6.惑星動物園へようこそ!でも、入園前に自由気ままにイチャイチャする
銀髪女性クロスと金髪幼女リールが旅行すると決めた翌日のこと。
早速この2人は行動を起こし、資源が豊富な大自然の惑星へ降り立っていた。
そこは様々な種族と触れ合えることが最大の魅力だとテレビ番組で紹介された観光名所であって、簡単に言えば惑星規模の動物園だ。
何もかもが目新しく感じられる好奇心旺盛なリールからすれば、素晴らしい体験と発見を得られる理想的なテーマパークだろう。
また番組リポーターの紹介を見た影響で旅行に対する期待が増したらしく、前日からリールの元気は溢れていてテンションが上がる一方だった。
「みてみてクロス~!入り口にぬっちょりした生き物がいるよ~!」
すっかり舞い上がったリールは楽しむことしか考えられず、入園前に大きなスライムへ突撃する。
その様子を見ていたクロスは少し驚き、注意を呼び掛けた。
「リール。その方は私達と同じ観光客ですよ」
「えぇっ、そぉーだったの!?ごめんなさい!」
焦るリールは自分の非を心から詫び、衝突してしまったスライムに頭を下げる。
すると相手は素晴らしく心地いい低音男性ボイスで笑ってくれて、むしろリールがケガしてないか気遣ってくれた。
それから相手は紳士的な対応を済ませた後、体を緩やかにプルプルと震わせながらゲートを通って行った。
その入園する一連の行動は他のお客と変わりない以上、心優しいスライムが観光客だったのは明白だ。
だが、どれだけ知性を感じさせる相手だったとしても、一目では放牧された動物なのか判断しきれないことが大変だ。
「んぇへへ~。リールね、うっかり間違えちゃった」
リールは大したことない失敗を誤魔化すように笑いつつ、小走りして戻って来る。
「子どもの失敗だから許されましたね。それと私達も見世物だと勘違いされる場合がありえますから気を付けて下さい」
「勘違いされたらどうなるの?」
「ックフフ。貴女の可愛らしさに惹かれてお菓子をくれるかもしれませんね」
「え~!?それじゃあリールね、みんなの見世物になるよ!それでお菓子をい~っぱい貰って、お腹ポンポンにするぅ~」
「甘菓子ばかり食べると虫歯になりますよ」
クロスは子ども向けの注意で返した。
そんな何気ない言葉に対してリールはグッと背伸びして、大きく口を開けながら歯並びを見せつける。
「大丈夫!見へ。ひぃるの歯はね、とっても綺麗だほ。いっーだ!」
「何を言っているのかサッパリ分かりませんが、子どもらしい歯ですね。あら、八重歯?」
「ふぅ。ねぇねぇ、クロスの歯も見せてよ!今ここでリールが特別にチェックしてあげる!リールは超高名な歯医者さんだからね!」
相変わらず何らかのドラマから影響を受けてしまっているようで、リールは強引にクロスの口周りに触れて開けさせようとする。
もし素直に歯を見せるとしても、顔をベタベタと触れられるのは誰にとっても好ましくない行為だ。
それなのにクロスは不快な雰囲気を醸し出さず、リールが覗きやすいように屈みながら口を開けた。
「あーん。はい、どうですか」
「あー……これは重症ですねー。今すぐ集中治療室で大しゅじゅちゅしないといけません」
この言葉を聞いた途端、まだ遊びが長引くと察したクロスはすぐに自然な姿勢へ正した。
「こほん。さすがの私でも緊急手術は気が引けますね。こちらの心の準備が整った後にお願いしてよろしいですか?」
「そんなに怖がらなくても大丈夫!歯を全部改造するか、リールとベロチュウするかのどっちかだから!」
「患者側が経過観察を申し出たくなるくらい凄絶な2択ですね」
「そうなの?悪いなら大しゅじゅちゅ、好きな人同士ならベロチュウして愛情パワーで呪いを解くって『宇宙外科医は心に価値をつける』で見たよ?」
「リールはどんなジャンルも見ますし、何でも鵜呑みにしますね。この世界ではフィクションだと言い切れないので分別は難しいですが……、ひとまず一般的な診察方法に改めて欲しいところです」
「うぅん?あまり難しいことを言わないで~。とにかく早く行こう~。リールね、みんなからオヤツを貰いたいの~」
結局リールは自分に都合が良い勘違いをしたままだ。
だが、実際こうして自宅で出来る会話で立ち止まっているのは時間が勿体ない。
クロスはそのように考え、率先してリールの手を握った。
「私が園内でオヤツを買ってあげますよ。リールはどんなオヤツが好きですか?」
「甘いの!『宇宙料理人のオーガニックマスター』で作られた添加物原材料偽造ケーキみたいなのね!クロスは?」
「私は喉が詰まるほどブヨブヨした物で無ければ何でも好んで食べますよ。味より食感が大事でしょうか。味については刺激的であれば何でも嬉しいですね」
「そうなんだ~。そういえば、この前のほっけーきにラズベリーハニーチョコレートホイップクリームでフルーツも山盛りにしていたもんね」
「ックフフ、自慢の我流トッピングです。数種類のシロップを絶妙なバランス量で掛け合わせ、黄金比率が織りなすハーモニーは壮大な宇宙を想起させますよ。甘すぎる匂いが気になりますが、癖あるモノほど美味しいというのが私の持論です」
「うん、どうでも良いかな。クロス早く行こう~」
リールは自分の心に正直すぎるあまり、興味が無い言い回しにはあっさりと流してクロスの手を引っ張った。
そうして彼女が連れられて歩く様は年齢が離れた姉妹のようであり、仲良い家族が動物園へ入場しているのだと周りは思っていた。