また交代。君こそ、こんなところで何を?」


シャーロット:「私も、仕事です。とはいえ、詳しくはお話しできないのですが……」


アルベルト:「その、大事そうに抱えてる封筒に、答えがあるのかな。ま、当然問い詰めるつもりもないけどさ。しかし、《SATELLITE》の探偵さんってことは、ただならぬ用件なんだろう? いいのかい? 誤魔化す手段なら、いくらでもあったはずだけど」


シャーロット:「これでも、人を見る目はある方です。それに、お手間をかけさせてしまいましたから、お詫びを兼ねて、嘘はつきたくなかったので」


アルベルト:「へぇ、そりゃ、律儀なことで。でも、手間をかけさせたというなら、僕の方こそ、君の仕事の邪魔をしちゃったんじゃないかい? さっきも言ったけど、こんな路地裏で、傘もささずに一人ぼっち。少なくとも、暇を持て余すには、最適とは言えない」


シャーロット:「確かに。ですが、今はこうして、あなたが傘の半分を、私にかけてくれていますから。それに、仕事自体はもう終わったも同然なんです。あとは、これを本社に届けるだけですから」


アルベルト:「なるほど。……それじゃあ、こんなところで立ち話もなんだからさ、うちの事務所来る? 温かいコーヒーくらいならご馳走できるけど」


シャーロット:「いいんですか?」


アルベルト:「このまま傘を貸して、君を見送るのが、本来最適解なんだろうけどね、時間も時間だし、それだと少し、僕の据わりが良くない。むしろ、付き合ってくれると助かる」


シャーロット:「……では、お言葉に甘えます。ありがとう」


アルベルト:「どういたしまして。それじゃ、行こうか」


 :場面転換


 :《シェイクハンズドットコム》事務所


シャーロット:「(M)路地裏から大通りの方へと出て、商店が並ぶ一角の、少し奥まったところを進んだ先――そこに、《シェイクハンズドットコム》の事務所はあった」


アルベルト:「少し散らかってるけど、まあ、ご愛嬌ってことで。そこのソファに座って待っててくれる?」


シャーロット:「はい。お邪魔します……」


シャーロット:「(M)たしかに、少し雑然としてはいるが、綺麗なオフィスだ。雰囲気がある、というか、この雑多な感じは、嫌いじゃない」


シャーロット:「というより、ちょっと親近感というか……」


アルベルト:「ん? 何か言った?」


シャーロット:「あ、いえ。素敵なオフィスですね」


アルベルト:「そう? まあ、世界各地に飛び回るからさ、そこの土産品とか色々持って帰ってたら、こうやかましくもなるよね。あ、そのテーブルに置いてるお菓子、食べていいよ。イェドグルのお土産なんだ」


シャーロット:「ありがとうございます。イェドグルの……。お饅頭ですか。いただきます」


アルベルト:「はい、お待ちどう。温かいコーヒーといっても、インスタントだけど。味は悪くないと思うよ。僕のお気に入りなんだ」


シャーロット:「へぇ……。あ、確かに、香りがいいですね」


アルベルト:「お、わかる? おすすめはブラックだけど、ミルクも砂糖もあるから、遠慮なく言って」


シャーロット:「せっかくですから、ブラックでいただきます。……うん、美味しい」


アルベルト:「そりゃあ良かった。何せ、うちの社員ってばみんな甘党でさ。やれ砂糖もミルクも過剰にぶち込むものだから、もういろいろと台無しでもったいなくて」


シャーロット:「コーヒー、飲めない人は全然飲めませんからね。うちの先輩にもいます」


アルベルト:「コーヒー仲間が出来たみたいで嬉しいよ。あ、テレビつけてもいい?」


シャーロット:「ええ。もちろん」


シャーロット:「(M)ちょうどいい。ニュースでも流してくれれば、少しは街の動きがわかるかもしれない」


アルベルト:「それじゃあ適当にチャンネルでも回して……、っと。これにするか。討論番組。後ろで流す賑やかしとしてはちょうどいい。シャーロットさんも、これでいいかな?」


シャーロット:「ええ。こういうのって、ぼーっとしながら聴くのが一番いいですよね」


アルベルト:「そうそう。文句冷やかし糾弾煽り。テレビで流す討論なんて、エンターテイメントのひとつだよ。真面目に聞いてたら疲れるだけさ」


シャーロット:「(M)ニュースが確認できないのは残念だけど、こればかりは仕方がない。それに、興味のない議題、というわけでもなかった」


アルベルト:「お、《EX(イーエックス).TECHNO(テクノ)》の。たしか、開発部の主任だったかな」


シャーロット:「お知り合いですか?」


シャーロット:「(M)《EX.TECHNO》といえば、世界でも有数の巨大研究機関だ。主に理学・工学分野の研究に強く、最近だと、無人での長時間活動を目的とした、AI搭載型の新型ロボットを発表していたはず」


アルベルト:「いや、ちょっと前に雑誌のインタビュー記事で見たなって。すごいよね。齢十六で開発部の主任だってさ。まさしく才能の持ち主ってやつだ」


シャーロット:「(M)画面には、たしかにまだ顔立ちの幼い、白衣を纏った女の子が映っている。しかし、その言葉遣いは毅然としていて、周りの大人から浴びせられる冷笑や皮肉に、真っ向から立ち向かっていた」


アルベルト:「たくましいねぇ。いや、この逞しさこそ、主任という役職をやり通せていることの裏打ちなのかな。歳下が上の立場に就くことを、快く思わない人間は多いだろうしね」


シャーロット:「……立派ですね」


アルベルト:「あぁ。できれば、このまま腐らずにいてほしいものだよ。彼女のおかげで、《EX.TECHNO》の研究は飛躍的に進歩した。このユドラにおいては、その恩恵は計り知れないほどだ」


シャーロット:「(M)たしかに。ここ数年で、ユドラの経済的な発展には目を見張るものがあった。その裏には――いや。表立ったものでも、《EX.TECHNO》の最新の研究成果を取り入れたものは数多い。もはや、ユドラの経済は、《EX.TECHNO》がその一翼を担ってると言っても過言じゃない。その中にあって、下手に内部分裂でもされようものなら、とばっちりを受けるのはユドラの方だろう」


アルベルト:「醜い争いは、醜い結末しか生まない。足の引っ張り合いじゃなく、健全なライバル関係として、お互いを高め合ってほしいよね」


シャーロット:「……でも、嫉妬というのは、届かないからこそ生まれる感情です。伸ばした手の先が、相手の足元までしか届かないというのなら――這い上がるよりも、引っ張り落とした方が早い」


アルベルト:「……それは、経験談かな?」


シャーロット:「いえ……。昔、似たようなことを言われたんです……」


アルベルト:「なるほど。君が、嫉妬される側だったわけだ」


シャーロット:「…………」


アルベルト:「優秀なんだね」


シャーロット:「そんなこと……」


アルベルト:「でも、そうじゃなきゃ――国がひっくり返るほどの機密文書を盗み出すなんて大仕事、任されるはずがない」


シャーロット:「えっ……」


アルベルト:「――シャーロット・ガーデンウッド。君を見込んで、頼みがある」


 :間


シャーロット:「(M)雨足が、どんどん強くなっていく。窓を叩きつける音が、いやに大きく聞こえて――だから、最初、聞き間違えだと思った。でも、それは順番が逆だったのだ。正確に聞こえたからこそ、私の耳は、すべての音を聞き漏らさないために、注意を傾けたんだ」


シャーロット:「(M)その、あまりに突拍子もない言葉の真意を、聞き逃さないために」


 :間


アルベルト:「……騙すような真似をして、悪いとは思ってる」


シャーロット:「(M)沈黙。今の私にできることは、それだけだった」


アルベルト:「でも、安心してほしい。僕は君の敵じゃない。むしろ、協力を申し出たいんだ」


シャーロット:「(M)のどが、かわく。今さっきまで飲んでいたはずのコーヒーの味は、もう忘れてしまった」


アルベルト:「君が盗み出したあの文書。あれは、僕もある筋から回収を頼まれていたものでね。でも、繰り返すようだけど、君からどうこうして奪おうって気はない。最終目的は破棄だったから、それに近しい結果になるならと、依頼主は奪還を望まなかった」


シャーロット:「……《SATELLITE》は文書の公開を目的としています。破棄とは異なるのでは?」


アルベルト:「近しい結果って言ったでしょ。公開されるならそれでいいんだ。ただ、秘密裏にされていたことが問題だから」


シャーロット:「……しかし、破棄もまた、隠蔽と同様の所業では? なぜ、あなたの依頼主は、公開することを選ばなかったんです?」


アルベルト:「守秘義務、を適用するには、少し対象が弱いか。それくらいは教えてもいいでしょ。とはいえ、少しぼかしはするけどね」


アルベルト:「――公開することで、自身に危険が及ぶからさ。どころか、やり方を間違えれば、公開できたとしても即座にルートを断たれる。つまり、自分の存在ごとまとめて隠蔽される」


シャーロット:「……ということは、あなたの依頼主は、この文書の在処に近しい人物……」


アルベルト:「おっと。推理は禁止だよ。ただ今は、僕の話を聞いてほしい。――つまり、破棄することで、いやがおうにも騒ぎを大きくしようとしたのさ。その文書は契約の証明書。いわば割符の役割も果たしてる。それを失くしたとなれば、相手からの信用はガタ落ち。契約は水の泡と化す。そうなれば、色んなところで綻びが出始め、やがて隠し切れないほどのひずみが発生する。そこまでくれば、隠し立てはできない。勘のいいやつから真相に気づき、それは市民へと伝播していく」


シャーロット:「そうして作られた巨大な疑惑の目は、奴らを逃さない」


アルベルト:「そういうこと。――さて、シャーロット・ガーデンウッド。そんなわけで、僕が君に提案したいのは――」


アルベルト:「その文書の、完全な公開に向けた、逃走の手伝い。君が、《SATELLITE》本社に着くまでの、いわば護衛だ。加えて、その文書が無事公開された時の、信憑性の保証だ」


シャーロット:「信憑性……?」


アルベルト:「そう。驚くと思うんだけど、その取引先の中には、僕たち《シェイクハンズドットコム》の名前もある」


シャーロット:「え……、えぇっ?!」


アルベルト:「いい反応をありがとう。さっき、それは割符の役割も果たしてるって言ったでしょ? その片方を、僕は持ってるってこと。それを併せて公開すれば、一気に信憑性は高まる」


シャーロット:「ちょ……、ちょっと待ってください……! 急なことで、まだ状況が……! なぜ、こんな……、裏切るようなことを……」


アルベルト:「《シェイクハンズドットコム》は、ありがたいことに、今や世界中に認知されてる有名企業になった。そんな僕たちに、お偉いさんがたが目をつけないはずがない。通常の依頼とは異なる、いわば裏ルートを開設、利用する形で、僕たちも闇取引に加担するようになったのさ。理由としては、金払いがよかったから。まあ、調子に乗っちゃってたんだよねぇ」


シャーロット:「……つまり、反省したと……?」


アルベルト:「そういうことになるかな。ま、僕たち現金な商売やらせてもらってるから。今回の依頼主が、ぶっ飛んだ額を前払いでくれたものだからさ、それで、裏切る決心がついたってのもあるかな」


シャーロット:「…………」


シャーロット:「《M》それは……、反省とは丸っ切り違うのでは……。その言葉は、ぐっと呑みこんだ。そんなことを、いちいち突っ込んでいる場合じゃない」


シャーロット:「……ここまでの話を聞いて、あなたのことを信用しろと?」


アルベルト:「人を見る目はあるんじゃなかったっけ?」


シャーロット:「たった今、その自信は砕け散りました。私の落ち度です……」


アルベルト:「安心してよ。君の目利きは確かだ。僕は味方だよ」


シャーロット:「何も安心できません!」


アルベルト:「えぇ〜……。じゃあ、どうしようかな……」


シャーロット:「(M)討論番組は、いつの間にか佳境を迎えていた。各々が、まるで他者の話になど興味がないかのように、好き勝手に話し始めている。その中でも、例の少女だけは、静かに、厳かに、佇んでいた」


シャーロット:「……フォトシュタインさん」


アルベルト:「アルベルトでいいよ。何かいい案でも思いついたかい?」


シャーロット:「(M)まるで、そうなることを待っていたかのような口ぶりだった」


シャーロット:「……あなたのことを、まず本社に伝えます。それから、潔白が確認でき次第、同行を認めます」


アルベルト:「いいね。冷静だ。ただ、あいにくだけど、そんな時間はないと思うよ」


シャーロット:「え……?」


アルベルト:「たぶん、事務所の前に、君の追っ手が来てる」


シャーロット:「――っ?!」


シャーロット:「(M)嵌められた?! いや、だとしたらこのタイミングで知らせた意味がわからない……!」


アルベルト:「……ちょうどいいな」


シャーロット:「何が……」


アルベルト:「身の潔白だよ。それを今から、証明する」


シャーロット:「(M)そう言って、アルベルトさんは私の手を取り、いきなり走り出した」


シャーロット:「え……、えっ?!」


アルベルト:「まずはあいつらを撒く! それからオルドガンクスを出よう! もし、どれだけ逃げても追いつかれて、最終的に捕まってしまった時は――まあ、僕は君の敵だったってことで、諦めてくれ」


シャーロット:「えぇっ?!」


シャーロット:「(M)アルベルトさんに引っ張られて、裏口から飛び出す」


シャーロット:「(M)雨はいっそう、その勢いを増し、飛び跳ねる水飛沫は、火照った体を冷ましては、まとわりついてきて身を重くさせる」


シャーロット:「(M)けれど、繋がれた手が、離れることは決してなく」


シャーロット:「(M)……夜雲の明星。この国は常に、分厚い雲に覆われている。昼も夜もなく、街にはネオンをはじめとした、様々な灯りがともり、賑わいの中には、怪しげな気配がいつも浮かんでいる」


シャーロット:「(M)ユドラ帝国。この国は、何かを抱え込んでいる。それは罪であり、あるいは罰である。そして私は、その正体を見極めるために、ここに来た」


シャーロット:「(M)そして、私は答えを掴んだ」


シャーロット:「(M)ネオンの光が、その鈍く浮かぶ瞬きが、あっという間に後ろに流れていく」


シャーロット:「(M)アルベルト・フォトシュタイン。彼が、何を考えているのか――その真意は分からない。ただ――」


シャーロット:「(M)ただ、ひとつ。わかっていることは――それは、始まりだということ」


シャーロット:「(M)夜雲の明星。ユドラ帝国、首都、オルドガンクス。薄暗がりとネオンに浮かぶ、憂いを映したような、この常夜の街で――」


シャーロット:「(M)私と、彼は出逢った」


シャーロット:「(M)そうして、私の物語は。その幕を開けたのだ」


 続

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