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11.害虫のみならず、星の色彩豊かな花々ごと根こそぎ奪う

リールが紳士スライムの命を救う一方、クロスは見境なく命を奪っていた。

どうやら襲い掛かる者全員を(ことごと)く敵とみなしているようだ。

老若男女や種族を問わず、彼女は何一つ動揺せずに淡々と処理している。

洗脳されている影響で人々は悲鳴をあげていないが、それでも内心では苦痛と死の恐怖に苛まれているはずだ。


いくら向かって来るとは言え、これら群衆は刺客に強制されているだけの被害者だ。

それを考えたらクロスは群衆を傷つけないよう戦闘を回避するか、せめて躊躇(ちゅうちょ)するべきだろう。

その他にも彼女自身に社会性ある価値観が僅かでも備わっていれば、命を不必要に奪うのは下劣で愚行だと分かることだ。


しかし、それらの倫理観はクロスに通用しない。

なぜなら彼女は常軌を(いっ)した生粋(きっすい)の殺戮者であり、眼前の相手に興味を持つ事すら(まれ)な話だ。

だから一方的に蹂躙する状況が続き、想像から掛け離れた展開に対して刺客達は焦燥感を抱き始めていた。


『あの女、美しい見た目に反してマジで怪物だな。あれだけ容赦なく暴れ回るなら出し惜しみをやめるのが得策だ。せっかくの戦力が削がれる』


『あぁ。まだ手駒がある内に(たた)み掛けるぞ。全兵器、全マジックアイテム、俺達の能力と技術を投入だ』


敵は身を潜めつつ、アンティーク模様のトランクケースから青色のオーブを取り出して上に高く掲げた。

するとオーブは青光りして、その直後に洗脳されていた生物達は1匹残らず凶暴な怪物へ変貌を遂げていった。

その姿は尊厳を奪うように醜悪で、原型が失われた変化だ。

同じくして周囲の無機物も変形した上に敵意を持ち、クロスに襲い掛かり始めてしまう。

ひたすら悪化し、混沌が増し続ける状況。

そんな地獄絵図の中、1人で戦う彼女は楽し気に微笑んだ。


「ックフフ、熱狂的なファンばかりですね。これほど一斉に注目を浴びると、国民的アイドルみたいで少し浮かれます」


数多の敵達は苛烈な攻撃手段で危害を加えようとするものの、クロスは余裕を失いかける気配が無かった。

それどころか彼女は気品ある立ち回りを保ち、尚且(なおか)つたった一振りで大量の敵を両断してみせた。

この驚異的な有り様を目撃すれば誰もが力量を実感する所だが、刺客の算段は他にもある。


『恐いもの知らずなのも納得の実力だ。だが、まだだ』


クロスに襲い掛かる物体は、破壊された途端に殺傷能力が高い爆発物として炸裂する上、再生や合体を繰り返すなど万物の制限から解放されていた。

加えて大地などの自然物が意思を持って攻撃してくるのみならず、クロスの周囲に流れる大気すら有毒物質へ変質してダメージを負わせようとしてくる。

まさに森羅万象の全てが彼女の敵だ。

無差別の変化が絶えず続くせいで景観は悪夢そのものへ変わり果て、気が付けば星全体が彼女を抹殺しているように見える。


「絶え間なく自在に変性させるのは神々の力に匹敵しますね。しかし、この程度では私に(かす)り傷を負わせる事すら……いえ、やる気を出させるレベルにも到底及びませんよ」


クロスはあらゆる脅威に囲まれている事を気に掛けず、悠々と片足を大きく上げた。

隙が大きい動作だが、それだけに大きな意味があるように思えて敵は警戒を強要された。


『なんだ?ターゲットの動きが急にのんびり……』


敵が通信で逐一(ちくいち)状況報告しているとき、クロスは小さな笑みをこぼした後に強力無比の震脚を地面へ打ち込んだ。

一見すると有効な反撃手段では無い。

だが、彼女の震脚は身が(すく)むほどの爆発音を鳴り響かせ、大地には巨大なクレーターが出来ると共に惑星が激しく震え上がった。


『はっ?おいっ……!』


単なる呼びかけに聞こえるが、実際は本能的に終焉を察知したことによる(おび)えた悲鳴だった。

クロスの震脚には強烈な衝撃波が(ともな)っていた。

しかも衝撃波は怒涛の勢いを保ちながら辺り一帯を通過していき、彼女を取り囲んでいたモノは(またた)く間に崩壊しながら吹き飛ばされていく。

粉々になって散るモノが大半であるため、巨大隕石が直撃したと錯覚させる威力だ。


その破滅的な現象は彼女を中心に広範囲へ渡り、クレーターより外側の地面は陥没と隆起(りゅうき)、そして断崖絶壁と見間違える地割れが起きていた。

破損した水道管から噴出する水も、至るところに出来上がった奈落へ虚しく吸い込まれていくのみだ。

よって跡に残るのは地響きと烈風くらいであって、あの楽しかった動物園は夢のように跡形も無く消えてしまった。

この惨状自体はクロスの予想通りだ。

だが、何もかも思い通りかと言えば少しだけ想像とは異なっていたようだ。


「うーん、打ち所が悪かったら星が爆発していたかもしれませんね。力加減が下手なのは我ながら呆れるところです」


威力が高すぎるあまり、ほとんどの物質は耐え切れず砂化している。

つまり惑星の大部分は砂漠化しており、刺客が仕掛けたマジックアイテムの効力も吹き飛んでしまっていた。

まさしく終焉を迎えかけている星にて、クロスは宇宙圏にも届く超広範囲の生命探知を(おこな)った。


「反省するより先に、色々とスッキリさせておかないといけませんね。私は掃除するとき、塵一つ残さず抹消したい性格ですから」


それから彼女が実行する行為は残党狩りか、後始末か、単なる弱い者イジメなのか。

どの言葉にも当てはまる行動で、まだ息があった敵の所へ瞬間転移するなり容赦なく斬り伏せた。

どこの手先なのか分かりきっているため、確認の問答や反応の間すら与えず皆殺しにする。

そこに慈悲は無く、他者に対する興味も一切ない。

こうしてクロスは敵だけに限らず、惑星上に存在するモノを破壊し尽くしてしまうのだった。

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