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第2話 ダークマター密集宙域

 人類の人知れぬ挑戦が始まった。

 といっても、実際の作業は指示を出せばAIがすべて代行してくれる。

 わたしは、緊急事態に備えておくだけだ。

 やることといえば、掛御心地の良いチェアに身を沈め、のんびりとくつろぎながらいつもの日課をこなしてゆくのみ。

 本は中ごろまで読み進んでいた。

 典型的な、行きて帰りしの古い冒険物語だ。

 脳は奥底では適度な繰り返しの刺激が自身に良いだろう事を知っている。

 あとは意識がそれを実行できるかどうかなのだ。

 飛び飛びに読んでしまったり、内容がきちんと入ってこなかったり。

 麻薬入りコーヒーはやめて麻薬入り紅茶、ダージリンを喫す。

 緊張は残しつつも、程よい居住まいに自分を置く。

 アリスが聞いてくる。

「それは趣味なの?」

 本に目を落としながら、考える。

「そうでもあるし、そうでもないかな」

「あたしにとっては仕事に見えるな~境界はあいまいにみえるけど、仕事と言った方が、張り合いがあるし、やる気が出る!みたいな」

「そうだね。”仕事は、社会的な存在意義や幸せを探求する手段であり、趣味は、個人的な存在意義や幸せを探求する手段といっていい。”でもわたしはこうも思っている。仕事は価値観を見出す手段、趣味は関心を見出す手段、ってね。どちらも自分の人生において重要な役割を果すけど、どちらか一方だけでは不十分。仕事だけでは自分の心が満たされないし、趣味だけでは社会から孤立してしまう。けれども仕事でも趣味みたいに満足できる内容もあるし、趣味でも社会的につながれる今となっては、言い方はアバウトでいいかもしれないね。もうひとつの見解も含めれば、より両方は歩み寄りを深め入る」

「人間は意味を見出しているんだね」

 アリスはあたしは違うよ、と言っているような気もした。

「結果が出たよ」

 取得した情報はノイズだらけだった。

 いや、ノイズと認識しているだけかもしれない。

 暗号分析にかけてみた。

 結果は、頻度からもアルゴリズムからも期待できそうな成果はなし。

 ふう、といったん落ち着ける。

 すぐに成果が出るとは思っていない。

 それにしても、この広大無辺な宇宙のように、つかみどころのない作業のように思えた。

「空っぽの方が満ちているみたい」

 麻薬入り紅茶の効果だろうか。

 それとも、ランダム刺激がアイデアを生み出したか。

「アリス、捨て去ったデータはまだ残してある?」

「今削除しようとしていたところ〜」

「待って、ストップ、ストップ。えーと、あのね……それらを新しいほうから捨て去った順に、暗号分析をかけてみて」

 文句を一切言わずアリスは実行する。

 最初それは、意味のない羅列に見えたが、そうではなかった。 

 マクロのようでミクロな見晴らし。

 世界の裏返り。

 それでもかなり意訳しないと意味は取りづらかったが、それでも頑張って、おおよそこうだ。

 ”穴の中は今日もあいもかわらず”

 この存在はわたしたちとは異なるロジックで動いている。

 まだ人類の知らない知的生命体に、知れずワクワクが止まらず、心がときめいていた。

 ここにあるのは、本来あるものから外れた残滓だ。

 理由はわからないが、ダークマターが媒介の役目を果たした。

 それでも、その本来というものに、心当たりがあった。

 わたしはすぐに連絡を取った。

 けれどもスパッと切られたかのように、それは一方的に投じられただけだった。

 ダイキニは、今日もバンジージャンプをしているのだ――。

 宇宙に開いた別世界への穴、ブラックホールに。

 急いで天の川銀河の一番大きないて座Aへ向かう。

 あてずっぽうでもない。

 おそらく彼はヒューマニストだ。

 ならば地球の有る銀河系を選んでいるはずなのだ。

 それでもそわそわも、気もそぞろにもなりもせず、相変わらず本を読み続けていたのは、ひとつは自分を相対化したかったからだろうか。

 それともわたしは歳をとり過ぎているからかもしれない。

 その恐ろしいまでの落ち着きが、わずかな変化をさえ見逃さなかった。

 何かがそんなに近くない近傍を過ぎ去っていった。

 分かったのは、重力の異常があったからだ。

 引っ張られる重い感覚。

 すぐさま分析にかけてみる。

 そしてAIに推論させる。

 出てきた結果は、すぐには信じられないものだった。

「ブラックホールの高速移動?」

 しかも、意思を持っているかのように軌道を変えていた。

 理解不能の動きだ。

 気配が消えた、としか言いようがない暗冥の静寂が訪れる。

「ブラックホールの高速移動、珍しいけどありえない現象じゃないよ」

 まるで身を隠したかのような行動もそうか?

 マイクロブラックホールを磁場に閉じ込めた装置を使い、重力波を全方位へ発してみた。

 センサーをそばだてて、かすかな放射線のほうも見逃さない。

 無限の苦行に思われた。

 伸びきった時間がただそこに横たわっている。

 何回も、何回も試行してみる。

 データが上がってきた。

 窓の外の広がりに思いをはせた。

 本の上に手を置いて、空間と一体となって考える。

 今のわたしのカラダも告げている。

 わたしには、これが求めていたものではないかと当たりをつけた。

 たぶん、そう。

 これはダイキニも絡まっている。

 ブラックホールは隠れんぼをしているのだ。

 

 

 

 

 

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