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21.物心がついた頃の記憶

昼食の(さかな)としてリールが語ってくれた身の上話は、クロスの想定通り内容が曖昧で不確定要素が多い情報のオンパレードになっていた。

物心が付いた頃から天涯孤独なせいで、親族や友人関係は不明。

文明が皆無に等しい環境だったから、生まれ育った場所の詳細が不明。

ずっと一人ぼっちで流星群を見ていた事実だけがあって、少女がどうしてそこに居たのか不明。

具体的に何をして、何年どのように生きていたのか不明。

一応、「あぁ、この子は自分のことを何も知らないのか」とクロスが察せる程度にチグハグながら語ってくれたとは言える。


そんな優しさを感じさせない感想が真っ先に思い浮かぶほど、当時のリールは赤ん坊より無知(むち)蒙昧(もうまい)だ。

これに(ともな)って少女が証言した内容の真偽性は怪しく、根底が簡単に引っくり返りそうなくらい不明瞭かつ絵空事に等しい話になってしまっている。

何であれ、クロスからすれば話半分に聞き入れるのが無難であり、本人がそう思うならその通りなのだろうの認識で留める他ない。

そもそも意気揚々と語る少女にリールという名前を授けたのは、出会って間もないクロスだ。

その事実も相まってクロスは少し寂し気に呟いた。


「リールには付き添ってくれる存在が居なかったのですね」


「んー、気にしたこと無いや。前に住んでいた所とか、さっき話したもっと前に住んでいた時も不安は無かったから。むしろ楽しかったかな。もちろん、クロスと一緒に過ごしている今の方がワクワクが大きくて、前と同じ生活に戻ったら寂しくなっちゃうとは思うけど」


「ワクワクできるよう話し合って、すぐ実行に移していますからね。それよりせっかくの機会ですから、少し話をまとめても良いですか?整理したいです」


「わぁ、クロスってマジメ~」


「案外、これは大事なことですよ。他に人にリールのことを訊かれた際、私とリールの間に認識の差異があると不審でしょう?」


子ども騙しの建前だ。

不審に思われたところでクロスが気にかける訳が無いし、リールの想像が及ぶ状況では無い。

彼女の狙いは発言内容が二転三転しないか確認するためだ。

一から十まで妄想だとは言わないが、もし思いつきが含まれていたらリールは意味も無く部分的に設定を変える。

だが、少女はクロスよりも生真面目だから真に受けて不思議そうにした。


「変に思われるかな~?」


「そういうものです。こほん。まずリールは物心が付いたとき、青々とした草原に建つお城に住んでいたのですね」


「うん、多分お城。ピッカピカで、キレイで大きかった。何回思い出しても、住んでいたのはやっぱりリール1人だけど。それで、いつも黒い空にはキラキラな星がずっと降ってたよ」


「様々な色へ変化する流星群ですね。降り続けるのは妙ですから、その惑星特有の神秘現象……または魔力の類でしょうか。正確性を追及できる部分ではありあせんし、ひとまず流星という解釈に括りましょう」


景色が良くて穏やかな場所にお城が建っていて、今よりも幼く無知のリールが1人暮らし。

この時点で整合性が怪しく、まるで昨日見た夢の内容を語られている感覚に陥りかけた。

もしも夢の話じゃなければ、これまで触れてきた童話の模倣……つまり空想だ。


リールがドラマなどを熱中して見るから無意識に影響され、そのような記憶が捏造されていても驚きはしない。

例えば作中の登場人物を自分に置き換えて体験するのは、ごく自然な発想で夢中になれる遊びだ。

他で言い換えれば前世の記憶が蘇ったとか、生まれつき二重人格だとか、本人にとっては大切な真実でも突飛も無いことも同様だろう。

クロスはその考えがチラついて現実味が薄いことばかり気にしてしまうが、とにかく少女の発言を疑わずに情報整理を続けた。


「それから1人の男性がお城へ放浪して来て、リールに色々なことを教えてくれたのですね」


「うん。ただリールね、そのお兄さんの言っていることが難しくて分からなかった。だからね、結局は動画を見せて説明してくれたよ。それも理解するのが難しかったけど、おかげで色々な事があるんだーって気づけたかな」


「ある意味、そこから探究心が芽生えると同時にテレビ好きになるきっかけ(・・・・)を得たのでしょう」


「わっ、言われてみればそんな気がするかも!でも……最初に見たのは、なぜかご飯を食べる映像だったような……?」


「不思議な話です。その後は放浪者と別れて、またしばらく独りで過ごした後、あのオイル臭く(いか)つい人達に拾われた訳ですね」


その厳つい人達とやらについて、クロスも面識があるような声調で語るのには理由がある。

なぜならば、その集団こそがクロスとリールを引き合わせた最大の要因だ。

組織からの依頼で始末へ出向いたとき、厳つい人達との戦闘中にリールが現れ、少女の圧倒的な能力に驚かされたことを彼女は鮮明に思い出せる。

クロスは当時の一連の出来事をふと思い返し、面白おかしそうに笑った。


「ックフフフ。こちらの方が不思議な話ですね。平凡な依頼が私を新しい運命へ導き、長く続いていた日々を一新させたのですから」


「そう聞くとクロスが羨ましいな~。何て言うんだろ。うーんとね……テレビ番組みたいな生き方……とは違うような」


「ドラマティックと言いたのでしょう」


「そうそう、それ!ドラマみたい!リールにもドラマが起きたら良いのに。楽しそうだし、そういうお話をリールもしたい!」


「中々に抽象的な願望ですね。ただわざわざ望まなくても、生きていれば多くの出会いが巡ってドラマを体験しますよ」


「そういうものなの?」


「そういうものです。では、参考程度に私のドラマをもう少し話してあげましょうか。それもリールに(なら)って物心が付いた頃の話から。如何(いかが)ですか?」


クロスは演者を彷彿(ほうふつ)させるように、軽いウインクをしながら愉快気に訊いた。

するとリールは余程(よほど)興味津々だったのか、前のめりになる勢いで言い返した。


「聞きたい!聞かせて!クロスのことだから、すっごいカッコ良くてモテモテだったんでしょ!?」


「おや。残念ながら今のイメージとは正反対なので失望させてしまうかもしれませんね。なにせ実のところ、小さい頃は内向的な上に極度の引っ込み思案でして。よく恥ずかしがり屋だと思われていました」


クロスは自身の幼少期について語った。

それは事前に話す順序を組み立てていたと思えるくらいに、民話のようにスッと内容が頭に入ってくる話し方だ。

また、クロスが少女に倣ったのは楽しそうに語るという側面も含まれており、ときには感慨深く、ときには笑顔をこぼして声色を明るくした。

本物の家族らしく食卓を囲み、お互いの過去を深く知れば長年一緒に暮らしていた感覚を得られる。

特にクロスは過去を赤裸々に告白することに躊躇(ちゅうちょ)しない。

そのおかげで今まで欠片も見えなかった一面を知れたのは、リールにとって衝撃と新鮮さがあった。


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